今回の実例は、Twitterから。
北米の中部から東海岸にかけての広いエリアで、冬の嵐が猛威をふるっている。Twitterで北米の報道機関やジャーナリスト、市民のフィードを見ていると、雪には慣れているはずの地域の人たちが本当に外出できないレベルの雪に見舞われているということがわかる。新型コロナウイルスのワクチン接種も、荒天の間はひとまず中断で、この期間に予約を取っていた人たちは繰り延べか予約の取り直し(リスケジュール)ということになったそうだ。この嵐についての2月2日付ワシントン・ポスト記事:
さて、今回の実例は、この荒天のなか、ニューヨークから送信されてきたツイートより。2件の連続ツイートだ。堅苦しくなく、なおかつ崩れすぎていないごく普通の、会話体の英語の文面である。
Contrary to common perception, New Yorkers are actually nice.
— Nathan McDermott (@natemcdermott) 2021年2月1日
Someone on my street saw a parked car with the sunroof open and put an umbrella on top! pic.twitter.com/FsK1hWOJX0
Man a lot of y’all really want to be miserable in the replies. I inquired with umbrella man and kept an eye on it afterward! It’s legit.
— Nathan McDermott (@natemcdermott) 2021年2月1日
Dumb of original car owner, but legit of umbrella man
1件目のツイートの最初の文:
Contrary to common perception, New Yorkers are actually nice.
《contrary to ~》は受験でも頻出の基本熟語で「~とは反対に」といった意味。
"common perception" という表現は、読めばわかるが自分で英語を書くときに使えるかというと微妙、という表現だろう。「一般的な認識」という意味だが、日本語でカジュアルに「常識を疑え」とかいうときの「常識」は、英語ではcommon senseというよりもcommon perceptionに近かったりもする。
文意は「一般的に考えられているのとは違って、ニューヨーカーは優しい」。
第2文は、当ブログおなじみのあの文法事項が出てくる。
Someone on my street saw a parked car with the sunroof open and put an umbrella on top!
《付帯状況のwith》である。ここでは《with + ~ + 形容詞》の形で「~が《形容詞》の状態で」……と言いたいところだが、ここではwithの句は副詞句(よく「独立分詞構文もどき」と説明されるもの)ではなく形容詞句になっている("a parked car" を修飾している)ので「状態で」ではなく「状態の」だ。
この形容詞句になっている付帯状況のwithについては、英和辞典の用例・例文に出ていると思う。例えば手元にある『ジーニアス英和辞典 第5版』には、"a man with a black coat on" という用例がある(p. 2410)。
文の主語である "Someone on my street" の "my street" は「私が住んでいる通り」。英語圏に限らず西洋では一般に住所を「~丁目」のような面で表さず「~通り」という線で表すということと関連付けて頭に格納しておきたい表現である。前置詞としてはonを使うということも重要だ。
ツイートの文意は「私と同じ通りに住んでいる誰かが、サンルーフを開けっぱなしの状態で駐車されている車を見つけて、上に傘をかぶせていった」。
こんなシンプルなことでも、自力で英語で書こうとするとなかなか難しいと思うだろう。そういう場合、ただ読んで終わりにせず、自分で使える例文にするために、対訳をつけてノートなどに書き留めておくとよい。自分なりの用例集・実例集を作るわけだ。
2番目のツイート。こちらは最後の行の前は、受験英語的には読み飛ばしてよい。
最初の2文は、変なリプライがつけられていることに対する文句で、口頭で言うようなくだけた言い方になっている。どうやら「やらせ写真でしょ」と言われたようで、「傘を置いた人に話を聞いたし、(僕が通り過ぎたら片づけたりするんじゃないかと思って)そのあとも見ていたけど、ほんとにほんとだった」。
2文目の "It's legit" のlegitはlegitimateの省略形で口語表現。とても肯定的な言葉で、日本語でいうと何か・誰かをほめて言うときの「ガチ」(これも相撲用語の「ガチンコ」の省略形である)に相当するのだが、元になったlegitimateが「合法的な」という意味であるために、英日翻訳で誤訳されることがとても多い厄介な語である。私が見たことのある誤訳では、非合法な薬物の密売という文脈で「あの売人はしっかりしたものを売っている(粗悪品は扱っていない)」ということを述べる "He's legit." が「彼は合法だ」と訳されていた。密売で「合法」も何もないだろうに。
そして最後の文:
Dumb of original car owner, but legit of umbrella man
このof, 《to不定詞の意味上の主語》について教わっているのではないかと思う。次のような形だ:
It was wise of you to remain silent.
(黙っていたのは賢い選択だったね)
この場合、remain silentしていたのはyouなので、youはto remainというto不定詞の《意味上の主語》になる。ここでその前置詞としてofが使われていることが注目されるのは、多くの場合は前置詞がforだからだ。
It was important for you to remain silent.
(君が黙っていることが重要だったんだ)
どういう場合にforを使い、どういう場合にofを使うかという点については、その前の形容詞が「その人の性質」など属人性の高いものを表す場合にofが用いられる、というのが大原則である*1。
今回の実例で用いられている形容詞のdumb, legitはどちらも「その人の性質」について言うものなので、dumb of ~, legit of ~という形になるわけである。
今回参照したツイートの主、ネイサン・マクダーモットさんはCNNのKFILEという番組で仕事をしている政治記者。最初のツイートのリプには、「親切なニューヨーカー」についての体験談がいろいろ集まっている。
※3170字
サムネ:
参考書:
*1:ただし、そこはことばであり、例外のない規則というものはないわけで、この点でも https://www.usingenglish.com/forum/threads/133030-wise-for-you-or-wise-of-you で指摘されているような例外のようなものがある。でも「例外」についてああだこうだ考えるのは、「規則」が身についてからでよい。