今回の実例は、報道記事から。
英国時間での日曜日、サッカーの「欧州スーパーリーグ」に12のクラブが参加を確定したというニュースが降ってわいて出て、私の見る画面上の英語圏はその話でもちきりという状態である(日本語圏はガースー訪米でもちきり)。それも、見渡す限り、だれも歓迎していない。
下記のガリー・ネヴィル(元マンチェスター・ユナイテッド)の「情けない」という激怒の発言は、クラブの垣根をこえて広くファンの間で肯定的にシェアされているし、報道記事でも多く引用されている。聞き取りは大変かもしれないが(マンチェスター弁なので母音が違う。大まかに言うと「ア」が「オ」になっている。"Enough is enough." は「イノフ・イズ・イノッフ」というように聞こえるはずだ)、聞いてみてほしい。
😡 | "I'm a #MUFC fan and I'm absolutely disgusted."
— Sky Sports Premier League (@SkySportsPL) 2021年4月18日
💥 | "They are an absolute joke."@GNev2 gives a brutally honest reaction to reports that England's biggest clubs are expected to be part of plans for a breakaway European Super League. pic.twitter.com/VfJccHgybc
今回の「欧州スーパーリーグ」とは、上位層のクラブだけで入れ替わりを許さない形で組んで(政治の世界の「G7」みたいなものだ)、その中で観客も放映権も集めてうはうはやっていこうというもの。いわば「選ばれた人しか入れない会員制のクラブ」みたいなものだが、笑ってしまうのはその「上位層のクラブ」が、現在、(残念ながら)全然上位層でなかったりするところだ(上の映像でガリー・ネヴィルが言っている通り)。これらのクラブの共通点は「上位層である」というよりも「オーナーが外国の資本家」だったりということだ。つまり、欧州のいわゆる「フットボールという文化(フットボール・カルチャー)」と離れてきた「ビジネスとしてのフットボール」の運営者たちが、利益の最大化を画策している、と言ってよい。きっと「ビジネスとしては最適解」云々と擁護する人は、うんざりするほどたくさんいるだろう。
実はこの「スーパーリーグ」、メンツを見ればわかる通り、けっこう前に構想されていたものの実現には至っていなかった(日本語で検索したところ、「サッカー批評」掲載の大住良之さんの批判的な論説で、この構想の経緯がコンパクトにわかりやすく解説されている)。しかしここにきて、新型コロナウイルスのパンデミックによる膨大な損失の発生という局面で、クラブ経営陣が踏み切ったようだ。動機は端的に「カネ」である。まったく、「スポーツとカネ」というのは、今回のオリンピック東京大会をめぐるあれこれを見ても、全然クリーンでもフェアでも何でもない。スポーツ自体は単なる「興行」「見世物」で、重要なのはそれが生じさせるカネの流れ(それも循環的な流れではなく、一方的に入るところに入るだけの流れ)だけなのだろう。
https://t.co/Pa7M1ZQIto 'The impetus for the breakaway league is thought to have come from the Real Madrid president, Florentino Pérez, although Liverpool’s John W Henry, Joel Glazer of Manchester United, the Arsenal owner, Stan Kroenke, and Andrea Agnelli of Juventus have ...
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年4月18日
'... been touted as potential vice-chairmen of the new competition, which would be financed by the US banking giant JP Morgan.' パンデミック下で、アメリカン・グリードが、よその地の文化(「文化」っていうと文句が来るから「カルチャー」とすべきか)をぶっつぶして汁を吸いたがっている。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年4月18日
My family has been supporting Arsenal for 75+ years.
— James Hooker (@jameshooker01) 2021年4月18日
I’ve been raised to believe that my club were amongst the classiest clubs around but obviously not anymore.
You’ve betrayed the support of every fan, past and present @Arsenal today.#kroenkeout #NoToEuropeanSuperLeague
Not even an Arsenal fan, but #KroenkeOut pic.twitter.com/JtK8njyT8X
— Kingsleyfcb (@kingsleygoalman) 2021年4月18日
A few photos relevant to the disgraceful greed, want and pushing of the working class out of a working class game. #FSGOut #GlazersOut #KroenkeOut - Football in. pic.twitter.com/qIV55OH5Kg
— Joshua Stokes (@JoshStokes31) 2021年4月18日
The @AST_arsenal on European Super League:
— Chris Wheatley (@ChrisWheatley_) 2021年4月19日
"This represents the death of everything that football should be about."https://t.co/ozfgrC4DIo
こうやって西欧の社会の中に深く根差している文化(カルチャー)をぶっ壊すことがうれしくてたまらないという様子のフィードもあるのだが:
Dear AC Milan, Arsenal , Atlético, Chelsea, Barcelona, Internazionale, Juventus, Liverpool, Manchester City, Manchester United, Real Madrid and Tottenham fans,
— FC Spartak Moscow (@fcsm_eng) 2021年4月18日
If you need a new club to support, we're always here for you.
Kind regards,
FC Spartak Moscow.
……と、本日のこのエントリ、実は下書きを保存できてなくてまた一から書き直しているうちにあれこれ付け足してしまったのでこの時点で3200字を超えてしまったのだが、実例として見るのはこちら、最初にこの「欧州スーパーリーグ」に12のクラブが署名したということを報じたBBC記事より(最初の記事がどんどん上書き更新されて、情報は整理されながらも増えている) :
記事中ほどのところから:
第二文と第三文:
Uefa had hoped the plans for a new 36-team Champions League - with reforms set to be confirmed on Monday - would head off the formation of a Super League.
However, the 12 sides involved in the Super League do not think the reforms go far enough.
ここでは、《冠詞》の使い分けによって、「スーパーリーグ」と称する2つの別々のものが表されている 。記事全体としては、後者の、12クラブが新規で立ち上げる "the Super League" について伝えている。《定冠詞》のtheを使って表されているこちらは、固有名詞の「スーパーリーグ」と考えてよかろう。
一方で、UEFAが想定していた「(固有名詞の)スーパーリーグ的なもの」は、《不定冠詞》で "a Super League" と表されている。第二文は、head off ~という言い回しが難しいが(英語はこういう《基本語+前置詞・副詞》の句動詞が厄介である)、これは「~を阻止する、~をさえぎる」という意味で、文は「UEFAは、新たな36チーム体制のチャンピオンズ・リーグの構想が、スーパーリーグ的なものの結成を阻止することになると見込んでいた」といった意味になる。
そして、この第二文の途中で、ダッシュ/ハイフンを使って《挿入》されている部分(青字で示した部分)は、《付帯状況のwith》の構文だ。"with reforms set to be confirmed on Monday" で、setという動詞は活用が set - set -set なので分かりづらいが、"set" は《過去分詞》で「reformがsetされた状態で」。つまり「諸改革が月曜日に確定されることになっている状態で」。
よって第二文の文全体は「UEFAは、新たな36チーム体制のチャンピオンズ・リーグの構想の詳細を月曜日に発表することになっていたが、それがスーパーリーグ的なものの結成を阻止することになると見込んでいた」というように意訳できる。
UEFAとしてはその目論見が失敗したわけだが。
※4400字