Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】cannot + 比較級, 助動詞could, to不定詞の否定形, など(EURO 2020, 試合中にピッチで突然倒れたフットボーラーと、チームメイトたち)

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このエントリは、2021年6月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、報道記事から。

日本でも大きく伝えられているが、サッカーの試合中に、プレイに関係しない原因によって、プレイヤーがピッチでいきなり倒れるというショッキングな出来事があった。倒れたのは、現在はイタリアのインテルミランに所属するクリスティアン・エリクセンで、デンマーク代表の背番号10というスター・プレイヤーだった。サッカーの欧州選手権EURO 2020での出来事である。

EURO 2020は、新型コロナウイルスによる1年延期を経て、この6月11日から開催されている。エリクセン選手が倒れたのは、デンマークの首都コペンハーゲンで行われていた開幕戦でのことだった。

EUROは、いつもはどこか1つの国に開催地を決めて行われるのだが(2か国共催の例もある)、2020年の大会については、2012年の時点で既に、開催国を決めず12の都市で分散開催されることが決定していた。開催都市は2014年9月に決定・発表され、新型コロナウイルスによるパンデミックという予期せぬ事態の出来にあたっても、いくつかの例外*1を除いて、基本的にそのまま分散開催で行われることになった。

こうして西はセビージャ(スペイン)から東はバクー(アゼルバイジャン)までという広域で開催されることになったEURO 2020だが、観客は入ることは入るものの大幅に人数が減らされているという形で(詳しくは英語版ウィキペディアの "Spectator limits" の項を参照。日本語圏ではここまでの詳しい情報はないみたい。一般的に、英語で書かれている情報量と、日本語でのそれとの間にものすごい量的な差がある以上、こういう調べものは必要になってくるし、こういう調べものは、どんなに機械翻訳が発展しようとも、ある程度は英語を使える人でないと、使い物になるような速度と精度をもってはできないだろう)、「大勢のサポーターが大挙してよその国に出かけていく」という、サッカーの国際試合での名物的なことは、今回はかなり縮小された状態になるだろう。それでも、準決勝と決勝は、デルタ株の感染がちょっとやばい感じになってきているイングランドのロンドン(ウェンブリー・アリーナ)で行われるわけで、サッカー観戦のために今のイングランドに人が行くのか……と、かなり微妙な気持ちでニュースを見ているのだが。

閑話休題。11日の試合で倒れたクリスティアン・エリクセン選手は、心停止を起こしていたということが、13日にチーム・ドクターによって語られている。

www.bbc.com

エリクセン選手は、ボールのないところを歩いていて、突然前のめりにぱったりと倒れこんでしまったのだが、試合中だったチームメイトや相手チーム(フィンランド)のメンバーが迅速かつ的確に行動し、チームのメディカル・スタッフもすぐさま対処できたことで、一命をとりとめた状態と言ってよいようだ*2エリクセン選手がピッチから担架で運ばれていったあと、スタジアムではそれぞれのチームのサポーターたちが「クリスティアン」と「エリクセン」の名を交互にチャントして、スタジアム全体が彼の健康を祈っていることを表現していた。

そのような状況で、試合はそのまま中断となり、後日仕切り直しになるのかとも思われていたが、最終的にはエリクセン選手の生命に別条はないことが確認されたあとで再開され(2時間ほど中断されていた)、フィンランドが1-0でデンマークに勝つという形で終わった。今回の実例は、その試合後に行われた監督のインタビューについて伝える記事から。こちら: 

www.bbc.com

記事の真ん中から少し下のあたりに、カスパー・ヒュルマンド監督*3の発言が出ている。その部分。なお、映像で確認できる限り、監督はデンマーク語で話しており、英語の文面はデンマーク語から英語に翻訳されたものと思われることをお断りしておく。

f:id:nofrills:20210614192551j:plain

https://www.bbc.com/sport/football/57457388

言語サンプルとしては、否定の使われ方が非常に興味深いのだが、日本語母語話者にとっては、これを読むのはかなり難しいのではないかと思う。私が高校のときならわからなくて泣いてた。ちなみに、話題のDeepL翻訳などをはじめとする機械翻訳(ニューラル翻訳)も、このタイプの否定文を正確に処理できるとは限らない(というか、機械翻訳はどんなタイプの文も正確に処理できるとは限らないし、入力するたびに出力結果が異なるものなので、そもそもまともな検証すらできない)。

実例として見るのは3つ目のパラグラフ: 

I couldn't be prouder of those people who took such good care of each other. 

太字にした部分に含まれている "could" は、canが時制の一致(か何か)で過去形になったものではなく、現在のことについて用いられるcould(仮定法由来)で、「~できよう」くらいの意味になる(ここではnotを伴う否定形だから「~できなかろう」となるが)。

そして、《cannot + 比較級》は「(主語は)これ以上~になることはできない」と直訳されるが、要するに何が言いたいかというと「最高に~だ」という意味である。
英語のこのロジックがすっと飲み込めるかどうかは人によるのだが、これがすっと入る人は英語とは相性がよいと言えるので、どんどん頑張っていってほしい。私はしばらく考えた挙句に「ああ、なるほど!」とストンと落ちるタイプだったのだが、ちょっと考えてわからないという人も、そこであきらめずにもう少し考えてみてほしい。日本語でも「この上なく~だ」という表現があるが、それに似ている。

  日に干してふかふかのお布団の寝心地は、この上なく快適だ。

  =日に干してふかふかのお布団の寝心地は、最高に快適だ。

この「この上なく」は「この上を作ろうとしても無理だ」ということである。

  =日に干してふかふかのお布団以上に、寝心地のよい寝床を作ろうとしても無理だ。

「日に干してふかふかのお布団の寝心地は、この上なく快適だ」という文は、このレベルの大絶賛、賞賛の言葉である。

同様に、"I couldn't be prouder of those people" も "those people" に対する大絶賛の言葉で、「私は、それらの人々のことを、これ以上誇りに思おうとしてもできない(くらい、誇りに思っている)」=「私は、それらの人々を、この上なく誇りに思っている」という意味である。

1文飛ばして、このパラグラフの最後の文: 

The way the players talked in the dressing room to decide to not do anything before we knew Christian was conscious and OK.

「文」と書いてしまったが、これはS+Vの文の構造は持っておらず、日本語の用語でいえば「体言止め」になっている(これでも「文」と呼ぶことはできるのだが、文法上の「文」ではない)。「選手たちがロッカールームで話をしていた、その方法」と直訳されるが、具体的には「選手たちの話し方、口ぶり」という意味でもあろうし、「選手たちの議論の進め方」でもあるだろう。

太字にした部分が《to不定詞の否定形》で、標準的な形では《not to do》となるはずのところが "to not do" と、toとnotの位置が逆転している。これは文法的には《非標準》だが、近年ますます許容されてきている語順で、2021年にBBC Newsがデンマーク語から英語への翻訳文でこの形を使っているということは、ちょっと書き留めておいてもいいんじゃないかなと思う。

意味は「クリスティアンが意識を取り戻し、無事であることがわかる前には〔わかるまでは〕何もしないと決定した(ときの)ロッカールームでの選手たちの話の状況」という感じだ。

なお、UEFAのEURO 2020の公式Twitterアカウントはこのあと、エリクセンの無事が確認されて試合が再開されたことについて、「選手たちの要望で」的なことを発言しているが、実際にはUEFAが示した選択肢が「このまま今晩試合を再開して90分を終えるか、翌日に持ち越して試合の残りを行うか」の二択だったということで、「どっちも無理でしょ」という批判を集めている。ヒュルマンド監督がこのインタビューで述べたのは、「エリクセンの容態について不確かな状態のままいったん帰宅して、翌日ピッチに戻るよりは、今日このまま試合続行したほうがましだった」ということで、これは相手のフィンランドのチームにとっても、別会場(別都市)で行われたもう1つの試合(ベルギー対ロシア)に出場するプレイヤーたちにしても同じだっただろう。

以下、UEFA EURO 2020のアカウントの発言の記録: 

 

 

 

 

 

 

 ※最後のUEFA EURO 2020のアカウントの貼り付けを除いて、3900字

 

 

 

 

 

*1:アイルランドのダブリンは、感染状況がよくならないので開催地から外された。スペインではバスクビルバオの試合がセビージャに移されることになった。

*2:デンマークの選手たちは、倒れたエリクセンの治療に当たるメディカル・スタッフの回りに円陣を組むようにして立ち、スタジアムの観客の目と中継・報道のカメラの目を遮り、治療に専念できる環境を作った。またピッチサイドに下りてきて立ち尽くすよりなかったエリクセンの配偶者を勇気づけた選手もいた。

*3:Kasper Hjulmandというお名前の読み方は

https://www.soccer-king.jp/news/world/euro/20210613/1539058.html などを参照した。 

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