今回の実例はTwitterから。今日は事項解説なしで文法だけにするから短いよ。
昨年11月、オバマ元大統領の回想録の記述に含まれていた "A if B" という構文について何度かエントリを立てたところ、当ブログとしては例外的としかいいようがないくらいに広く読んでいただくことができた。
どういう内容だったかを簡単に言えば、 "A, even if B" (「たとえBであっても、Aである」)という構文からevenが落ちることがよくあり、さらにはコンマすらも落ちることがあって、当該のオバマ回想録の一節にある "pleasant if awkward" はその構文である、という解説だった。直訳に近い形で意味を示すと、「少々ぎこちなさはあれども、気持ちのよい人物であった」となる。
この構文では、"(even) if B" の方がつけたしで、メインは "A" である。下記はカフェのレビューの記述から:
Definitely not worth a sit down visit but the merch shop was alright even if expensive*1
(わざわざお茶を飲みに行くようなカフェとは言えないです。ただグッズ売り場は、高いけれど、けっこうよかったです)
この記述は、「高い」ということを主要な情報として伝える記述ではなく、「けっこうよい」ということを伝える記述である。
この "形容詞A, even if 形容詞B" の構文は、even ifの直後に《主語+be動詞》が省略されている。上のカフェのレビューの例文で言えば次のようになる。
... the merch shop was alright even if [it was] expensive
さらにまた、この構文からは、上述したように "even" が落ちることがある。つまり次のようになることもある。
... the merch shop was alright if expensive
どの形であれ、同じ意味だと判断できるようにしておかないと、英文を書いてある通りに読むということはできないだろう。
というわけで今回の実例:
This is a brilliant, if shocking, article by @Josephineperry who was attacked while swimming. Naively I had no idea how frequently this happens to female swimmers. https://t.co/mACOO0VfEh
— Rosamund Urwin (@RosamundUrwin) 2021年7月4日
これは、英国の新聞The Sunday Times(サンデー・タイムズ*2)の記事を紹介するツイートである。ツイート本文の書き出しのところ:
This is a brilliant, if shocking, article
これが、上述した《A if B》の構造(ただしコンマは残っている)になっている。意味は「これは、ショッキングではありますが、すばらしい記事です」。
解説されると「なーんだ、そんなことか」と思うかもしれないが、これを解説なしで読めるようにするには、けっこう場数を踏む必要があると思う。そして場数を踏もうにも、ものがものだけに、ウェブ検索して例文をがさっと集めて読んでみる、ということができない。構文の鍵となるのは "if" だけで、この単語がキーとなる例文など、ウェブ検索のしようがない(ウェブ検索だけでなくコーパスでも辞書の例文でも、「検索」にできることを超えている)。
というわけで、見たときに書き留めておくといった方法で、自分の中で参照可能なデータベースを作っていくのがよいだろう。
ツイートの文面のこの後の部分は、特に解説の必要はないだろうが、一応見ておこう。
... (article) by @Josephineperry who was attacked while swimming. Naively I had no idea how frequently this happens to female swimmers.
太字で示した "who" は《関係代名詞》。下線部は《副詞節内での主語とbe動詞の省略》 で、省略せずに書けば "while she was swimming" となる。この省略は、節内の主語と主節の主語が一致している場合に起きる。ここまでで、意味は「泳いでいる間に、攻撃されたジョゼフィーン・ペリーさんによる(記事)」となる。
次の文、青字で示した "have no idea" は "don't know" と同じ意味で、英国では非常によく使う("don't know" よりもよく見聞きすると思う)。朱字で示した部分は《疑問詞節》(間接疑問)で、「いかに頻繁に、これが起こるか」。
サンデー・タイムズは、記事を読むには有料で読者登録をしなければならないが(タイムズと共通のサブスクリプションとなっている)、冒頭部分だけは通りすがりの未登録者でも読めるようになっているので、関心がある方はそこだけでもぜひ。トライアスロンの大会を控えた女性アスリートが、地元の公立プールで泳いでいたら、ターンをしたときに男に足首をつかまれて水面に浮上することができず、おぼれ死ぬかと思った、という体験談から始まっている。その男がなぜそんなことをしたかというと「女のくせに俺を追い抜いて生意気だからガツンと言ってやろうと思った」ということらしい。そんな内容だから、この記事をツイートしたロザムンドさんは「ショッキングな記事」と言っているのだろうが、たぶん、これは女性のアマチュア・アスリートにとって「あるある」でしかない。
※2670字。いつもこのくらい簡単に書けるといいんだけど。