このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。
-----------------
今回の実例はTwitterから。
3月17日といえばセント・パトリックス・デー(聖パトリックの日)である。聖パトリックはアイルランドにキリスト教を普及させた人で、アイルランドの守護聖人である。彼が没した日は記念日となり、アイルランドでは特別な意味合いを持つ祝日とされてきたが、いろいろ厳しいことがあってアイルランドを去らざるを得なかった世界各地のアイリッシュのディアスポラ(離散アイルランド人)にとっては格別な意味を持つ日で、特に北米のアイリッシュは、この日を自身のルーツを確認する日として大々的なパレードを行って祝ってきた。一方、本国のアイルランドでは、最近までこの日はさほどの騒ぎにはなっていなかったというが、今ではアイルランドの各都市(北アイルランドも含む)で盛大なパレードが行われるようになっている。詳細はウィキペディア参照(日本語版にもエントリはあるが、情報量が少なさ過ぎて英語版とは比べ物にならない)。
この日は、パレードがおこなわれる場所では、多くの人々が見物のために沿道に並び、パレードが終わったらみながパブなどで飲みまくる、ということになっている。つまりとても人が多く、とても密集していて、とても濃厚接触が多くなる。
アイルランドは今のところ、新型コロナウイルスの感染は限定的である。3月9日の時点でアイルランド共和国と北アイルランドを合わせて、感染件数は33件だ。
To date 33 cases of the virus have been confirmed on the island of Ireland. #COVID19 #Coronavirusireland https://t.co/mNMq8b4DfU
— Farmers Journal (@farmersjournal) 2020年3月9日
※アイルランド共和国政府の確定件数は下記にて:
https://www.gov.ie/en/news/7e0924-latest-updates-on-covid-19-coronavirus/
しかし、セント・パトリックス・デーという大規模なイベントを契機として、何がどうなるかわからない。3月9日(月)、当初アイルランド共和国政府(というか、2月のはちゃめちゃな選挙結果を受けて次の内閣が決まるまでのケアテイカー、つまり暫定内閣が率いる政府)はこの祝祭を中止するのに及び腰だったが、数時間のうちに「中止」という方針を固めたようだ。
というわけで、今回の実例は、その方針を公にした首相(ケアテイカー首相)の会見の実況から。
Taoiseach Leo Varadkar says even if the health service was twice the size of it is now we would still struggle | Read more: https://t.co/Rg8yc8vmvk #coronavirus
— RTÉ News (@rtenews) 2020年3月9日
even if the health service was twice the size of it is now we would still struggle
《even if ~》は「たとえ~でも」。このevenは副詞である。
そして太字で示した部分。これは《仮定法過去》である(同紙に注目しよう。if節内がwasで、帰結節がwould struggleとなっている)。上記と合わせ、「たとえ~であるとしても、…だ」という意味になる。
青字で示した部分は《倍数表現》を含んだ重要な表現。《~ times the size of ...》で「…の~倍の大きさ」という意味だが、ここではtwiceが用いられていて「…の2倍の大きさ」の意味だ。
よって、この文全体は、「たとえ、健康(医療)サービスが現状の2倍のサイズだったとしても、それでも大変だろう」ということ。
コンパクトな文だが、重要な文法事項が次々と出てきていた。
こう述べた暫定首相のレオ・ヴァラドカー(ヴァラッカー、バラッカー)は、職業としては医師(一般医、GP)で、報告される数値を見たり感染症の専門家の説明を読んだり聞いたりしたときの理解の深さと速さは、医学に関わったことのない政治家とは比べ物にならないくらいだろう。
セント・パトリックス・デーのパレードを中止するという決断は、今のアイルランドにとってそんなに簡単なものではないだろうが、ここで人の流れ・動きを最小限にとどめるという選択をしたことは、人々全体のためによかったのではないかと思う。
参考書: