Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

省略(英最高裁の「議会閉鎖は違法」との判断に、「街行く市民の声」を集めるマスコミがマイクを向けたのは……)

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※今日は文法解説というより、ゆるゆると読んでいただければいいという内容です。

今回の実例は、英国の最高裁によるまさに歴史的な裁定を受けて個人の身の上に起きた小さな出来事について書かれたTwitterから。

「英国の最高裁による歴史的な裁定」というのは下記の記事を参照。詳しくは、さすがにこの件はこのブログじゃなくて本家のブログ(nofrills.seesaa.net)に書くつもり。

www.bbc.com

 

で、この最高裁での裁定を、ネットでの生中継で見ながら、何人かの法律専門家がTwitterで実況していたのだけど、そのひとりがデイヴィッド・アレン・グリーンさん。先日スコットランドの法廷で英国会閉鎖は法律違反との判断が示されたときに当ブログで参照したフィナンシャル・タイムズ掲載の解説記事の筆者である*1

グリーンさんは、Twitterでの実況が終わったあと、ラジオ局LBCに電話出演してコメントしたりしていたのだが(とても明解でポイントがわかりやすかった)、そのあとで建物の外に出たときに、「市民の声」(vox pop: vox populiの略) を集めているマスコミに遭遇したという。それをおもしろおかしく報告するツイート: 

今回は先に文意から解説しよう。

まず、グリーンさんのこのツイートは「(笑)」を意図したもので、「マスコミガー」と噛みつくようなものではない(日本語圏ではマスコミの取材について述べているというだけでそこを誤読してかかる人がとても多いと思うので、蛇足だけど一応はっきり書いておく)。

 

文意は、「ウエストミンスター地区で、フランスのメディアに呼び止められた。ラジオでの『街行く市民の声』の取材で、今日の最高裁の判断についてどう思うかという内容。というわけで、今頃フランスのメディアは、イングランドではその辺を歩いている人が、この件について、どうかしてるんじゃないかというほど詳しい、という印象を抱いているのではないか」。

つまり、メディアが裁判所の判決について感想を聞こうと「その辺を歩いている人」を捕まえてみたら、相手が法律の専門家で、めっちゃ詳しかった(「一般市民の声」の範囲を軽く超えている)、というオチ。

そういうことが、グリーンさんのこの無駄のない英文(無駄がないからこそ行間を読まなければならない部分はある)で綴られていると、無性に可笑しい。

 

グリーンさんのこのツイートには、類例を報告するリプライがいくつかついている。例えば: 

 「BBCリヴァプールで、高齢者を捕まえて1967年のマージーサイド・ダービー*2を覚えていますかとインタビューしていたときに、マイク突き付けられた人の1人がGKのトミー・ローレンスだったことがありましたね。あれはおかしかった。ローレンスは『覚えてますよ、あの試合でプレイしてたんだから』とだけ答えてましたが」。これはBBC Newsで記事になってたと思う。

 

それと: 

 「昔からの友人に、キューバ革命を真剣に研究している人がいるんですが、グラスゴーのショッピングエリアでチェ・ゲバラのTシャツを着ていたので、ブランドだのアイコンだのの取材をしているTVの取材陣に呼び止められたそうです。その時の映像は結局使われなかったんですけどね。15分にわたってキューバ史を講釈したらしいです」。(今どき、チェ・ゲバラTシャツなんか着てるのはファッションでやってる奴だけだろと思ったらガチの人だったという、グラスゴーや東ロンドンにありそうな話。)

 

マイク向けたら研究者だった、というのはほかにもあるみたいで: 

 「Brexit熱烈支持の町で、EUレファレンダムで投票したあとに、フランスのメディアからマイクを向けられた隣人がいます。取材陣的には、自分たちがインタビューしている相手がEU法を教えているなどとは考えてもいなかっただろうし、果たして取材陣が求めていた方向性のコメントだったのかどうか」。

 

オックスフォードやケンブリッジでは「街頭インタビュー」が取れない(犬も歩けば学者に当たる町なので)という話はよくあるんだけど、オックスブリッジに限らず、専門家はどこにいるかわからない、ということかと。

 

さて、文法解説。

まず、最初に見たグリーンさんのツイートの書き出し: 

Just stopped in Westminster by French media to do a radio vox pop on what I thought of the decision

この書き出しを見たら、先月日本語圏でleaveの過去形・過去分詞形も知らない人たちが「左翼」だなんだと大騒ぎした件を思い出さずにはいられないだろう。

あのとき、問題となったフレーズは "Just left" だったが、これも見た目は同じように見える。

"Just left" では主語が省略されていたのだが(日記文体)、今回の "Just stopped" も基本的には同じ、主語の省略だ。だが省略されているのは主語だけだろうか。

《省略》は、「日記文体」の場合は単に主語(一人称単数)を省略するだけだが、より広い範囲で*3日常的に用いられている《省略》においては、「主語+be動詞」が省略される(逆に言えば、日記文や会話の中でのやり取りでもない限り、主語だけを省略するということは、まずない)。

  日記文体:

  I played the piano for an hour. I made tea. 

  → Played the piano for an hour. Made tea. 

  (ピアノを1時間弾いた。お茶を入れた)

 

  通常の省略:

  While he was playing the piano, he thought about the good old days. 

  → While playing the piano, he thought about the good old days.

  (ピアノを弾きながら、彼は古き良き時代を思った)

 

この「通常の省略」は、ここでは進行形の例文を使ったが、「主語+be動詞」が省略されるのだから、受動態でもSVCの文でも起きる。英語上級者の場合、《過去分詞で始まる分詞構文》や《形容詞だけの分詞構文》の例を思い出すと話が早いかもしれない。

  While (it is) widely used as a spice, especially in the winter months, Cinnamon also contains powerful medicinal properties.*4

  (特に冬の時期においてスパイスとして広く用いられる一方で、シナモンにはまた強力な薬効がある)

 

以上を頭に置いたうえで、もう一度、今回の実例の "Just stopped ..." の文を見てみよう。

Just stopped in Westminster by French media ...

いきなり "Just stopped" で文が始まることは英語ではありえないので、その前に何かが《省略》されていると考えられる。では、何が省略されているのか。日記文体で主語のIが省略されているだけか、それとも「主語+be動詞」が省略されているのか。つまり、"I stopped" なのか、 "I was stopped" なのか。

 

やっかいなことに、英語は多くの場合、過去形と過去分詞は見た目では区別できない。「過去形と過去分詞が区別できない」と言われても「ふーん」と流してしまうかもしれないが、過去形は能動態 (I played the piano.) で、過去分詞は受動態 (The piano was played by me.) であるということを考えれば、「ふーん」では済まないということがわかるだろう。意味を取るうえで、過去形なのか過去分詞なのかを正確に判定することは、「それができなければ全体が失敗する」レベルで重要である。英語など欧州の言語と日本語との機械翻訳でもそこがネックになることが多い。今回の例でも、ここを見ただけでは、stoppedが過去形なのか (I just stopped)、過去分詞なのか (I was just stopped) はわからない。

それを決めるのが、後続の部分だ。

Just stopped in Westminster by French media ...

byがあるということは、《受動態》と考えられる。そこで "I was just stopped by French media" と仮定してみると、「フランスのメディアによって呼び止められた」という意味が取れる。意味が取れるということは、この文が成立しているということだ。

一方、主語の I だけが省略されていると仮定すると、意味がうまくとれない。そのことから、この文は「主語+be動詞」が省略された受動態の文と判断することができるのだ。

 

実際に英語を読むときは、これを2秒以内で終わらせたい(もちろん、ネイティヴ英語話者はそんなに時間をかけずに瞬時に判断している)。

 

さて、上の方でいくつか見てきたツイートの中に、他にも《省略》が入ったものがある。お気づきだろうか。 

下記のツイートである。

このツイートの第二文:  

Don't think they expected to be interviewing someone who teaches EU Law, and not sure that was the angle they were going after.

いきなり "Don't think" で始まっているので、教科書通りのカチカチ頭で考えれば「~と考えてはいけない」という否定の命令文だと判断してしまうかもしれないが、ここはそうではなく、主語の I が省略された日記文体だ。つまり "I don't think they expected ..." という文。「彼らが(過去において)…と予期していたとは、私は(現在)思わない」の意味である。

そしてそのあとの "and not sure" も、「主語+be動詞」が省略されていて、元は "and I am not sure" である。

 

この事例は、大学受験生にはやや難しすぎるだろう。「ああ、こういうふうなんだー」と読み流していただいて構わない。読み流したうえで「英語は一筋縄ではいかない」ということだけは記憶に残していただければ。

 

【ボキャビル】

出てきたから解説を添えておくが、私も今回「なるほどなー」と思ってメモっている表現がある。

日本でもどこでも、マスコミが「街の人々の声」を集めて素材とするときは、自分たちの想定したストーリーに合うように選んだり編集したりするというのは当たり前である。

その「マスコミが想定するストーリー」をそのまま英語に直訳すると、英語として意味が取りづらい文面になってしまうのだが、最後に見たこのツイートにある通り、"the angle they were[are] going after" という表現を使えば、スマートに表せるだろう。

「アングル」というカタカナ語を知っていても、angleをここでこういうふうに使うという発想は、なかなか自分からは出てこない。

 

私が大学受験のための勉強をしていたときに何度も言われた標語に「英作文は英借文」(えいさくぶんはえいしゃくぶん)というのがある。これは第一義的に、「例文を片っ端から覚え、その英文の形を借り単語だけ入れ替えて、自分で言いたいことを言えるようにしよう」という標語で、これは英語に限らず外国語学習では鉄板のやり方なのだが(その「覚える」という努力をせずに単語だけ並べてても通じるシロモノにはならないよ)、それと同時に、「遭遇した熟語や成句、決まった表現のようなものはそのまま変えずに自分で使ってみて身に着けよう」という意味でもある。要は「例文は読むだけでなく自分で使え」っていうことなんだけど、今回の "the angle they were[are] going after" という表現などはまさに「そのまま使って、自分の頭のなかに定着させる」ことができるものだ。

Twitterはそういう表現の宝庫であるわけで、使わずにいるのはもったいないと思う。

 

f:id:nofrills:20190927122058j:plain

2019年9月25日、Twitter @davidallengreen

 

参考書(《省略》については一般的な文法書は後ろの方にちょろっと載っているだけということが多い。前の方だけでなく最後の方もちゃんと見ようね):

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

 
英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

*1:グリーンさんは自分でリプライをチェックできないときなど、ときどきTwitterに鍵をかけてしまうので、ツイートが普通に表示されないこともあるかもしれないが、ツイ消ししてしまうわけではないので、表示されていない場合は翌日くらいに見てみるようにしていただければと思う。

*2:リヴァプールエヴァトンの試合のこと。

*3:つまりこの形の《省略》は日記文体でも用いられるし、そうでないところでも用いられる。

*4:英文出典: https://www.sesapure.com/sesa-says/spotlight-december-masala-chai 

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