Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】報道記事の見出し, 過去進行形の受動態, 等位接続詞andの構造, sipという動詞, 省略(デス・ヴァレー54.4度)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

このエントリは、2020年8月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は報道記事から。

米国西海岸の時間で16日(大まかに、日本では17日)、カリフォルニア州で気温が54.4度を観測したというニュースは、日本語のメディアでも報じられている。ただしそれが「世界最高」なのかどうかは、言ってることがバラバラな状態だ。

例えば朝日新聞は(「専門家の検証を経て、公式記録として認証されれば」というif節つきで、)この気温が世界最高気温となるということを見出しでも記事でも伝えている: 

www.asahi.com

NHKは見出しで「世界3番目か」と言っているが、記事の中身を読めば「信頼できない記録2件に次いで3番目」、つまり「世界一」と言っている(公共放送のニュースの見出しがミスリーディングなのは困ったものだ)。内容的には朝日新聞の報道と同じだ: 

アメリカの)国立気象局は正式な審査をしたうえで記録を認定することにしていて、認定されれば、1913年に同じデスバレーで観測された56.7度、1931年に北アフリカチュニジアで観測された55度に次いで、観測史上、世界で3番目に高い気温となります。

ただ、アメリカの複数のメディアは、これまでの記録はともに正確性が疑問視されているとして今回、観測された気温が「信頼できる記録としては世界で最も高い」などとしています。

www3.nhk.or.jp

共同通信記事(下記は産経新聞系ニュースサイト掲載)は漠然と「暑さ」と見出しを打っている: 

www.sankeibiz.jp

英語圏では、私が見ていた範囲では、「検証待ちではあるが世界最高気温」ということを、見出しで "record", "world's highest" といった語句を使い、また慎重な場合は引用符を使って(報道記事見出しの引用符は「誰かの主張」であることを示す記号である)報じていた。

というわけで今回の記事(ロイター)はこちら: 

uk.reuters.com

わかりやすい内容が読みやすく書かれている、さほど長くない記事なので、大学受験生なら(わからない単語を辞書で調べさえすれば)読めるだろう。

なお、今さっき確認したところ、私が見たとき(日本時間で昨日)とはけっこう記述が変わってしまっているが、今回実例として見る部分は書き換えられていないところから。

記事の最後の方。なお、このキャプチャ画像の最初のパラグラフ、"Only a couple of dozen people live in ..." は現在は消えていて、記事のもう少し上の方に "a population of 24" とある。"a couple of dozen" (2ダース)も "24" も同じことである。

f:id:nofrills:20200818144929j:plain

2020年8月17日, Reuters

キャプチャ画像2番目のパラグラフ(現在の記事では少しだけ書き換えられているが、記述の内容は変わっていない): 

Staff and guests at The Oasis hotel nearby were being urged to wear hats and sip water relentlessly while outside, according to general manager John Kukreja.

太字にした部分は《過去進行形の受動態》。過去進行形になっているのは、この文は、直接目に見える形ではないが実質的に《間接話法》であるため("he told that ..." ではなく "according to ~" の形で、誰かの談話であることを示している)、《時制の一致》が生じているからだ。

《進行形の受動態》は、《受動態》の《be + 過去分詞》のbeを進行形(be being)にする。つまり《be being + 過去分詞》という形になる。ここでは時制が過去なので、《be being + 過去分詞》の最初のbeが過去形になっているわけだ。

下線で示した《等位接続詞》のandは、何と何をつないでいるのかを確認しなければならない。ここでは、"and" の直後が "sip" という動詞の原形なので、"and" の前にある動詞の原形を探すことになる。

そうすると、"being urged to (wear hats and sip water)" という構造が見えるだろう。

日本語では液体を飲むことは「飲む」という動詞ひとつで表されるが(「暑い日に麦茶を飲む」でも「ディナーの席でワインを飲む」でも「プールで誤って水を飲む」でも全部「飲む」)、英語はこの「飲む」という動作をいくつかの動詞で表し分ける。sipはそのひとつで「少しずつ飲む」ことを言う。暑い日に麦茶をごくごく飲むようなときには使わず、寒い日に熱いお茶をふーふーしながら少しずつ飲むようなときに使う。有名な翻訳小説などでもこれが「すする」と訳されていることがよくあるが、「すする」はズーズーと音を立てる感じがするので、sipの訳語としては違和感がある。単に「飲む」でよいだろう。

なお、ぶんすか怒っている人に「まあまあ、落ち着いて、お茶でも飲んで」と声をかけるときの「飲む」はdrinkでもsipでもなくhaveを使って、"Have some tea" などという。オオ、英語、ムズカシーネ!

閑話休題。大変な暑さになるデスバレーでホテルの支配人が従業員や宿泊客に「帽子をかぶり、水を飲んでください」というときの「飲む」がsipで表されているのは、「がぶがぶと一気に飲むのではなく、少しずつ、絶え間なく (relentlessly) 飲んでください」ということを伝えているからだ。感覚としては、常に口の中を湿らせておくようにするということだろう。

青字で示した "while outside" の部分では《省略》が行なわれている。whileは接続詞だが、この節内の主語が主節の主語と同じで、動詞がbe動詞であるときは、主語とbe動詞が省略されることが多い。

  Can we vote while (we are) abroad

  (国外にいる間に選挙の投票はできますか?)

 

キャプチャ画像の一番下のパラグラフ: 

“You’re going to sweat and the sweat’s going to dry instantly and you’re never going to know you actually felt hot,” he said. “Your hair stands on end. It’s almost like you feel like you’re cold, like goose bumps.”

これは読んで内容を取って、デス・ヴァレーのような極端な暑さでは、たとえ世界新記録の高温にならなくても、こういうふうになるんだということを知っておくとよいかもしれない。いつまでも汗が乾かずに体がべたべたする日本の蒸し暑さとは質が違うようだ。

記事の上の方にあるが、この日の湿度は7%にまで下がっていたという。

7%なんて私は経験したことがないと思うが、イカや魚を干しておいたら即座に干物になりそうな数値だ。洗濯物もすぐに乾いてしまうだろう。

ちなみにデス・ヴァレー観光の拠点となるこのファーネス(ファーニス)・クリークの「ファーネス furnace」は、「炉、窯、溶鉱炉」という意味だ。暑さが尋常でないから、英語話者によってこのように名付けられたのだろう。

 

なお、この件が報じられたとき、日本語圏では「世界最高気温は1921年のバスラ(イラク)の58.8度では」という反応が出ていたが、バスラのその気温は現在では否定されている。

1921年には最高気温53.8℃を記録したとされている。気象学関係の日本語文献では長らく世界最高気温の記録としてバスラにおける58.8℃が紹介されてきていたが、そのデータ出所について疑問が提起され、実際の観測値は Clemence (1922) が報告した 128.9°F(53.8℃)だった可能性が高いことが、気象庁気象研究所の藤部文昭によって指摘された。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%A9

気象庁気象研究所の藤部文昭」さんの論文は下記。

https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2013/2013_02_0037.pdf

 

しかも、講談社ブルーバックスのブログによると……

1921年のこの日、イラクのバスラで58.8度という観測史上最高気温が記録された……という話を耳にしたことのある方は多いのではないでしょうか。

しかし、じつはこれ、日本以外ではほとんど知られていない記録なんだそうです。近年の調査によれば、もともと53.8度だった数値が58.8度と誤って日本の書籍に記載され、それが広まったのではないかといわれています。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56067

 

 参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。