Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】感情の原因・理由を表すto不定詞, to不定詞の意味上の主語, 未来進行形など(ワクチン接種の2人目はウィリアム・シェイクスピアさん、81歳)

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このエントリは、2020年12月にアップしたものの再掲である。

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前回述べたように、英国の各地域(イングランドウェールズスコットランド北アイルランド)で、新型コロナワクチンの接種が開始された。

今回は、開始初日の、イングランドNHS(National Health Service)の告知や接種報告のツイートを見ていこう。

 最初の文に《不定詞の意味上の主語》と《to不定詞》があるのがおわかりだろうか。そう、"for the historic #CovidVaccine to be rolled out ..." だ。さらにここではそれが、《be excited to do ~》の形、つまり《感情の原因・理由を表すto不定詞》になっている。さらにいえば"to be rolled out" は《to不定詞の受動態》である。

"We are beyond excited" のbeyondは「~を超えている」つまり「~どころではない」の意味で、「とんでもなく」くらいの強調の表現。veryよりさらに上の意味合いだ。つまり直訳すると、「明日から、全土で、歴史上画期的な新型コロナウイルスのワクチン(の接種)が順次実施されていくことで、たいへんに気分が上向きになっています」。

そのあと、"We'll be vaccinating people" は《未来進行形》で「~していくことになる」。"wait for the NHS to contact ..." は《wait for ~ to do ...》の形で「~が…するのを待つ」の意味。「この先の何週間・何か月間かにわたってみなさんにワクチンを接種していきます。順番になったらお知らせするためNHSから連絡をしますので、それをお待ちください」の意味。つまり、ワクチン接種の案内が届くまで待っていてくださいという告知だ。

 

次。これはイングランドではなく英国政府の保健省からの告知: 

 1行目の "is starting" は《近未来》を表す現在進行形で「今日、UKで新型コロナウイルスのワクチン接種プログラムが開始することになっています」。

2文目の "each nation" はUKを構成する各ネイションのことで、具体的にはイングランドウェールズスコットランド北アイルランド。それら4つのネイション別々にHealth service(つまりNational Health Service, NHS)があり、そこが接種を実施することになっている。

優先順位は各地域ごとにつけられているが、高齢の入院患者やケアホーム住人、医療従事者(とりわけ、ワクチン接種を担当する看護師、コロナ病棟の医師・看護師)、ケア従事者といった人々が最優先となっている。そういった人々には近いうちにワクチン接種のお知らせが届くことになっている、というわけだ。

 

さて、前回の拙ブログでは「最初の1人」となったマギー・キーナンさんについてのツイートを見たが、その次に接種を受けたのがウィリアム・シェイクスピアさん。かのシェイクスピアと同姓同名である。日本でいえば「徳川家康さん(同姓同名)が予防接種第一号に」みたいなインパクトだ。

シェイクスピアは学校の教科書に出てくるので、誰もが何かしらを知っているから、何かを言いたくなるのも道理。というわけでTwitter上の英国名物の大喜利が始まって: 

 夏目漱石といえば「吾輩は猫である」、清少納言といえば「春はあけぼの」というレベルで誰でも知ってるのが、シェイクスピアの "To be, or not to be" (『ハムレット』の1節)で、それをもじったダジャレ。「接種第1号のマーガレット・キーナンさんが1Aならば、第2号のウィリアム・シェイクスピアさんは2Bだろうか……」の "2B" は "to be" と同音である。 

 

 続きましては……

シェイクスピアには『リチャード3世』という作品もある。その「3世」と「3番目」をかけたシャレ。 

 

続きましては……

 古代ローマを舞台とした史劇『コリオレイナス』(Coriolanus) は語強勢(アクセント)が第2音節にあって、coronavirusも同じく第2音節に語強勢がある。何となく脚韻も踏んでるし、頭韻はばっちりなので、当然こうなる。 

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といろいろなおもしろツイートが出ていたのだが、最優秀賞と誰もが拍手を送っていたのがこちらで言及されている: 

シェイクスピアの喜劇に『じゃじゃ馬ならし』というひどい作品がある。英語ではThe Taming of the Threwと言う。それをもじったのが "The Taming Of The Flu" で、ここではダン・ウォーカーさんは「誰が考え付いたのであれ、天才の所業」と絶賛している(《複合関係代名詞》のwhoeverに注目)。ただしもちろん、新型コロナウイルスはインフルエンザ (flu) ではない。

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 さらに一ひねりしたのが: 

 これについては「シェイクスピア別人説」を参照。 

エリザベス朝演劇集〈1〉

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 ……という具合に、みなさんよい大喜利を楽しんでおられたようだ。

最後に、余談だが、保健大臣で自身も春に感染して、肺炎になって非常につらい思いをした(が、その後のコロナ対応がかなりめちゃくちゃだったのでものすごく批判されている)マット・ハンコック大臣が、今回のワクチン接種実施で朝のTV番組でウィリアム・シェイクスピアさんの接種の映像を見て「数か月前には考えられなかった」と回想し、こみ上げてくる涙を押さえることもできずに「イギリスに生まれてよかった」的なことを述べたのだが(今回のファイザーとバイオンテックのワクチンの開発には英国は何も寄与していないのだが): 

 これにも容赦のないシェイクスピア系ツッコミが入っている。

引用符で挟まれた "Trust not those cunning waters of his eyes" (「彼の目からあふれる液体に騙されてはならぬ」)をそのままウェブ検索すると、シェイクスピアの史劇『ジョン王』のテクストが出てくる。第4幕第3場、アーサーが死んでしまうところからだ。

shakespeare.mit.edu

BIGOT 
Who kill'd this prince?


HUBERT
'Tis not an hour since I left him well:
I honour'd him, I loved him, and will weep
My date of life out for his sweet life's loss.

 

SALISBURY
Trust not those cunning waters of his eyes,
For villany is not without such rheum;
And he, long traded in it, makes it seem
Like rivers of remorse and innocency.
Away with me, all you whose souls abhor
The uncleanly savours of a slaughter-house;
For I am stifled with this smell of sin.

 

シェイクスピア全集32 ジョン王 (ちくま文庫)
 
ジョン王 (白水Uブックス (13))

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シェイクスピアというと、日本の「日本の英語教育はダメだ」論でなぜか「必要もないのに習わされる高尚なもの」として引き合いに出されるが、第一に日本の英語教育ではシェイクスピアなんかまず教えないし(私は「受験戦争」時代の公立中・都立高の出身だが、「読み物」になっていたものは別として、シェイクスピアの原文は教わったことがない)、第二に現地では別に「高尚なもの」ではなく学校の教科書に出てくる一般教養である。日本の一般的な教科書でいう「春はあけぼの」や「つれづれなるままにひぐらしすずりにむかひて」や「メロスは激怒した」のようなもので、知らないと世界が狭くなるというレベルで人々に広く共有されていることばの多くの主がシェイクスピアなのである。

 

※引用や本の紹介込みで5700字以上。

 

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https://twitter.com/BBCHughPym/status/1336210741892968449

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

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