Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

長い文、頭のなかでの「英文和訳」のすすめ(ロンドン、超富裕層の警備事情)

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今回も前回と同じ記事から、だらだらとしてやたらと長い文を読んでみよう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

f:id:nofrills:20190817191954j:plain

2019年8月16日、the Guardian

前回はこのキャプチャ画像の最初のパラグラフを見たが、今回見るのは第2パラグラフの文。

最初のパラグラフの文もそれなりに長かったが、今回見るのはそれよりもさらに長い上に、最初のパラグラフのように構造が取りやすくはない。

最初のパラグラフの構造が取りやすかったのは、等位接続詞andによる接続で長くなっているということが、ぱっと見ただけでわかったからだ。こういう構造は、どこで区切ってみたらよいのかがすぐわかる。

一方、今回見る第2パラグラフはそういう「見ただけでわかる」ような手がかりがなく、一度読んでみないと構造が取れない。

「英文和訳は英文読解の邪魔」という主義主張が中学・高校の現場に導入されてからこういう考え方はどちらかというと邪道というか、「偏差値の高い学生だけがやればよいもの」的に位置づけられているきらいがあるが、実際、センター試験で得点が5割に届かない高校生をみると、こういった「読んでみないと構造が取れない」ような文章について、構造をとらずに単語だけ拾って、何となく感覚で文意を(勝手に)組み立ててしまっているので、読解が正しくできていないことが非常に多い。

また、偏差値でいうと60前後あるのに、「文法問題はできるが、長文が足を引っ張っている」というタイプの高校生も、構造を取らずに単語だけ拾って勝手に文意を組み立てている(原文から離れた文意を)、ということがよくある。(それ以前に、文法問題ができても単語力が貧弱すぎて英文が読めていないということもあるのだが。)

どちらの場合も、自主学習として、文法問題であれ長文問題であれリスニング問題であれ、目にする英文を片っ端から丁寧に「英文和訳」してみるという練習を1週間か2週間やってみると、得点力がぐっと伸びるということがある。

こういうタイプの「英文和訳」は運動でいう基礎的な筋トレのようなもので、できる人は見えないところ(頭のなか)でやってて当たり前。英語のカリキュラムを組む英語のできる先生たちは「頭のなかでやってる言語処理の作業を、いちいちきれいな日本語にしてアウトプットする必要はない」ということで「和訳の必要はない」としているだけで、英文の意味を把握する(読解する)必要はないと言っているわけではない。

そもそも、ネイティヴ英語話者にしろ外国語として英語を習得する者にしろ、ただ英文を読んだだけでその英文が理解できているわけではない。意識していようとしていまいと、必ず、文構造を把握して理解しているわけだ。そのプロセスをすっ飛ばして英文を読むことなどできない。そしてうちら日本語話者が外国語として英語を学ぶ場合は、そのプロセスを確認するには、実は「英文和訳(直訳)」が最も効率的なのだ。きれいな訳文を整える必要はない。めっちゃ短くて構造などいちいち取る必要などないような文なら別だが(「英会話」の大半はそういう文である)、英文を読むときは、構造が取れているかどうかを自分で確認するため、自分の頭のなかのメモ用紙にちゃちゃっと書くようなつもりでさっと日本語にしてみるということをやってみるとよい。

その「いったん日本語に置き換える」という作業は、子供の頃に自転車に乗る練習をしたときの補助輪のようなもの。必要がなくなったら外してしまえばよい。中には、補助輪なんか使わなくたって自転車に乗れるようになった人もいるだろう。だからといって、誰にとっても最初から必要がないものではない。

 

閑話休題。そろそろ本題に入ろう。第2パラグラフはこういう文である: 

Security providers who have worked with ultra-wealthy residents of the capital contacted after it was revealed that two Arsenal players faced an “ongoing security threat” related to an attempted carjacking said that a growing number of violent attacks had made their clientele increasingly wary.

ぱっと見て、文の構造、つまり何が主語で何が述語動詞かが把握できただろうか。

主語は問題ないだろう。文頭の "Security providers" である。その直後の "who"  は関係代名詞で、 "Security providers" を修飾する節を導いている。その直後の "have worked" は関係詞節内の動詞だから、文の構造とは関係ない。そのあと、"worked with ~" で一種の句動詞で、"ultra-wealthy residents of the capital" がwithの目的語……とそこまでは誰もがスムーズに読めると思うが、そのあとが怪しくなってくる。

このあとにある "contacted" は動詞の過去形か? それとも過去分詞か? 

そのあとの "after it was ..." は副詞節だろう。それは問題ない。

しかしこの長ったらしい文の述語動詞は、どれだ? 主語の "Security providers" が「何をする(した)」という文なのか? contacted? related? said? had made? 

 

この英文を眺めているとわからなくなってくる人も少なくないだろう。

ここまでをまとめると: 

Security providers who have worked with ultra-wealthy residents of the capital contacted after it was revealed ( that two Arsenal players faced an “ongoing security threat” ) related to an attempted carjacking said that a growing number of violent attacks had made their clientele increasingly wary.

ここまで自力でたどり着いても、文構造は全然取れていない。 私が高校生のとき、問題集などでよくこういう文に遭遇して、涙目になって必死で考えたものだ。このくらいの分量の文を読むのに、30分くらいかかっていた。それが「効率が悪い」と言う人もいるだろう。だが高校生がすべきは「効率」をよくすることではない。「学習」だ。目の前にあるわけのわからないものを、自分の頭の中にある基礎知識を使って、わけのわかるものに変換することだ。その能力をつけることが学習の目的である。30分かかろうが、1時間かかろうが、獲得した能力は一生ものだ。

 

さて、上記の文をもう一度見ると、afterの節がどこで終わっているのかを考えることがよい手掛かりになりそうである。節の区切りは、だいたい動詞の前にあるから、青く記した動詞の前にスラッシュを置いてみよう。

... after it was revealed ( that two Arsenal players faced an “ongoing security threat” ) related to an attempted carjacking said that a growing number of violent attacks had made their clientele increasingly wary.

最後の "had made" はその前の "a growing number of violent attacks" と主述の関係にあるというつながりが見えてくるだろう。"a growing number ... had made ~" という構造で、これが "said" の後にある(saidの目的語である)that節の中身である。ここで《make + O + C》の構文が用いられていて、"a growing number ... had made their clientele (O) increasingly wary (C)" という構造になっている。直訳すれば「増大しつつある数の暴力的な攻撃が、彼らの顧客を、ますます警戒させている」。これは《無生物主語》の構文で、つまり、「暴力的な攻撃が増加しつつあるため、彼らの顧客はますます警戒を強めている」といった意味である。

 

というわけで、文の最後のほうは片付いた。

... after it was revealed ( that two Arsenal players faced an “ongoing security threat” ) related to an attempted carjacking said that a growing number of violent attacks had made their clientele increasingly wary.]

次に考えるのは、"related to an attempted carjacking" の部分。"an attempted carjacking" は、この文では《新情報》として出てきているが、記事を読んでいる人はこの「カージャック未遂」がどのようなものかを予備知識として知っているし、記事を書いた人もそう想定しているという、英文自体には表れていない関係性が背後にある。

ここで構造を考えるとき、"related" の前後の語句を見ることが必要だ。直前の 'an “ongoing security threat” ' と、"related" 以下の部分はどういう関係か。

そう、この "related" は過去分詞で、直前の 'an “ongoing security threat” ' を修飾する句を導いている。「カージャック未遂に関連した『現在進行中のセキュリティ上の脅威』に、アーセナルのプレイヤー2人が直面した」という意味だ。

 

そして、ここまでどこともつながらず宙ぶらりんになっている "said", これが文全体の述語動詞、文頭の "Security providers" とペアになった述語動詞だ。

となると、"after" の前の "contacted" は動詞の過去形(文・節の中では何か主語とペアになって、述語動詞となる)ではない。対応する主語がないのだから。

つまり、この "contacted" は過去分詞だ。「連絡を受けた」とか「接触された」の意味。

 

ここまでを整理すると、次のようになる。

Security providers  ( who have worked with ultra-wealthy residents of the capital ) contacted after it was revealed ( that two Arsenal players faced an “ongoing security threat” related to an attempted carjacking ) said that a growing number of violent attacks had made their clientele increasingly wary].

文意は「カージャック未遂に関連した『現在進行中のセキュリティ上の脅威』に、アーセナルのプレイヤー2人が直面したということが明らかにされたあとで連絡を受けた、首都の超裕福な住民たちと仕事をしてきた警備会社が、暴力的な攻撃が増加しつつあるため、彼らの顧客はますます警戒を強めていると述べた」となる。

 

読みやすい文ではなかったが、特に悪文ということもない、単なる「長い文」だ。何度か読み返して、文構造の取り方などを自分に合ったやり方を模索するつもりで練習していただければと思う。

 

 

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