Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

becomeの使い方, it was ~ that ... の強調構文(「ピータールーの虐殺」とガーディアン紙)

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今回の実例は、ある女性が先祖の偉業について調べて知った事実を説明しているインタビュー記事より。

 

今から200年前、1819年8月16日。英国(イングランド)の都市マンチェスターの中心部にあるセント・ピーターズ・フィールドで、選挙権の拡大を求める選挙法改正要求の大規模な政治集会が開かれているところに軍が突入した。非武装の民間人の間に死者18人、負傷者数百人を出したこの事件は「ピータールーの虐殺」と呼ばれ、元々ラディカリズム(急進主義)の流れがあったマンチェスターに、『マンチェスター・ガーディアン』というラディカルな新聞を誕生させた。

とはいえこの事件、ほんの十数年前までは「知る人ぞ知る」という存在で、ほぼ忘れ去られていた。現場にはイングランドで歴史的な場所に掲げられることになっている青い銘板(ブルー・プラーク)があったものの、そこに書かれていたのは「6万人規模の政治集会でハントという人が演説し、軍隊が強制排除した」ということだけで、死傷者が出たことはこれだけではわからなかった。それを変えさせたのが事件について知っている人たちの市に対する働きかけで、2007年に新たに死傷者数を明示し、広場にいたのが女性や子供を含む平和的な(非武装の)人々であったこと、軍隊はその人々を攻撃したということをはっきり記した赤い銘板が新たに掲げられることとなった。

マンチェスターのエリア*1出身の映画監督、マイク・リーが、自分の地元で200年前に起きたこの民衆に対する武力弾圧事件を映画化しており、それが現在日本でも『ピータールー マンチェスターの悲劇』としてロードショー公開中だが*2、リーはこの映画公開時のインタビューで「地元の人間だが私はこの事件について知らなかったし、うちの父は社会主義者だったがこの事件については何も言っていなかった」と語っていた(この記事ジャーヴィス・コッカーの質問に対するリーの答えを参照)。そのくらい、知られていない事件だったわけだ。

見る人が無意識のうちにでも現代のいろいろなものを重ね合わせずにはいられない映画予告編*3

www.youtube.com

 

今年、2019年の8月は事件から200年ということで、ガーディアン紙(マンチェスター・ガーディアン紙が1959年に改名)がたくさんの記事を出していた。下記のカテゴリーで読める。

https://www.theguardian.com/uk-news/peterloo-massacre

 

今回の実例はそれらの記事のひとつから。記事はこちら: 

www.theguardian.com

スー・ステネットさんの5代前(っていうことだよね)のご先祖はジョン・エドワード・テイラーマンチェスターのビジネスマンで、「ピータールーの虐殺」事件で弾圧された選挙法改正運動の声をまとめて発信していた「マンチェスター・オブザーヴァー」紙*4が警察によって閉鎖されたあと、「マンチェスター・ガーディアン」を創刊し、初代編集長となった。ウィキペディアによると、テイラーは選挙法改正運動の活動家のやっていることには批判的だったが、「マンチェスター・オブザーヴァー」の閉鎖という事態に直面し、テイラーらの実業家団体は危機感を覚え、事件から約2年後の1821年5月、「マンチェスター・ガーディアン」を創刊したという。

記事はそのステネットさんとの質疑応答の形式でまとめられている。個人が自分が調べた過去の事実についてまとめて述べ、自分の見解・意見を語る、という形の文章として、よい見本となっていると思う。英語の表現・文法だけでなく論理展開や話の流れの作り方など、英語を使う人にとって参考になる部分がてんこ盛りだ。ぜひご一読いただきたい。

 

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2019年8月16日、the Guardian

まず、インタビュアーの質問の文: 

When did you first become aware of your links to John Edward Taylor?

becomeはいわゆる「SVC」の文型をとる動詞である。「SVC」の文型では「S = C」という関係が成り立つ。「私は学生である」なら「私=学生」で、これを意味する英文、I am a student. は「SVC」の文だ。

このように「SVC」の文型ではVがbe動詞であることが一番多いのだが、そのbe動詞の代わりにbecomeやgetといった動詞が使われることも多い。be動詞が《状態》を表して「~である」という意味である一方で、becomeやgetは《動作》を表して「~になる」という意味である。

日本語で言葉を丁寧に扱っていないと、この違いがイマイチわからないということになってしまうのだが、言葉だけで考えず論理で考えれば何も難しい話ではない。

例えば、「私は野球に興味がある(あった)」というのが《状態》だ。一方で、野球何か別に興味なかったけど、ニュースでアメリカの大リーグで活躍する日本人選手の話題などを見ているうちに興味がわいてきたという場合、つまり「私は野球に興味を抱くようになる(なった)」というのが《動作》だ。

これを英語で表すと次のようになる。

  I was interested in baseball. 《状態》

  I became[got] interested in baseball. 《動作》

後者の場合、「その前はinterestedの状態ではなかった」ということを含意している。

 

今回の実例は、"become aware of your links to John Edward Taylor" という文だ。これは「(それまでは知らなかったが)ジョン・エドワード・テイラーとのつながりを知るようになる」という意味である。だからこのように "When did you become aware ...?" と、「いつ(どの時点で)」の疑問文が成り立つ。これがbecomeではなくbe動詞だったら、文意がイマイチ成立しなくなってしまう。

be動詞とbecomeのこういった違いについて実際の事例を頭のなかで検討してみることで、両者の違いが自分で納得できるものになるだろう。

 

さて、このような質問に対し、スーさんは、「結婚式のときに、ウェディング・ベールを叔母から渡されて、そのベールにまつわる物語と、ジョン・エドワード・テイラーの娘のソフィアが結婚式でこれを身に着けたことについて話をききました」と客観的説明のようなことを述べたあと、「ベールはクリーム色で、ドレスはそれに合わせて選びました」と、より個人的なことを語っている。そして「そのときはまだ若かったので、ベールの物語がどれだけ重大なものかははっきりわかっていなかったのですが」と続ける。ちなみにジョン・エドワード・テイラーは綿の商人であった*5

 

ここで次のポイント: 

it was only after my father died that my interest was sparked.

《it is[was] ~ that ...》の強調構文である。教科書通りで、何も難しいところはないが、文意は「私の興味が涌いたのは、父が死んだあとになってからでした」。

 

こうしてスーさんは父親の遺品から「家族の歴史」と題する私家版の本を見つけたのだという。その本は、ジョン・エドワード・テイラーの娘のソフィーの姪で、1872年にマンチェスター・ガーディアンの編集長となり、現在に至るガーディアンの基本理念を明確に言葉にしたC. P. スコットの姉妹であるキャサリン・スコットとイザベラ・スコットが書いたもの。

 

英国の公式筋ではない歴史に興味がある人なら、ここで興味を引かれてこの記事はどんどん先へ読んでいきたくなるだろう。マンチェスターはラディカリズムを深い部分で持っている都市で、それはパンク以降、ファクトリー・レコーズやらハシエンダやらのサブカルチャーにも明確かつ濃厚に現れているのだが、その根っこにはかつて英国が、「イングランド国教会の信徒(体制側)と、そうでない者たち」を二分して、「そうでない者たち」がnon-conformistと位置付けられていた時代の「非体制」という立ち位置が関係している、といったことを聞きかじっていればなおさらだ。

あとは記事でどうぞ。

https://www.theguardian.com/membership/2019/aug/16/peterloo-ancestor-john-edward-taylor-cp-scott-manchester-guardian

 

 

Peterloo: The Story of the Manchester Massacre (English Edition)

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Peterloo: A 200th anniversary reprint of 'The Story of Peterloo' and 'The Mask of Anarchy' [annotated]

Peterloo: A 200th anniversary reprint of 'The Story of Peterloo' and 'The Mask of Anarchy' [annotated]

 
Peterloo: The Massacre and its Background (English Edition)

Peterloo: The Massacre and its Background (English Edition)

 
Commemorating Peterloo: Violence, Resilience, and Claim-Making During the Romantic Era (Edinburgh Critical Studies in Romanticism)
 
Peterloo: The English Uprising (English Edition)

Peterloo: The English Uprising (English Edition)

 

 

 

英文法解説

英文法解説

 
徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

 

 

*1:正確にはソルフォード (Salford)。ここはかつてはマンチェスターとは別の独立した町だったが、70年代の市町村合併的なことを経て、グレーター・マンチェスターという都市の一部となった。 https://en.wikipedia.org/wiki/City_of_Salford を参照

*2:劇場一覧は: https://gaga.ne.jp/peterloo/theater/ 8月9日から公開が始まっているのは東京・横浜・名古屋・大阪・京都・神戸・福岡でそれぞれ映画館は1館だけ。全国の他の都市では9月以降の公開が予定されている。

*3:ただしナレーションの「英国史上最も残忍な事件」っていうのは、「え?」って感じだけど……アイルランドとかインドとかケニアとかマレー半島とかカリブ海とかでどんだけの残忍な流血事件が英国・イングランドによって起こされたことか。

*4:現代の「ガーディアン」紙の日曜版が「オブザーヴァー」紙である。

*5:ということは、英国の植民地主義の文脈ではいろいろあるのではないかと思うが、それはまた別の話。

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