今回も、前回の記事と関連して、「ピータールーの虐殺」に関する記事から。
前回書いた通り、1819年8月16日に起きたこの事件は、2018年にマイク・リー監督によって映画化され、2019年の現在、日本でもロードショー公開中である。
そして、2019年8月16日に、事件現場となったマンチェスター市のセント・ピーターズ・フィールドでは、本降りの雨の中、200周年を記念する集会 "From the Crowd" が行われた。軍隊に出動命令がくだされた1時30分には黙祷がおこなわれ、200年前に選挙法改正要求の集会に来ていた人の子孫がスピーチをし、また、現在のマンチェスターで暮らす人々が、それぞれの問題意識に応じて変革の必要を訴えた。その中に、映画『ピータールー』を作ったマイク・リーの姿もあった。リーは、香港のデモや英国での政治不信を参照しつつ「ピータールーの虐殺」事件は現代にも通じるものだとし、「200年前に選挙法改正を求めた人々がタイムマシンに乗って2019年に来たら、投票に行かない人々の多さに立腹し、戦慄し、うんざりし、なんとまあひどいことだと言うだろう」と述べた。
今回の実例は、そのマイク・リーがこの集会のあとで書いた文章から。記事はこちら:
リーは、8月16日のイベントについて説明したあとでこう述べている:
The event was in fact not so much a conventional performance as a bold reflection on the history of protest, especially in the UK, and on the relevance of Peterloo to our contemporary world.
太字で示した《not so much A as B》 は「AというよりむしろB」という意味で、いわゆる「受験英語」では必ず出てくる熟語のひとつだ。次の例文で覚えている人が多いだろう。
He is not so much a scholar as a writer.
(彼は学者というよりむしろ文筆家だ)
丸暗記するのは退屈で苦痛ですぐに忘れてしまうかもしれないが、not so much A as Bをそのまま逐語訳してこなれた日本語にするとこうなるということを一度納得してしまえば、そんなに苦痛ではなくなるだろう。つまり、「彼が学者である程度は、彼が文筆家である程度ほどではない」で、例えば「学者としては2程度だが、文筆家としては5程度だ」といったイメージを描くとよいだろう。ここから「学者としては大したことないが、文筆家としては立派なものだ」みたいな意味が引っ張れるはずだ。
こうやって一度納得してしまえば、知識は頭から抜けづらくなる。その上で、さらに応用して自分で英作文してみれば、より定着はよくなる。例えば「バナナはおやつか食事か」を考える。食事にはならないが、おやつにはなると言うのなら:
Bananas are not so much eaten for a meal as for a snack.
こんな感じで自分でいろいろと文を作ってみるとよい。
さて、今回の実例の文だが:
The event was in fact not so much a conventional performance as a bold reflection on the history of protest, especially in the UK, and on the relevance of Peterloo to our contemporary world.
グレーにした部分はとりあえず外して文意を考えると、「このイベントは実際、因襲的な(=よくある形の)パフォーマンスというよりは、特に英国における抗議行動の歴史についての大胆な再考であった」。歴史上の出来事をそのまま再現する劇のようなものではなく、200年前の事件を改めて考えてみようという取り組みだった、という話である。
ではここでいったん外した部分も戻して読んでみよう。
The event was in fact not so much a conventional performance as a bold reflection on the history of protest, especially in the UK, and on the relevance of Peterloo to our contemporary world.
等位接続詞のandがあり、その直後はonなので、このandに先行するonを見つけると構造が取れる。
……と見ていくと、
a bold reflection on the history of protest
and on the relevance of Peterloo to our comtemporary world
という構造になっていることがわかるだろう。つまり「抗議行動の歴史について、およびピータールーが私たちの現代世界に対して持っている妥当性についての大胆な再考」となる。
ちなみに今回のキャプチャ画像で、本文の上に入っているオレンジ色の文字の部分にあるthe Clean Air Actとは、英国で大気汚染(スモッグ)が深刻化したことで、空気を汚さないように人々の生活の転換を余儀なくさせた法律のこと。当時は家の中の暖炉などで石炭を燃やすのが普通で、その煙が無秩序に排出されて大気汚染がひどいことになっていたのだが、この法律で、都市部では煙を出す燃料を燃やすことを禁止し、その結果、都市部の空気がかなりきれいになった。マイク・リーの育ったソルフォードでは、これに伴い真っ黒だった建物の壁が元の色がわかる状態になるまでに状況が改善された、ということだが、同様のことを私はロンドンの人やノーザンプトンのような地方都市の人からも聞いたことがある。「この建物って、ほんとはこんな色してたんだ」という驚きは、歳月がたってもなかなか忘れがたいものだと言っていた。この法律について、詳しくは下記:
https://en.wikipedia.org/wiki/Clean_Air_Act_1956
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