Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

形式主語itの構文, howの節(間接疑問文), 成句 'easier said than done' (1957年の同性結婚式)

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今回の実例は、60年ほど前と現在との米国の社会・制度の違いについて、改めて考えさせられるような記事から。

米国で同性間の結婚が法的に認められるようになったのは21世紀に入ってからである。最初はいくつかの州が州法を制定し、やがて同性結婚を認める州が増加していった。そして「2015年6月26日、合衆国最高裁判所は『法の下の平等』を定めた『アメリカ合衆国憲法修正第14条』を根拠にアメリカ合衆国のすべての州での同性結婚を認める判決をだした(9人の裁判官のうち5人が同性婚を支持、4人が反対……)。これによりアメリカ合衆国において同性婚のカップルは異性婚のカップルと平等の権利を享受することになった」

このように、同性のカップルが男女のカップルと同じ権利を手にするまでの道のりは決して平坦なものではなかったし(50年前、1969年の「ストーンウォール暴動」については、当ブログでも6月に記事を取り上げた)、同性結婚ができるようになったからといって偏見や差別が消えたわけではなく、現在もなお「闘い」は続いているのだが、それでもなお、60年ほど前に米国の同性カップルが置かれていた状況と今日のそれとは、まるで別物である。

今日の記事は、1957年、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで現像に出された一本のフィルム*1をめぐる記事である。そのフィルムに撮影されていた人たちがどこの誰なのかはわかっていない。ただ、その「不適切」とか「不道徳」とかいったふうに判断されたために、現像ショップから顧客の手に返されることのなかった写真は、男性同士のカップルが堂々と結婚できるようになった米国で、南カリフォルニア大学の「ナショナル・ゲイ&レズビアン・アーカイヴ」におさめられ、1950年代にも彼らのような人が存在していたという事実を伝え続けるのだ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

記事はまず、見出しで "the mystery photos" としている1957年の男性カップルの結婚式の写真について、わかっている事実を説明している。いわく、「1957年にフィラデルフィアのファーマシーで、一本のフィルムが現像に出された。しかし現像された写真はその主たちのもとに戻ることはなかった。米国内のどこかの州で同性結婚が合法化されるまでまだ50年ほど、連邦法で認められるまでには60年ほどもあったこの時代に、このフィルムには同性結婚の様子が記録されていたのだ」。

そして、自身同性愛者であるプロデューサーとライターが3人、この写真に写っているカップルの身元を確認したり、ファーマシーの店員が焼きあがった写真を依頼主に返さなかった理由を突き止めたりしようと、作業を開始した。彼らはその取り組みを番組として記録している(が、まだどこで放送されるかはわからない)。

これらの写真が見つかったきっかけはネットオークション。あるコレクターが落札したが、写真の重大性に気づいて、LGBTQを専門とする「ONEアーカイヴ」(南カリフォルニア大学)と、フィラデルフィアの「ウィルコックス・アーカイヴ」に寄贈した。

 

ここに写っているのが誰なのかはまだわかっておらず、調査にあたっているプロデューサーらは、何か手がかりがあれば自分たちのサイトFacebookのページに情報提供してほしいと呼びかけている。

……という背景を持ったこれらの写真だが、実例として見るのは記事の真ん中へん。

 

 

f:id:nofrills:20190823032019j:plain

2019年8月20日BBC News

まずキャプチャ画像内の最初のパラグラフから: 

We don't know how common or uncommon it was for couples to hold ceremonies to marry each other [because] there is so little photographic or film record of how people actually lived

太字にした部分が、《形式主語it》の構文だ。真主語は "to hold ceremonies ..." の部分、その《意味上の主語》(誰がto holdするのか)が "for couples" で表されている。

また、"how common or uncommon it was" というhowの節は《間接疑問文》で、「それがいかにありふれていたか、あるいは珍しかったか」の意味。

総合すると、太字部分は「(同性の)カップルが結婚するためにセレモニーを行うことが、どの程度ありふれていたか、あるいは珍しかったか」の意味になる。

当時の(ゲイの)人々の実際の生活を記録した写真や映像が非常に少ないので、実はこういう「結婚式」はよく行われていたのかどうか、あるいはこの「結婚式」が珍しいもの、例外的なものだったのかどうかすらわからない、という。

逆に言えば、1959年の男性カップルはそのくらい「隠れた」存在だった。

 

続いて、その次のパラグラフにも《形式主語it》の構文がある。

It's important to remember that people found ways to live their lives quietly away from the prying eyes of the straight world.

こちらは《to不定詞の意味上の主語》がない形で、「一般論として、rememberすることは重要だ」と述べている。

 

このくだりで話者が一貫して "gay people" のことを "people" と言っていること、BBCの記事でもその点編集が入っておらず "people" を "gay people" とするようなことはしていないことにも注目したい。

 

そしてその次: 

Of course, that was easier said than done.

"Easier said than done." は、直訳すれば「(何かが)実行されるよりも、言葉にされるほうがたやすい」ということだが、英語の成句で、日本語でいえば「言うは易し、行うは難し」に相当する。

ここではそれが過去の話なので、"that was easier said than done" と過去形になっている。

 

記事はこの後、50年代の米国において同性愛者が制度的にどのような扱いを受けていたか、それが60年代、70年代となってどう変わったかを手短に説明している。ストーンウォールもそのくだりで言及されているが、そういえばストーンウォールの記事で、ストーンウォール暴動の前にすでにフィラデルフィアでお行儀のよいゲイ・ライツ要求運動があったと書かれていたことを思い出した。この写真は1957年の撮影なので、10年くらいの隔たりがあるのだが、ひょっとしたらフィラデルフィアではそういった点で直接のつながり・流れがあったのかもしれない、などと思う。

 

今回の記事はこのあと、むごい現実に言及して締めくくられている。フレディ・マーキュリーの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットで、今20代の人たちの間でも、80年代から90年代初めのAIDSがどのようなものだったか、ある程度広く知られていると思うが、この1957年の男性同士の結婚式の写真の当事者が見つからないのは、AIDSが関係しているのかもしれない、というのだ。

今はAIDSはよい薬ができて「恐ろしい不治の病」ではなくなっているが、80年代にこの病気のことが知られてから90年代までは有効な薬がなく、特に男性の同性愛者が大勢この病に命を奪われた。フレディ・マーキュリーもそのひとりだが、AIDSのことを世界に知らしめた最初の著名人は、1985年にAIDSで亡くなった映画スターのロック・ハドソンだった。ハドソンは銀幕で「男らしい男」を演じてきた往年の二枚目スターで、自身のセクシュアリティをずっと隠していたのだが(業界では公然の秘密だった)、そのハドソンが生まれたのが1925年で、今回見た写真が撮影された1957年には32歳くらい、写真の中で結婚式を挙げていたカップルより何歳か年上という年齢である。とすれば確かに、この写真の人たちが治療法がなかった時代にAIDSで亡くなっているということは十分に考えられる。

 

彼らの写真は、南カリフォルニア大学のONEアーカイヴでも見ることができる。下記はBBC記事のトップにある写真とは別の人たちが、ケーキカットのような動作をしている写真で、ひょっとしたらこの結婚式で結婚したのは何組かいたのかもしれない、などと思う。

http://digitallibrary.usc.edu/cdm/singleitem/collection/p15799coll4/id/392/rec/156

いずれにせよ、はっきりした情報は何もない。今のところわかるのは、1957年に信頼できる友人たちの中だけで、他の人たちの目につかないような形で、 "Love is love" を貫いた人たちがいたということだけだ。

 

 

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*1:「写真の現像」が何のことかわからない世代の人に向けてちょっと説明しておくと、デジタルカメラが使われるようになる前は、写真はカメラ本体にセットしたフィルムに記録されており、そのフィルムを最初から最後まで使い終わったら、お店に「現像 development」と「焼き付け print」を頼まなければならなかった。現像の設備のある写真店に頼むこともできたが、多くの場合、その作業は大手フィルムメーカーの大規模な専門のラボで行われていて、アメリカなどではファーマシー(薬局)などが受付窓口となって、顧客の撮影済みフィルムを預かっていた。日本ではお米屋さんや本屋さんが窓口になっていたが、後にコンビニが普及するとコンビニに持ち込むことも多くなった。こういった店では写真の「拡大 enlargement」も依頼することができ、日本語圏でも英語圏でも同じように、「現像・焼き付け・拡大」をまとめて「DPE」と呼んでいた。