Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】関係代名詞、so that S can ~(ブリストルと奴隷貿易商人)

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このエントリは、2020年6月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例はTwitterから。

今年5月25日、米ミネアポリスで1人の黒人男性が、1人の白人警官に首を膝で踏みつけられて殺された。警官は複数いたが、誰も首の踏みつけを止めなかったし、それどころか被害者の男性を取り押さえることだけにやっきになっていた。その様子は現場に居合わせた通行人が動画で撮影しており、その動画はネットにアップされて瞬く間に世界中に拡散した。そして被害者のジョージ・フロイドさんの顔写真やそれを元にした絵は、英語でいう "protest icon" (日本語にするなら「抗議行動のシンボル」か)として世界に広まり、#BlackLivesMatter (BLM) のスローガンは全米各都市を超えて世界中で(グローバルに)人々を連帯させ、突き動かしている。

www.bpr.org

新型コロナウイルスによる行動制限・大人数で集まることの禁止も、ソーシャル・ディスタンシング(間隔あけ)の推奨も、画面の中にいる人々はもはや何も気にしていないように見えて恐ろしいのだが、ふと周りを見てみれば、東京で自分が豆腐やキッチンペーパーを買い出しに行く商店街の人出も同じようなものだし、そもそも満員電車は今日も走っている。

ともあれ、2013年に自警団メンバーによって怪しまれた黒人高校生が撃ち殺された(トレイヴォン・マーティンさん射殺事件)事件の裁判で、被告人に無罪判決が出たあとで始まり、その後も何度も何度も繰り返されてきた「白人の警官などによる黒人殺害」(より深くいえばそれはinstitutional[systemic] racismである)に抗議の声を上げ続けてきた #BlackLivesMatter が、2020年のジョージ・フロイドさん殺害事件で、ついにアメリカ合衆国という領域を超えてグローバル化し、拡散した先々で人々は、米国で根拠もなくただ撃ち殺されたり絞め殺されたりしている黒人たちに連帯しながら「Black」を自分たちの社会で読み替えて、「人種・民族による差別」は過去のものにしなければならないという強い意志を示しているのが、2020年6月上旬の状況である。

日本では報道機関の関心のありようがちょっとおかしいので、「デモが暴徒化」しないと「デモ」のことがろくにニュースにならないような感じだから、今回初めて Black Lives Matter を知ったという人もいるかもしれないが、この運動は2013年に始まったもので、その後も何度も何度も繰り返された、法執行機関の奇妙な暴力による死亡事件のたびに米国では大掛かりなデモが行われ、人々が声を上げてきたという事実は、何度も確認しておくべきことであろう。

 

さて、そのように米国の外にも広がった今回のBLMは、イングランドで、イングランドの歴史という文脈の中で大きな意味のある事態を引き起こした。

Somerset_and_Bristol_map_via_https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Somerset_UK_locator_map_2010.svgイングランド南西部、地図で見ると左下に突き出した部分(コーンウォール半島)の付け根の北側にあるのがサマセット州だ(右の地図で赤く塗られているところ)。

そのサマセット州のすぐ北(地図で言う上)に、ちょこんと小さな区画がある。これがブリストル (Bristol) だ*1エイヴォン川という河川の流域に発展した町で、目の前の湾はちょっと北の方から流れてくるセヴァーン川の河口にもつながっている。西側の海は大西洋で、その向こうははアメリカ大陸である。

イングランド自治体の仕組みはなかなか難しいのだが、ブリストルは、どこの州にも属していない。市だけで単独の自治体となっている。こういうのを「単一自治体」と呼ぶ。これは見かけ上は昔の教区とかいろいろな歴史の絡みがありそうに見えるのだが、実はそうではなく、20世紀後半の地方自治改革の中で出てきたものである。2010年代になってから直接選挙で市長を選出するという制度改革がレファレンダムの結果として実現し、現在は労働党マーヴィン・リーズ氏(2016年の市長選挙で当選)が市長を務めている。

このように、行政面では現代的にアップデートされているブリストルだが、歴史的には暗い過去を有している。大西洋に面したこの港湾都市は、奴隷貿易の一大拠点、あの「三角貿易」の重要な港だったのだ。

Located on the banks of the River Avon in the South West of England, the city of Bristol has been an important location for marine trade for centuries. The city's involvement with the slave trade peaked between 1730 and 1745, when it became the leading slaving port.

Bristol used its position on the Avon to trade all types of goods. Bristol's port was the second largest in England after London.

en.wikipedia.org

そしてこの奴隷貿易に携わった商人――アフリカの人々を人間と見なさず、物のように略奪して物のように扱って海を越えて運び、物のように売買することで財を成した人――が、ブリストルという町のあちこちに、施設名や銅像という形で、足跡を残している。

現代において、ブリストルというと、あのBanksyの出身地だったり、それ以前に音楽の「ブリストルサウンド」、つまりトリップホップの拠点だったり(Massive AttackとかPortisheadとかTrickyとか)、ドラムンベースが盛んだったり、あるいはさらにその前にThe Pop Groupのような人たちを輩出していたりと、いろいろと先鋭的な文化都市、非常に「リベラル」な町というイメージがとても強く、実際に2016年以降は4つある選挙区すべてが労働党で市議会も労働党が単独過半数、市長も労働党なのだが、その背後には奴隷貿易という所謂「負の歴史」があったわけだ。

さらに言えば、その「負の歴史」を「負」であると認めない人々もいたからこそ、その「負の歴史の足跡」が消されずに、「顕彰されるべきもの」として市民の生活の中に残されてきたわけだ。

そのブリストルの歴史が、2020年6月7日、米国のBLMに共鳴する抗議行動(デモ)の中で、大きく動いた。市内のあちこちに名を残すその奴隷商人、エドワード・コルストン銅像が引き倒され*2、300年前に彼の船が停泊していたかもしれないブリストル湾に沈められた。

この像の引き倒しについては、歴史家のデイヴィッド・オルソガが書いた下記の論説が最も多くの文脈を最もコンパクトに述べていると思う。

www.theguardian.com

一言でまとめると、この像の引き倒しはBLMの熱狂の中で急に起きたことではない。もうずうっと何年もかけて、ブリストルの市民たち(ブリストルは、カリブ海からの移民も多い町である。トリップホップドラムンベースにつながるレゲエやダブの音楽が盛んなのはジャマイカにルーツがある人が多いからだ)がコルストン像の撤去を求めてきたのに、その像を温存しておくこと/撤去しないことに(少なくとも精神的な)利益を見出す人々がいて、その要求をはねのけてきたのだ。

 

というわけでここまでとても長くなってしまったが、今回の実例は、その銅像引き倒しのあとにブリストル市議会がツイートした文面から。

 

だらだらと長い文だが、ぱっと見て構造が取れただろうか。文の最後の@mshedbristolはギャラリー(美術館)の名前なので、それを普通の形に置き換えてツイート本文を再掲すると: 

We have collected all the signs that were laid in the city after yesterday's #BlackLivesMatter protest so we can preserve them for display in the M Shed

これにスラッシュなどを入れてみよう。

We have collected all the signs / that were laid in the city ( after yesterday's #BlackLivesMatter protest ) so we can preserve them for display in the M Shed

 これにさらにポイントを付け加えると: 

We have collected all the signs / that were laid in the city ( after yesterday's #BlackLivesMatter protest ) so (that) we can preserve them for display in the M Shed

下線で示した "that" は《関係代名詞》で、先行詞は "all the signs"。先行詞にallという形容詞がついているから、関係代名詞はwhichでなくthatを用いている。

太字で示したのは、《so that S can ~》の構文で、thatが省略されたもの。「Sが~できるように」という意味だ。

したがって文意としては「私たちは、昨日のBLMの抗議行動のあとで、町に残されていたプラカード*3をすべて集めました。Mシェッドでの展示のために保存しておけるようにです」。

つまり、この日のこのデモのプラカードを、ギャラリーで展示する計画を、市のカウンシルは立てているということだ。

 

次回もまた、ブリストルでのこの動きについて。

 

f:id:nofrills:20200613035618p:plain

https://twitter.com/BristolCouncil/status/1269879066984878082

 

*1:ブリストルは、厳密なことを言おうとするととても難しいので、これは大雑把な説明である。厳密なことを知りたい方は、詳細は https://en.wikipedia.org/wiki/Greater_Bristol などをご参照いただきたい。

*2:銅像引き倒しを受けていち早く日本語版ウィキペディアの記事が立ち上げられたことには敬意を表したい。私もできる範囲で編集に参加します。

*3:日本語の「プラカード」のことは、英語ではsignとかposterと言うことが多い。

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