Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

とんでもないものが翻訳されて青天の霹靂。ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を、少なくとも私は、終わりにせざるを得ないことについて(次のハッシュタグもあるよ)

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このブログの管理画面にアクセスするのも久しぶりである。12月のうちに、時制の使い方がとても興味深い英文の実例に遭遇したので、それについて書くつもりだったが、なんだかんだと書かずに1月も終わろうとしている。

さて、今回は当ブログのテーマである英語・英文法は扱わない。久々の更新で、英文法目当てにフィード登録してくださっている方をがっかりさせてしまうかもしれないが、現実としては、英文法どころではない状況が2023年10月7日以降、苛烈さを増しながら続いている影響をもろに受けているので、何卒おゆるしいただきたい。

今回は、英語の話ではないが、「翻訳」に関連する話ではある。テクニカルな話ではなくて、実際にやっている翻訳に関連する話である。

【目次】

以下、厳密には「アル=カッサム旅団」と表記すべきところも「ハマス」と表記していることをお断りしておく。両者はIRAとシン・フェインみたいな関係である(わかりやすい?)。あと、いちいち細かく参照リンクもはっていないことをお断わりしておきたい。リンクなどはっている間に、書こうと思っている言葉が頭の中で消えてしまうからである。そのくらい、私は消耗しているし、ぎりぎりのところでやっている。

2023年10月7日

ハマスの凶行

2023年10月7日に、イスラエルガザ地区と隔てるフェンスを突破したハマスが急襲作戦を実行し、イスラエルで1300人以上の人命が奪われた。急襲対象には軍事施設もあったが、野外レイヴ(日本語圏の報道では「音楽フェス」)も武力の対象とされたし、一般家屋も襲われ、大勢の民間人がむごたらしく殺害された。この日に亡くなった方々全員がハマスの武力で殺されたのかどうかは検証の余地があるにせよ(イスラエル側による武力行使による犠牲者も出ているとハアレツなどでも報じられている)、この攻撃は、ハマスが人命なんざ特に何とも思っていない(というか、ハマスの戦闘員は、ほかの軍隊の軍人と同じように、武器を手にしたら人命を何とも思わないよう訓練されている)ということをはっきり示す残虐行為、めちゃくちゃな凶行だった。その後、パレスチナ、特にガザ地区でどんなことがイスラエルによって行われたかにかかわらず、それは事実だ。改めて確認してほしい*1

巻きおこる二元論の中で

しかし、その凶行を受けて、世界中が「ハマスノバンコウヲ、オマエモヒナンセヨ」の大合唱、かの911攻撃を受けての当時の米大統領GWBの "You're with us, or you're with the terrorists!"" というあの極端な二元論にステロイドぶちこんでパワーアップしまくったみたいなモードとなる中、ハマスのあの凶行のあとにどんなことが行われるかを予想していた人々は、「ハマス非難」どころではなかった。今のイスラエル政府(とんでもない極右政権)がここに至るまで何をしてきたかを知っている人々は、これまで中東になどろくに関心も向けてなくて、「ハマスノバンコウ」にしか目が行かず意識も向かない人々よりはずっと少なかったかもしれないが、それなりに大勢いた。

声を上げ行動を起こしたユダヤ人たち

私のわかる範囲では、米国や英国で最初に行動を起こしたのは、今のイスラエル政府の政策を批判しているジューイッシュの人(ユダヤ人)たちだった。米国のJewish Voice for Peace (JVC) やIfNotNow, 英国のJews for Justice for Palestinians や Jewish Voice for Labourといった団体は、Twitter/Xでの発言を活発化させ、組織化し、"Never Again" というホロコーストを二度と起こさせないという決意の言葉に "for Anyone" を付け加えた "Never Again for Anyone" (私たちユダヤ人に起きたようなことが、この先二度と、誰の上にも起きないように)という標語をかかげ、駅などで大規模なデモンストレーションを行った。

パレスチナからの声

同時に、パレスチナから日ごろ英語を使って世界に向けてあれこれ書き綴っている人々の発言も、活発になった。

私は個人的に、2010年のFreedom Flotilaの前から、Twitterでガザの人々やガザの封鎖解除のために動いている人々のアカウントをフォローするようになっており、2012年の大規模軍事作戦のときにはガザの人々と報道機関のアカウントだけのリストを作っていて、そのころからずっと(一方的なフォローという関係であっても)つながっているガザの英語話者たちがいる。多くがもうTwitterを離れてしまっているようだが、今フォローしている人々の何人かは当時からのつながりだ。彼ら・彼女らの英語は本当に見事で、自分もこういうふうに書けたらいいなというお手本的な存在なのだが、彼ら・彼女らにとっての英語は、封鎖された小さな地域(名古屋市程度の面積しかない)からダイレクトに外へと開く窓として機能しており、私がいつも見ているTwitterの画面には普段から、イスラエルガザ地区上空に戦闘機を飛ばせばその報告が流れ、ミサイルを撃ち込めば #GazaUnderAttack というハッシュタグでその具体的な場所などの報告がいくつも続く、というふうになっていた。それを日本語にして引用リツイートすることも、別に普通だった。

だから、2023年10月7日の直後に、いつものようにTwitterの画面に流れてくるいつものガザ住民ツイッタラーの(すばらしい英語でつづられた)言葉を見て、いつものように日本語にしていた。

パレスチナからの声を日本語にする人々→ハッシュタグの開始

そして、そういうことをしているのは、私1人ではなかった。だから、「#ガザ投稿翻訳」というハッシュタグを始めた。それが10月12日のことだ。

ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」の当初の目的

目的は、第一義的には、どう考えたって絶望的にならずにはいられない状況にあるガザのTwitterユーザーたちに、「あなたの投稿は確実に読まれている」ということを伝えることだった。Twitterハッシュタグの機能として多くの人が考えるであろう「拡散」などは、私の着想では、二の次だった。そのことについて、ハッシュタグを始めたときに私は当ブログで次のように書いている

個々の人たちがばらばらに勝手に翻訳していても全然かまわないのがTwitter/Xだが、ハッシュタグにしておけば、ガザ地区の人々に、自分たちの書いているものが読まれていることを確実に伝えられる。今のこの状況で、それは精神的な支えになる。We hear you. ということを視覚化できる。

hoarding-examples.hatenablog.jp

ハッシュタグ開始時にどんな感じの投稿があったかは、アーカイヴの1つ目をご覧いただきたい。私は元の投稿をしているアカウントがどういうアカウントかについての説明も、限られた字数の中で、なるべくつけるようにしていた。「米平和団体」「ガザ市在住ジャーナリスト」「ガザ地区北部の英語の先生」みたいな感じで。そういった情報も、このような紛争地をめぐるこのような形の翻訳には必要だからである*2

togetter.com

ハッシュタグの広まり

というわけで、最初は、個人的にフォロー関係のあるアカウントの間で始めたハッシュタグなのだが、これがどかんと広まるまで、時間はかからなかった。参加する翻訳者もすぐに増えた。2011年の「アラブの春」のときに、#EgyJPなど「国の略称JP」という形式のハッシュタグで、現地在住の人たちや元在住の人たちを含め、現地情報を共有していたときのような情報の中身の広がりはほとんどなく、議論や意見交換にもならず、淡々と、翻訳だけが行われた。手当たり次第に送信している仮想通貨スパムみたいなものはいくつか来たし、日本語がわからないと思われる人々(あるいはbot)からガザの悲惨な映像・写真を広く拡散するためのハッシュタグと勘違いされたようで、翻訳を含まない投稿もかなり来たが*3ハッシュタグ発起人である私が細かくモデレーションをして(いちいち個別に趣旨説明とガイドラインのお願いのリプをつけて回っていたのだ)、そういうのは排除するよう努めた。参照性を確保するために、Togetterを利用してアーカイヴも細かく取得した。1日に2時間もかけてこれらの作業を私はひとりでやった*4アーカイヴには次のような趣旨説明を書いた。

ガザ在住のTwitterユーザーの投稿、もしくはガザ情勢に関する投稿の翻訳ハッシュタグのアーカイヴです。

リンク先の映像・画像には内容的に厳しいものもあります。ご覧になる場合は心の準備を整えてからお願いします。

(中略)

ハッシュタグは、翻訳のできる方(特に、誤訳を指摘されたときに、「私のしているのは翻訳ではない」と屁理屈をこねたり、泣いたりわめいたりして親衛隊みたいな人たちを組織したり、陰謀論を唱えたりしない方*5)なら、どなたでもご自由にご参加ください。

ハッシュタグの言い出しっぺ&だいたい11月末までのアーカイヴ作業担当は @nofrills です。最初の数人を除き、こちらからのお声がけはしていません。普段 @nofrills と仲悪い方のご参加も、いただけるのであれば歓迎します(Greater goodを考えましょう)。

※ニュースのまとめではありません。ハッシュタグのアーカイヴです。誰もハッシュタグつけてツイートしていないことは拾えていません。

情報発信者による情報発信のハッシュタグではありません。
活動家による情報拡散のハッシュタグでもありません。
実務経験は問いませんが、辞書引きやバックグラウンドの調べもの*6などを含め、**翻訳という作業ができる人のためのハッシュタグ**です。

参加ご検討中の方は、以上をご確認の上、ご参加ください。

※既訳チェック不要。誰か別の人がすでに訳しているかどうかはチェックしなくても大丈夫です。確認の時間があるなら、自分で言葉にしましょう。

基本的な形式:
原則として、下記の3点を1つのツイートに入れてください。
-翻訳元のツイートのURL
-その日本語訳
-ハッシュタグ、「#ガザ投稿翻訳」

気を使っていたのは「乗っ取られないこと」

これをやる上で、一番気を使っていたのは、乗っ取られないことだった。このハッシュタグはガザからの声と、それを支える世界の声に関するものである。ハッシュタグの画面で、ガザ内部からの声が、それとは別の「俺の分析」みたいなのでかき消されてしまうようなことになったら、何のためのハッシュタグなのかわからない。

反ユダヤ主義

「乗っ取られ」というのは、まず日本語圏のネットで気を付けなければならないのは反ユダヤ主義ハッシュタグを使って私が最初に集中的に投稿したのは、上述の在米・在英ユダヤ人団体による英語投稿の日本語訳だったのだが、それはネット上の自由な言論の場で、人種差別的な反ユダヤ主義に居場所を与えないために、最小限、最初にすべきことだった。なお、私が反ユダヤ主義を受け入れないということは、反ユダヤ主義に親和的な関心を持っている人々の間ではそれなりに知られているようで*7、私の名前(nofrillsというハンドルはかれこれ25年くらい使っている)があるだけで、ある程度は抑止効果があったのかもしれないが、結果としては、これはまったく対策しなくてもいいんではというくらい何もなかった。

デマや情報工作

それから、英語圏の金目当てのインフルエンサー工作員がばらまくデマ。これについてはジャクソン・ヒンクルという人物を特に焦点化して書いてあるのだが、昨今の世界の最先端で展開されている「ジェノサイド否認 (genocide denial)」は、パレスチナについてだけは捻転していて、「パレスチナの自由のために」とスローガンをかかげ、パレスチナのジェノサイドを止めろと叫びながら、中国のウイグルミャンマーロヒンギャについてのジェノサイドは認めないという人は珍しくもない。

それと、イランやロシアの息がかかった系の人々は、シリアのアサド政権による自国民虐殺(これは「ジェノサイド」とは定義されないにしても「無差別的大量殺人」である)は積極的に否認してかかる。11月から12月にかけて、イスラエルガザ地区について「役者が怪我したふりをしているだけ」という情報工作を行っていたのとよく似ている。そういう人々の言う「人道」など信用してはならないし、信用できるものと扱ってもならない。ウクライナマリウポリで攻撃された病院も、シリアのイドリブで攻撃されている病院も、パレスチナのガザで攻撃されている病院も、全部病院である。ミサイルの標的にされることなどあってはならない病院である。

ちなみに、現在、ロンドンなどで「パレスチナに自由を」と叫んでデモをしている人々の中には、10年前のシリアでの虐殺については「偽旗」呼ばわりしたり、「人々を殺しているのは、アサド政権転覆を狙うイスラム主義武装組織だ」という虚偽言説をばらまいたりし、当時のキャメロン政権によるシリア軍事介入を阻止し、そして、軍事介入を阻止しても殺戮を止めようとしたんならわかるけど、殺戮をただ放置した「シリアに手を出すな」運動の人々もいる。私は今のパレスチナ情勢をめぐるロンドンのデモのプラカードの中に、シリアでの虐殺を前に否認論をぶちかましていた自称・「反戦」団体のロゴを見ると、どうしようもない嫌悪感に震えている。私がガザに関するハッシュタグと同時にシリアに関する翻訳を(ほんの少しとはいえ)やっているのは、パレスチナ支援筋の一部にあるシリア虐殺否定を絶対に容認できないという意思表示でもある。

ガザ内部からの声はどうかというと

ガザ内部からの声に、こういった、いわば「問題発言」が含まれている可能性はゼロではなかったが、自分らで墓穴掘るような発言をネットに慣れた人たちがするとはあまり考えられないし、仮にあったとしても、それが翻訳されて出てくることはないだろうと私は考えていた。翻訳者のフィルターがあるし、そもそも武装組織の実効支配する地域で、人々の発言は自由なように見えても実は完全に自由ではない。「可能な範囲で自由」ということにすぎない。

私が10年以上フォローしている人々による、世界中に公開されている発言にも、言外の意味があることは、しょっちゅうではもちろんないが、さほど珍しくもない。どのメディアの記事を紹介するか、あるいはメディアの記事の紹介などということをするかしないか(もちろん、メディアの記事のことなど書かず、身の回りのことだけを書く人もいる……パレスチナだって日本だって同じだ)、といったレベルのことだ。

武装勢力の支配とはどういうものか

そういうところを見なければならないというのは、私は、1998年の和平合意以降の北アイルランドをネット越しに見て勉強させてもらった(Slugger O'Tooleというグループブログのコメント欄に一番多くを教えられた。読んでるだけで勉強になったし、なんだかんだ、私の頭にしみついていたリパブリカンプロパガンダも、ずいぶん抜けた)。紛争期の北アイルランド、特にアイリッシュナショナリスト側のコミュニティは、武装組織が警察代わりという時代がかなり長く(例えば、映画『父の祈りを』の冒頭を参照)、発言には慎重さが要求されていたし、紛争が終わって20年以上になる今も、まああれだ、ごにょごにょ……ということは、Aoife Moore, The Long Gameの前書きなどにはっきり書かれている(ああいうことが本の中ではっきり書かれるようになっただけ、時代は変わったと言えるのだろうか……)。この前書きは、下記、Amazon Kindleの「試し読み(サンプル)」で読めると思うので、読んでみてほしい。フィクションではなく現実の話で、相当怖い*8

でも、あんまり直接的ではない形で、おそらくは善意に基づいて、とんでもない翻訳が行われた

さて、長々と回想してきたが、こんなふうに、ただタテのものをヨコにするのではなく、実は細心の注意を払って、10月12日から3か月半ほど続けてきた「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグだが、今月いっぱいで、少なくとも私は、終わりにしなければならないと判断することになった。

11月にふと思いついて、私が訳したツイートを小さく薄い文字で背景に流し込み、前面にハッシュタグを大きく入れた短冊形のチラシを作って、(出不精の私が)出かけていった先で配ったりして、容易にエコーチェンバー化するネットとは全然違う、リアル世界の中にこれらの言葉を持ち込むということをやり始めていて: 

ちょうど1月28日(日)にも関連の講演会に行ったので、そこでも主催者さんに許可取って配らせてもらってきたのだが(このときは2枚組): 

この講演会から帰ってきたら、あごが外れるかという事態がTwitter/Xの画面に出来していた。

何があったかをテキストデータでこのブログに書くこともはばかられるのだが(下に画像で載せます)、少し気を取り直したあとでTwitter/Xに投稿したものを引用しておこう。

具体的に何があったのか

具体的に何があったのかを画像で説明しておこう。上記連ツイで「武装勢力プロパガンダ」と述べているのは、下記である(画像はモザイク処理した)。

ツイート全体のキャプチャ。個人アカウント名はマスクしてある。

この投稿をしたアカウントも、翻訳、アドバイス、監訳としてクレジットされているアカウントのほぼすべても、「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグで見かけていたアカウントである。というか、このハッシュタグで活発な発言者で、正直、ハッシュタグ発起人の私よりずっと活発な人々だ。

そしてこの人たち、多くはおそらく素で、本当に真摯な気持ちで、「メディアはイスラエル側の言い分ばかりを取り上げている。それは不公平だ」という動機で、ガザの市民たちとは別に、ハマスの文書を手掛けたのだろう。

まったくの善意であるとして、そこで「いや、そのりくつはおかしい」とならないのがなぜなのか、私にはまったく理解できないが、人それぞれバックグラウンドというのはあるんだし……と思ってみたところで、目が回ることには変わりはない。

これは暴走だ。

何がどう「暴走」なのか

手を付ける前から「これは暴走である」と判断できなかった人たちに、これの何がどう「暴走」なのかを説明したところで、たぶん通じないんじゃないかと思うが、一応書いておこう。

イスラエルは、何か少しでもハマスと関係ありそうなものに「ハマスだ」というレッテルを貼って歩いている。そのうえで破壊行為の対象としている。ガザ市のメインの病院だったアル=シファ病院がどんな脆弱な根拠に基づいてどんなふうに「ハマス」視されてどんなふうに扱われたかは、誰でも記憶に残っているに違いない。あるいはもう忘れた? 

ではここで問題です。「ハマスの文書を翻訳したよ。うまくできたよ。みんな読んでね」なんて言ってネットにそれをアップする人たちは、イスラエルやその支持者からどう見られるでしょうか。

そこで止まるんならいいよ。まだ。

その翻訳者(「ハマス」)が過去に訳した市民は? イスラエル式の理屈だと、その市民も「ハマス」になるよね。

と言われて「そんなのバカげてる。イスラエルは冷静になるべきだ」と怒り出しちゃう人は、正直、このジャンルの翻訳には向いていない。このジャンルの翻訳に必要な、冷静な事実認識ができないのだから。あなたがどう思おうと、イスラエルがめちゃくちゃなことをやっているという現実は現実、あなたが怒ったって変えられない。それを前提にしなくちゃいけない。その中で、誰も危険な目に遭わせないようにしなくちゃならない。

うちら日本語圏の翻訳者が日本語化しているガザ市民の多くは、既に標的化されている集団に属している。ジャーナリストや大学の先生、医師など医療従事者に、支援ワーカーなど。私たち翻訳者がやらねばならないのは、その人たちの言葉を日本語化してハッシュタグをつけて送信ボタンを押すことだけではない。そういう人たちを守ること、というか、自分のせいでその人たちを危険にさらすような事態を招かないことだ*9

こんなの、人道支援(翻訳ボランティアもそのひとつ)の一丁目一番地、この分野に手を出すんなら、説明せんでもわかってるはずだろっていうことである。

あとは……ああもう無理。言語化できない。花投げたい。

私 @nofrills はこのプロジェクトとはまったく無関係

ともあれ、こうなった以上、私は私とつながっている人たちを守るためにできることをしなければならないので、はっきり書いておくことにします。エビデンスも添えて。

まず、この暴走行為には私は一切かかわっていません。こういうプロジェクトがあるということも聞いていませんでした。聞いてたら絶対に阻止してました。まさに青天の霹靂。気持ちはわかるんだよ、私だって若いころにIRAのこういう文書に接することができてたら自主翻訳してコピー機かリソーグラフで印刷してばらまいてたかもしれない(私の「コピー機印刷」歴を知ってる方は微笑んでくれていいのよ)。でも、これはやるべきではなかった。身内の資料として回覧したいのだとすれば、ネットで公開してやるな。ましてや宣伝するな。

というか「こういうことはやるべきではない」という判断ができない人たちが翻訳ボランティアをやってるということは、翻訳対象の人たち(ガザの人たち)を危険にさらしかねないことで、それは私の大失敗かもしれない。

でも、誰が予想します? ガザ市民の苦難に黙っていられなくなって、その人たちの言葉を訳している人たちが、ハマスの文書をそのまま訳して、嬉々としてネットにアップするなんてことがありうると。

そういうことをしてはいけないと説明する必要があったなんて、全然思ってもいなかったし、そもそも「その情報源はやばいっすよ」って言ったところで、個人的につながってる人でもない限りは、ほぼ聞く耳持たれてなかった。その時点で「やばい」とは思ってたんだけど、Twitterのような自由な場で、私に何ができると? 

私 @nofrills がよく翻訳しているガザの人たちも、もちろん、このプロジェクトとはまったく無関係

私がよく日本語化しているのは、在米・在英ユダヤ人団体のほか、10年以上前からずっと継続的にフォローしてきたガザの市民の投稿ですが、それらの人々も、このプロジェクトとはまったく無関係です。

このプロジェクトはハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」とは別におこなわれた

プロジェクトの告知のツイートにも、その後のツイートにも、「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグは添えられていません。つまり、ハッシュタグとは別に行われています。

けれども、ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」と無縁ではない

けれども、ここに参加している面々は、上述した通り、「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグでよく見かけていたアカウントで、しかも活発な発言者が多い。つまり、「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグとは別の活動だけど、無縁の活動ではない。翻訳やその周辺作業にあたった「有志」は、どこでどうやって徴募したのか? 私は知らないけど(声がかからなかったから)、「#ガザ投稿翻訳」のハッシュタグと関係のないところで生じた動きだと考えることは無理でしょう。ハッシュタグ発起人としては、頭を抱えるよりない。眠れないよ。

プロジェクト参加者と @nofrills の接点について

では私個人との接点はどうかという点について、エビデンスを示しておきます。これは現時点では外部からの検証が可能(月が変わったらフォローの見直しをするので、検証ができなくなるかもしれません)。結論からいえば、極めて限定的な接点だけしかない。

以下、キャプチャ画像を中心に。

まず、プロジェクト参加の有志として名前が挙げられているのは、K氏、F氏、G氏、S氏、Ma氏、B氏、Me氏、A氏の8人。

そのひとりひとりについて見ていこう。

まずフィード主であるK氏。私からの一方的フォロー。フォローしたのは、K氏がハッシュタグでひときわ活発な参加者で、重要な報告者(ガザ市民)の映像報告の動画に字幕をつけるという大切な取り組みをしていたから。一度か二度、引用リツイートでお声がけしたことはあるはず(反応はいただいてないはず)。 

次、F氏。ハッシュタグ(のアーカイヴ作成作業)でよくお見掛けしていたものの、接点は全くなし*10

3人目、G氏。ハッシュタグでお見かけした記憶も私にはなく、接点はまったくない。

続いてS氏。フォロー・被フォローの関係はないけれど、私からはよくRTしているし、ハッシュタグでお見掛けすれば翻訳も上手な方だと感心してきた。でも接点らしい接点はない。

その次にあるお名前(「翻訳」の4人目)は、さっきとダブるけどK氏。

次のセクション。「イスラム文化アドバイス」にクレジットされているMa氏。まったく知らないアカウントさんです。

「ITアドバイス」は相互フォローさん。リプなどのやり取りをしたこともあるアカウントだが、深い知り合いでは全然なく、そもそも今回のジェノサイドが始まってこのハッシュタグが動き出してから作られたアカウントのはず。どうやらずっと以前から私のネット上の発言はフォローして下さっているようだが、プロパーなハンドルが不明なので(#ガザ投稿翻訳 のためのハンドルでツイートされている)、どなたなのかも皆目わからない。

アラビア語監訳」は、ハッシュタグで貴重なアラビア語翻訳者さんということで当方からフォローしているという以上の接点なし。

最後、「英語監訳・構成」のA氏は相互フォローで、この中で唯一、ジェノサイド前から私がフォローしているアカウント(訳書を拝読したことがあるプロの翻訳者さん)。あちらからのフォローはジェノサイド開始後、あるいはハッシュタグ稼働後のはず。

以上。つまり、私は「安全」です。当該の翻訳済文書にアクセスもしていません(武装集団の文書がアップされてると宣言されているURLをそのまま踏むほど愚かではないし、しかもTwitter短縮URLって追跡されて解析されてるって……)。

というわけで……

というわけで、私にとって、「#ガザ投稿翻訳」は1月31日でおしまい。2月1日からは「#ガザ市民の声翻訳」に移行します。他の人はどういう選択をしていただいてもかまいません。国際司法裁判所が「これはジェノサイド行為である」と言ったら、大国からのUNRWAの資金が停止されるなど、実際に起きていることが異常すぎて、もう、ハッシュタグでどうこうっていう段階じゃないし、アクションの呼びかけ(日時や場所など)でなければ、タグが乱立しようが何しようがもう関係ないと思うし。

ガザの外からのツイートについても新しいハッシュタグを使うことにしますが、それはまだここでは告知しなくてもいいかと。荒らされたくないし、乗っ取られたくもないから。ひそかにやります。

新たにネット翻訳に参加なさりたい方は、パレスチナであれどこでれ、「子供が殺されててかわいそう、何とかしたい」ってだけで翻訳に参入せず、人道支援の基本(自分の行動のせいで、対象者に危険が及ぶことがあってはならない)を押さえて、現地で生じうるリスクについて一般的判断ができるようになってからにしてください。

ブックリスト

あと、中東の基本は押さえておこうね。ナトリウムとか硫酸とかいった物質の性質を知らない人は、化学の論文は訳せないでしょ。時事の分野も同じ。基礎知識なしでは何もできません。高橋和夫先生の下記の本は本当に易しいし、ありがちな疑問点をピンポイントで解説してくれてるのでおすすめです。

これでは簡単すぎるという方は、オスロ合意前の本ですが、講談社現代新書がいいです。特にイスラエル建国の過程。

ダニー・ネフセタイさん(埼玉県在住のイスラエル出身家具職人。徴兵制でイスラエル空軍を経験)の本も、パレスチナに心を寄せている人にもアクセスしやすいイスラエル側の声としてぜひ。

それから、岡真理先生の緊急講義の書籍化。

グラフィック・ノベルの表現が得意な人はジョー・サッコも。ここに挙げた本の中では高額本。

あとまだ買ってないんだけど、『現代思想』の2月号がすごそう。

『世界』の1月号もよかった。これはバックナンバーになっちゃってるので、電子書籍か、公共図書館が手っ取り早いはず。

ちなみに、日曜朝の結構大きな地震で崩れるんじゃないかと心配していた本の山の一部がこちら: 

※更新履歴

2024年1月30日朝8時過ぎ: 記事公開。

2024年1月30日夕方6時ごろ: 誤変換修正などムシ取り作業、画像で間違ってたのの差し替え作業(当方からのフォロー関係がある方について、なぜか「関係なし」と書いていた)、註という形での追記、その他、補記、ブックリスト追加など微修正。

 

2024年1月30日夜7時ごろ: はてブ、あざっす。「からあげ」さんの本もおもしろそうだよね(「AIを使いこなす」的言説へのカウンターとして最高なタイトルだし)。

さらに:

blog.hatenablog.com

 

※デマの流布はやめてください。

とんでもないものが翻訳されて青天の霹靂。ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を、少なくとも私は、終わりにせざるを得ないことについて(次のハッシュタグもあるよ) - Hoarding Examples (英語例文等集積所)

うーん、昔からナイーブな人だなとは思っているので、止めるの不思議もなく。

2024/01/30 19:54

b.hatena.ne.jp

いきなりバカにしてくれるよね……そもそもこの人と接点持った記憶はないんだけど(はてブにいてどこにでもいっちょかみしているIDという認識はあるけど、発言内容とかは覚えてもいない)、誰が「止める」と言っていますか。

本稿のタイトルを再掲しておきましょうか。

"とんでもないものが翻訳されて青天の霹靂。ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を、少なくとも私は、終わりにせざるを得ないことについて(次のハッシュタグもあるよ)

これでも読めない? 大事なことなので二度言いますか? 

(次のハッシュタグもあるよ)

その「次のハッシュタグ」も、本稿に書いてあります。以降、当該IDは非表示にしますね。だって私、「ナイーブ」なんですもの。

というかまじめな話、「自分を守りたい」んじゃなくて、「自分とつながっている現地の人々を危険にさらすわけにはいかない」んです。これはパレスチナ支援の情報網のあれこれを知らない人はわかんないと思う。端っこの方だけど、15年以上の蓄積は一応あって、何がどう問題になりうるのかというのは、それなりに知ってはいるわけです。私から言えるのは、そこまでです。

ところで、『ペガサス』ってご存じです? 

「ペガサス」について

×8300 〇8200

 

*1:その事実確認は、自分の中でやればよいことである。Twitterのような場で表明すれば、イスラエルとその支持国による「だってハマスがああいうことをしたので」という無茶苦茶な正当化と同一視されるだろうから、いちいち表明する必要はない。念のため。

*2:逆に言えば、それを書けないようなものは、翻訳して流しちゃいけないんである。不確かな情報でしかないから。

*3:一方で、日本語圏で非常に目立るようになってきているいわゆる「インプレゾンビ」は見かけなかった。インプレゾンビの多くはパキスタンウルドゥー語なのだが、ゾンビたちも一応、このハッシュタグは荒らしてはならないというくらいの敬意は持っていてくれたのかもしれない。

*4:12月初めまで。その後、引き継いでくださる方を募り、無事引き継いでいただくことができた。

*5:ブログ転記時の注: Twitterでそういう人に遭遇したことがあるのです。そしてなぜか誤訳を指摘した私が悪いということにされていたらしく、例によって「文法なんかにこだわるのはバカ」論まで飛び交って、翻訳クラスタ大失笑、私のTwitterハンドルは長くなりました。んで、そのときに「親衛隊みたいな人たちを組織」した方面からも、#ガザ投稿翻訳 へのハッシュタグ参加はあったんです。私が「中の人」だということを知らんかっただけかもしれんけど。

*6:この「バックグラウンドの調べもの」をしないと翻訳などできない知識レベルであるにもかかわらず、ことばだけ日本語にしていたケースも、少なくなかったと思います。英語と日本語だけできたって、英日翻訳はできないんですけど、Twitterではそういうことが見えなくなる。

*7:そっち方面の掲示板に私のブログが丸ごと貼り付けられたりしてたんで、いろいろあったんです、昔。

*8:日本の会社の「社内政治」でもあるようなことではあるけれど。

*9:かつては、「ジャーナリストなどは、英語圏で広く知られた存在にしておけば守れる。そういう存在を殺せば、英語圏で世論が沸騰してしまうので、標的にされない」というセオリーがあったが、最近はそうでもない。もはや「英語圏で有名な存在」にしておくことは、何も保障しないかもしれない。ロシアでアンナ・ポリトコフスカヤが殺されて、風向きが変わったんだと思う。ブラジルやフィリピンなどでもひどいことになっている。

*10:接点はないから、私がハッシュタグをチェックしたときのTop Tweets/Postsには現れていなかった。それがTwitter/Xのアルゴリズムで、それがフィルターバブル。

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