Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

極右勢力が使っている北欧神話のシンボルについて(議事堂乱入男のタトゥーを読み解く)※今日は英文法はお休み

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【追記】本稿には続きがあります。そちらも併せてお読みください。

hoarding-examples.hatenablog.jp

本稿を書いたことで、改めて、英語で情報を入れている人とそうでない人の基本的な了解事項の格差(ギャップ)を知らされました。少しでも埋めたいので、当ブログはしばらくこの話題でこんな感じで続けます。受験シーズンに英文法から離れてしまって申し訳ないです。英文法の実例・解説が必要という方は、過去記事をあさってみてください。【追記ここまで】

 

今回は、英文法の実例とはちょっと方向性の違う内容で。

現地時間1月6日の米国会議事堂乱入についての報道で、やたらと目立っていた人物がいる。角のついた毛皮の帽子をかぶり、槍にくくりつけた星条旗を持って、顔にも星条旗の模様をペイントした男だ。とても目立つので取材陣のカメラにもよく写っていて、この日のために現地に入っていたというフリージャーナリストの横田増生さんの記事(『フォーサイト』掲載)にも、議事堂の外で拡声器で何かを呼びかけている最中と思われる写真が入っている。夏ならまだしも、この寒い時期に、ほかの人々がみなダウンジャケットなどの防寒着に身を固めている中で上半身裸に腰パンでうろうろしているのは、上半身をいろどるタトゥー(刺青)を見せつけるためだろう。そしてそのタトゥーは、ある程度の知識があれば「あ、そちらの方ですか」とわかるようなものである。下記は、当エントリの下のほうでより詳しく言及するローリング・ストーンの記事からの引用だが: 

But there may be an even more blatant sign that Angeli is no friend to antifascists: his much-photographed bare torso is covered in symbols that have long been used by the white supremacist movement.

https://www.rollingstone.com/culture/culture-features/qanon-shaman-maga-capitol-riot-rune-pagan-imagery-tattoo-1111344/

(英文としては、コロンの使い方に注目してほしい。) 

この男――私はTwitterで「毛皮かぶりもの男」と表記しているので*1、こちらでもそうさせていただく――は、実は陰謀論者集団「QAnon」関連の有名人だということが、議事堂の中で騒乱が続いていたときにはもうTwitterで指摘されていたと記憶している。しかしながら、「バイデン勝利」の選挙結果が出た後にドナルド・トランプを再度当選させるべく頑張っているトランプ側の弁護士(のひとり)であるリン・ウッド弁護士が、「あの男はトランプ支持者ではない。アンティファが雇った役者だ(アンティファが成りすましているのだ)」とかいうことをTwitterで発言したという*2。しかも、それがかなりの範囲で信じられてしまっているとかいうことで、陰謀論慣れしているはずの私も泡を食ってしまった。

ウッド弁護士らにそういわれてしまった毛皮かぶりもの男本人はかなり心外だったようで「僕は正真正銘のQ支持者で、アンティファなんかじゃないですけど。むしろアンティファやBLMに反対してデモしてましたけど」とかいう反応をしているそうで、何というか、何もかもがシアトリカルで見世物のようなのだが、何よりも見世物のように思えたのは、この毛皮かぶりもの男の衣装や化粧以上に、この歯である。

数々のニュース記事に添付されたこの写真、どこにも自然なところがないうえに、このきれいすぎる歯並び。「アメリカ人は歯並びをとても気にする」 というステレオタイプがあるが、仮にそうだとしたって芸能人でもない一般人でここまできれいに整えるのはすごいなとある意味感心していたのだが、逮捕後に母親が出てきて「うちの子、食べるものはオーガニック・フードでないと体調を崩してしまうので、金曜日以降何も食べていないんですよ」と語ったとかいうおもしろすぎる話などを報じている英デイリー・テレグラフの記事に入っている写真キャプションによると、俳優で声優なのだそうだ。俳優としての仕事をしているかどうかはさておき、心得はあるのだろう。カメラの前にどう立つのがいいか、よくわかってる感じがする。見せ方がうまい。(ほめているわけではない。)

The hardcore Trump supporter from Arizona is an actor and voice-over artist who is the unofficial "shaman" for QAnon - Agneli with Rudi Guiliani

https://news.yahoo.com/qanon-shaman-jake-angeli-not-101108668.html

ここで引用文の英文法を見ておこう。不定冠詞の重要な用法が入っている。"an actor and voice-over artist" はひとりの人間がactorでもありvoice-over artistでもあるということを述べるときの書き方。これが、「ひとりのactorと、ひとりのvoice-over artist」を述べる場合は、"an actor and a voice-over artist" となる。たった一文字の違いだが、意味が全然変わってくるので、特に冠詞というものを使い慣れていない私たち日本語母語話者にとっては意識的に注意しておくことが必要なところである。

で、この毛皮かぶりもの男が見せびらかしていた上半身のタトゥーだが、当然、それについても英語圏ではかなりいろいろと書かれている。

英語圏で書かれているものを紹介する前に、まず私のツイートから。 

私のツイートの2番目でリンクしているサイトのADLはAnti Defamation Leagueというアメリカの団体。反ユダヤ主義と対決することが目的の組織で*3、ウェブサイトで「ヘイトシンボルのデータベース」を提供している。今回のこのケースに限らず、西洋社会における人種主義についてのニュースを見る際に、これらのシンボル(マーク類)がわかると話がわかりやすくなるので、ざっと目を通しておくとよいだろう。

www.adl.org

毛皮かぶりもの男の左胸にあるヴァルクナット(ヴァルハラの結び目)は、それ自体では白人優越主義などとは何も関係がない。ちょうど卍やその鏡像であるスワスティカは、それ自体は単なる「幸運のシンボル」であるにも関わらず、ナチス・ドイツがシンボルとして使ったためにそのイメージがついてしまったようなものだ。日本のお寺が卍を使っているからといってナチズムとは全然関係がないように、北欧神話の文脈でヴァルクナットが使われていることがあっても、それは白人優越主義やネオナチとは関係がない。それでも、やはり、このシンボルは白人優越主義者が好んで使うものだから、特に北欧の外で使われているときは注意が必要なのである。

それについてドルー・ダニエルさんは「極右人種主義者やネオナチによって盗用されることが多い北欧の土着宗教のシンボル」と述べている。そういうシンボルを体中にちりばめている人物が「Qシャーマン」*4を名乗っていることの意味も重要だろう: 

このツイートにある "the TWP" は、サクッと検索した程度ではわからないと思うが*5アメリカのネオナチ集団、the Traditionalist Worker Partyのことである。

The Traditionalist Worker Party (TWP) was a far-right neo-Nazi group active in the United States between 2013 and 2018, affiliated with the broader "alt-right" movement that became active within the U.S. during the 2010s.

en.wikipedia.org

つまり、ドルーさんは、例の毛皮かぶりもの男が、極右が我が物顔でシンボルとして使っている北欧神話のシンボルをあれこれ刺青にしているだけでなく、同じ写真に写っているのがネオナチ集団TWPのメンバーである、ということを指摘している。

毛皮かぶりもの男の隣にいる黄色いスウェットシャツに長髪にひげの男については、「手の甲にソ連のシンボル(鎌とトンカチ)のタトゥーが入ってるからAntifa」というデマが流されたが、それは下記で詳しく検証されている: 

leadstories.com

ここまでですでに5800字を超えているが、もう少し。

ローリング・ストーンで書いているキム・ケリーさんが、ドルーさんと同様に、毛皮かぶりもの男のタトゥーの意匠について、ネオナチが盗んで、北欧神話での本来の意味とは違う意味をつけてしまっているということを解説している。

記事はこちら。すごくしっかり書かれたよい記事だ: 

www.rollingstone.com

同様に、これらのタトゥーの文様の意味を解説する記事はほかにも出ている。下記は、胸から腹にかけて入っている3つの文様について説明しているほか、左肩の丸いのはサンウィール(太陽輪)の変形だろうという解説も紹介されている*6

theconversation.com

サンウィールのように中心部の点から放射状に何かカクカクした線が出ている系の文様は、スワスティカ(鍵十字、ハーケンクロイツ)とぱっと見の印象が似ていることから、スワスティカを掲げることができない欧州の国で、ナチ、ネオナチ、極右がその代用として使うことがある。サンウィールの文様の場合はさらに、ナチスドイツの「SS」の紋章との類似性もある。

さらに、少し方向性を変えて、先ほどのローリング・ストーンの記事を書いたキム・ケリーさんが、コロンビア・ジャーナリズム・レビューに書いている記事では、これら北欧神話のシンボルとブラックメタル(音楽)との関係について説明されている。ケリーさん自身がもともと音楽ジャーナリストで、メタルの分野に詳しいのだそうだ。

www.cjr.org

この記事には、次のように、「トランプが退陣したとして、それで終わりというわけではない」という、不吉でなおかつ冷徹な事実の指摘がなされている。忘れてはいけない。11月の選挙で、民主党は、大統領選挙ではかなりの差をつけて勝利したかもしれないが、議員選挙や知事選挙では振るわなかったのだ。1月のジョージアの選挙の結果、上院の過半数を取ったから「終わりよければすべてよし」的になっているかもしれないが、今回の選挙結果、内実はとてもじゃないが安心できるようなものではない。

I DON’T NECESSARILY RECOMMEND immersing oneself in hatred in order to learn its contours. But journalists tasked with covering politics, technology, and national security would do well to take notes from leftist black-metal aficionados as a way of keeping officials honest and catching them in subtle acts of Nazi signaling. The incoming crop of congresspeople is especially worthy of this kind of cultural scrutiny—in the time since they’ve been elected to office, some have already made explicit use of white supremacist slogans, symbols, and memes.

From Hitler admirer Madison Cawthorn (R-NC) and Proud Boys supporters Lauren Boebert (R-CO) and Matt Gaetz (R-FL) to Marjorie Taylor Greene (R-GA), a follower of QAnon, right-wing politicians have embraced violent nativism and extreme far-right rhetoric. Identifying these things for what they are involves many of the same techniques used by a music writer—hearing words not only as they appear but listening in and searching for references.

http://cjr.org/first_person/heavy-metal-capitol-spotting-nazis.php

BBC Newsでは、毛皮かぶりもの男にインタビューした記者が、次のように書いている。

Earlier I asked Trump supporters in Tuscon if what they saw on Wednesday had changed their opinion of the outgoing president. No, they said, it was peaceful protest that had been infiltrated by violent members of the far left.

I asked Jake Angeli if that was what he witnessed. He told me there were no members of Antifa or any other left-wing organisations present in or around the Capitol building on 6 January. It was "patriots doing what our founding fathers would have done". The reason he knew that was "because Antifa are cowards who have no commitment to their country or their cause".

https://www.bbc.com/news/world-us-canada-55606044

この人たちの、この、「狂信」というか「信じて疑わない状態」が、それぞれどこに向かっているのか/向かっていくのかは、全然わからない。

ただ一つ、わかるのは、これは「(トランピズムの)終わり」などではないということだ。

私もこないだまでは「トランプが任期を終えたら、共和党エスタブリッシュメントは、まるでトランプなどいなかったかのようにふるまうのではないか」と考えていた。視界に入ってくるのがリンカーン・プロジェクトとかビル・クリストルとかだったからだ。だが、議会選挙の結果がああいう感じだったばかりでなく、トランプの暴力煽動に際しても共和党共和党としてトランプを見限るということをしないのが現実である以上、このままリンカーン・プロジェクト的な方向に行くとも考えづらい。

この事態を前に、自分に何ができるか、などということはどうでもよい。私が何かをしたところで何も変わらない。そうではなく、私は何をするか、だ。私は何を見るか。何を考えるか。

そのために、Twitterという場で、英語という窓を開け続けておく。

そんなことしかできないが、そういうことをしていると、次のような風が吹き込んでくるのだ。

 

※1万字超過。本家のブログ (seesaa) に書くべき話だったかもしれない。

 

長くなったので、便利サイトを改めて掲示しておこう。

www.adl.org

ウィキペディアのまとめのほうが見やすいかもしれない。

en.wikipedia.org

こんなこと、知っていたって役には立たないかもしれない。けれども、この辺をなんとなくでも頭に入れておくことで、「英語が読めない日本人」を信じ込ませて寄付金や会費を集めようというものに引っかからずに済むかもしれない。

 

参考書:  

アメリカ保守主義の思想史

アメリカ保守主義の思想史

 

これは勉強になりました。Alt-rightに飛びつくのではなく、アメリカの保守主義を、歴史をさかのぼってじっくり説明してくれています。

*1:「イスイス団」の例にならって、なるべく情けない感じで呼ぶことにした。

*2:私はその発言を直接確認していないので伝聞体で書いておく。ウッド弁護士のTwitterアカウントは凍結されているので、発言の確認が直接は取れない状態にある。ウッド弁護士の暴力煽動は度を越していて、さすがにドナルド・トランプのやり方に従えなくなったマイク・ペンスについて非常に危険な煽動をTwitterなどで行っている。

*3:いわゆる「白人」の社会の中では、「人種主義、人種差別 racism」といえば「反セム主義 antisemitism」つまりユダヤ人差別のことを言う。この差別は、白人による非白人への差別とはまた違った側面を持っている。

*4:欧州の「シャーマン」はキリスト教が入ってくる前の土着宗教の祈祷師や宗教指導者のこと。

*5:ウェブ検索ではわからなかったが、 https://www.abbreviations.com/TWP にはあった。

*6:左肩という場所が場所だけに、きれいに写っている写真がなかなか見当たらない。 https://news.sky.com/story/trump-supporter-riots-horn-wearing-qanon-shaman-jake-angeli-arrested-and-charged-12183494 ←この記事の一番上にある写真だとかなり見えているのだが、悲しいかな、私の目にはラーメンのどんぶりにしか見えない。