Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英語圏で起きていることが英語圏から日本語圏に入ってくるまでの時間差について、および入ってくる情報の質について、6日のワシントンDC暴動を例に

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今回も、引き続き英文法の解説はお休みして、ネット上の英語での情報について。

18日付でナショナルジオグラフィック日本版の下記のフィードを見た。17日付で日本版に掲載されている英語からの翻訳記事の紹介である。

私が見たのがたまたま18日付のツイートで、実は同じ内容でその前にも何度かツイートされているのかもしれないということで、当該投稿に含まれるハッシュタグを使い、Twitter上を「#シンボル from:NatGeoMagJP」で検索してみたが、これしか出てこないので、これが初出だろう。

ここで日本語訳されているNational Geographicの記事は、14日付の当ブログでも言及しているが、12日付のものである。

つまり、12日付の英語記事が、掲載媒体の日本版で読めるようになるまで、5日ほどかかっているということになる。

これは、翻訳というプロセスにかかる時間を考えれば特に長いわけではない。報道機関が「現地メディアは~ということを伝えた」という形式で大雑把な内容を伝えるときはこんなに時間がかからないのだが、元記事をそのまま翻訳する場合、つまりある英語媒体の日本版として運営されている日本語媒体が英語記事を日本語に翻訳する場合は、翻訳する記事の選定に始まり、翻訳された記事のアップロードに終わる一連のプロセスは、このくらい時間がかかるのが当然だ。もちろん、これは逆の方向(日本語→英語の翻訳)でも同じことが言える。

だから、このように「翻訳記事を待っていると遅くなってしまう」こと自体は当然のことだし、だれかを責めるべき問題でもない。むしろ、それを「問題」と感じるのなら、個々の情報の受け手で解決していくよりないという性質の「問題」であり、英語記事の場合その解決はさほど難しいことではない。自分でアンテナを張って捕捉した記事を、自分で読めばいいのだ*1

個人的には、こちらのエントリをはじめ何度か書いているように、現在ネットでだれでも利用できるように開放されている無料の機械翻訳についてはかなり懐疑的な立場だが(実際に、このようなひどい誤訳、出力された日本語文を見ただけでは「誤訳」とわからないようなやっかいで、なおかつ重大な誤訳が生じることについて、防げないどころか、防げる・防げない以前のチェック機構すらないシステムである)、それでも、ある程度の文脈のある報道記事のようなものを、大意をつかむために(つまり、細部の厳密性は全然信頼できないと想定して)ひとまず機械翻訳にかけてみるといったことは、自力では読めない人にとっては有効といえるようになってきているのではないかと思う。

(ただし、ウェブ上の機械翻訳に機密性のある文書をアップロードしてはならないということは、言うまでもないだろう。会社の社内文書や契約書、仕様書の類を、Google翻訳などにアップしてはならない。公開されている報道記事やプレスリリース、市販品の取扱説明書、法律の文面などなら大丈夫であるにしても。)

 

実際、National Geographicの英語記事も、6日に起きたことについて12日に出ているわけで、もともと速報性は度外視されているのだが(媒体自身が速報性を重視する媒体ではない)、この記事で取り上げられている「議事堂乱入時に暴徒が掲げていたさまざまな旗などのシンボル類についてのまとめ」みたいな記事は、米メディアでも、もっと深刻で差し迫った問題(何が起きたかの把握と分析、被害状況の把握、どんなことが起こり得ていたかの分析、今後どうなるのかといったことなど)の次という扱いになっていて、どこでもいくらか時間がかかっていた。NatGeoの記事と同様に14日の当ブログで言及したTIMEの記事も11日付である。また、Insider Newsという新興のネットメディア*2映像でまとめているものも、18日にフィードされていた。

www.nationalgeographic.com

time.com

だが私が見ていたTwitterの画面内では、最初から旗などのシンボルは大きな注目を集めていた。私自身が注目していたから他人が注目しているのが目についた、ということもあるだろうが、この件で最初にリツイートしたのが「旗」についてのツイートだった。日本時間7日の朝方4時台のことで、1月6日のDCでは何があるかわからないと気になってたから少し寝た後で布団の中で「……」と思いながらぼーっと見ていたのだけど、これを見て「むー」と思って、もそもそと起きだして、自分でもぶつぶつつぶやき始めたのだ*3

"blue lives matter" は、Black Lives Matterに対抗するように出されたスローガンで、「青」は警官を象徴する。米国旗の中に1本だけ青い線が入った旗はそのシンボルだ。そしてその旗を掲げる者もいたにもかかわらず、暴徒たちは議事堂を警備する警官に襲いかかり、死なせてさえいるのだが、この時点ではまだ事態はそこまでは進展していない。

 ……という具合に、リアルタイムでアメリカから流れてくるツイートを追うなどしていた。どういうものを見ていたかを書き留めておくため「これは」と思ったものはリツイートしてあるのが、当日のログでご確認いただける*4。私のTwitterはもともと日本語の比率が低いのだが、このときは日本語のツイートはほとんど見かけなかった。アメリカのような国で、過激派集団が議事堂に乱入して占拠、という事態が起きているのに、日本語の報道機関からのツイートは何も目にしなかった。私のフィルターバブルのせいもあるだろうが、同じ現象を在英のマクギネス真美さんも確認しておられるので、私だけの問題ではなかっただろう*5

朝の4時台だから人々が寝ているのは当たり前だが、報道機関まで寝静まっているとは考えられず、これには本当に戸惑った。何があったのかは知らないが、とにもかくにも、日本語でしか情報を入れていないと、こういうときに遅れてしまうのだ。

今回の場合、1月6日が大変なことになるというのはドナルド・トランプのツイートなどで予告されていたわけで、報道機関の沈黙は「突発的な事態が発生したが、時差のせいでみんな寝ていた」と、時差のせいにはできない。どういう判断なのか理解に苦しむが、報道機関の判断(「1月6日は特別体制をとらない」という判断であれ、「速報するまでもない」という判断であれ、あるいはほかの何かであれ)によってこういうふうに情報が入ってこないということはここ日本で現実に発生している。

事後的に見れば、「暴徒が議事堂に押しかけて乱入し、物品を破壊して回った」程度に見えるかもしれないが、リアルタイムで見ていたときは、本当に、何がどうなるのかわからなかった。というよりもこれは、安易な比較はよくないのだが個人の感覚としては、2001年9月11日の夜に東京でNHKのニュース(当時は私もTVを持っていた)にかじりついていたときの感覚に似ていて、「何がどうなるのか」以前に「何が起きているのか」が把握しきれない、という感覚だった。例えば下院の議場から、議員によって「床に伏せ、ガスマスクを装着せよと指示された。議場の正面入り口ドアをデモ隊が叩き、議場警備員とキャピトル警察が銃を抜いている。これは抗議デモ (protest) ではない。これはアメリカに対する攻撃だ」というツイートがなされていたのだ。

しかも警官の一部は、議事堂内に押し入った暴徒と記念撮影をしている。

 明らかに、警察の中に暴徒側の共感者がいるという事態だ。

 

そして実際に、「(トランプ大統領を支持することを拒絶した副大統領の)マイク・ペンスを殺せ!」と叫んで押し寄せた暴徒は、キャピトル・ヒルに手製と思われる木製の絞首台*6を持ち込んでいたし、"zip tie(s)" と呼ばれる結束バンド(それも、荷物用のではなく人間に使う簡易手錠)の束を手に持って議事堂内をうろつく暴徒の映像もある。

しかも、例のオーガニック・フードしか食べない毛皮かぶりもの男は、どういうものだかはわからないが槍を持っている――人を刺すことができる槍(の形状のもの)に、米国旗をくくりつけていたのだ。(なぜその場で制圧されなかったのだろう。)

さらに、議事堂の敷地内では火炎瓶が詰まったクーラーボックスが、議事堂のすぐ近くにある共和党民主党両党の党本部 (national committee) ではパイプボムも発見されている。「パイプボム」は、水道管のようなパイプの形状のものをガワとして利用する手製の爆発物 (IED) である。

※出典はガーディアン記事。 

こんなことは、もちろん、突発的に起こることではない。事前の準備が必要だ。それもよほどの準備が。

こういう中で、不確かだからリツイートはしなかったんだけど、「議事堂内で発砲 (shots fired)/銃撃 (shooting)」といった言葉もTwitterで流れてきた。画面のこちら側で私が何かとても悪いことが起きていると考えたのは当然のことだろう。実際には、暴徒に対して警官が発砲した(その結果、暴徒の中に死者が出た)ということで、私が想像したような「何かとても悪いこと」ではなかったのだが、そのときはそこまではわからなかった。とにかく、とても深刻な事態が進行中だということは明確だった。

このように、何が起きているのかについての情報が、たとえ断片的なものであってもリアルタイムで入ってきていれば、日本で7日の朝の活動開始時刻が訪れるころには、「ワシントンDCで議事堂に暴徒が乱入した。事態は深刻で、それは事前に準備されていた」ということは当然の前提となっていただろう。

だが、日本語圏、そこがどうも曖昧だったようだ。

あるいは、わざわざ木材でこしらえたらしい絞首台の写真や映像を見ても、「アメリカン・ジョーク」だとでも思ったのだろうか。

事前にドナルド・トランプ本人があおっていたのに? 

トランプがどんなふうにあおっていたかは、暴動のすぐあとにいくつかのメディアが「まとめ」記事を出していた。例えばガーディアン: 

19 December – Be there, will be wild
At 1.42am in the early hours of 19 December Trump tweeted the lie that it was “statistically impossible” for him to have lost the presidential election. He gave his first notice of a “big protest in DC” on 6 January. “Be there, will be wild!” he said.

19 December – The cavalry is coming
Within hours, fervent Trump supporters began to heed Trump’s rallying cry. Kylie Jane Kremer, founder of a Stop the Steal group banned by Facebook, picked up the notice about the march and ran with it. “The calvary (sic) is coming, Mr President!” she said.

Trump retweeted Kremer’s post, saying: “A great honor!”

1 January – You got to go to the streets and be violent
Louie Gohmert, a Republican Congress member from Texas, responded in inflammatory terms to news that his federal lawsuit seeking to force the vice president Mike Pence to block certification of Joe Biden’s victory had been dismissed.

“The bottom line is, the court is saying, ‘We’re not going to touch this. You have no remedy’,” he told the right-wing outlet Newsmax. “Basically, in effect, the ruling would be that you got to go to the streets and be as violent as Antifa.”

... 以下略

www.theguardian.com

これが法的に「煽動 (incitement)」に当たるかどうかは後日の議論となったわけだが、トランプがこういう発言をこういうふうにしていたという事実は、非常に素早く確認・検証されていた。

というか、アメリカのニュースをそれなりに追ってた人なら、トランプがこういう発言をしていたということは把握していたわけで、そうして議事堂に押しかけた中に、極右勢力が使っている(盗用している)北欧神話のシンボルのタトゥーを入れた上半身を見せびらかしている人物や、「アウシュヴィッツ収容所: 労働はあなたを自由にする」とプリントされた服を着た人物がいたことを、トランプ政権成立での「アメリカ」そのものの変化、特に2017年シャーロッツヴィルのUnite the Right以降の変化(「極右のメインストリーム化)とつなげて考えないということはありえないし、「法の番人」でもないのに、それとこれをつなげることについて、「証拠がー」とか「短絡するのはどうかと思いますよ」、「結局のところ、悪ノリが過ぎただけでしょう」的なことを言って抵抗・妨害しようとする人たちがいたら、そういうことなんだろうなと思うよりないではないか。

日本時間で7日の早朝の時点で、上述のように「深刻な事態だ」と私が考えることができていたのは、ひとえに、英語で情報が入ってきていたからである。情報を日本語に頼っていたら、そもそもその時点では報道機関もすやすや寝ていたんだからたぶん何もわからなかっただろう。7日のお昼くらいになってニュースをチェックしたときに毛皮かぶりもの男の写真を見ても、「単なる変わり者」だとしか思わなかったかもしれない。日本のメディアではわかりやすい写真しか使わないのが常だから肝心のタトゥーが見えなかったかもしれないし。

 

収集がつかなくなってきたが、一応きりがよいところだし、ここで9700字を超えたので、この辺で。

f:id:nofrills:20210208061525p:plain

https://twitter.com/RepDanKildee/status/1346907565482004495


 

 

 

*1:日本においては事実上、英語は高校までみんな習っているんだから読もうと思えば読めるはずなわけで、したがって、さほど難しいことではないと言える。

*2:Business Insiderなどの大本。Business Insiderも日本版があるけど、英語版とはちょっと雰囲気が違いますね……。

*3:twitterは「鳥がさえずる」という意味で、これに「つぶやく」という日本語を当てたのは恣意的な翻訳でなければ誤訳で、自分では「ツイートする」ことについて「つぶやく」という日本語はとても違和感が大きいから使えないことが多いのだが、このときは文字通りに「つぶやく」感じだった。

*4:直観でリツイートを控えた不確かな情報もあるので、実際に目にしたのはこんなもんではなかったが。

*5:ただしTVの24時間チャンネルなどでは扱っていたのかもしれない。うちにはTVはないし、PCやスマホでTV番組を見るということもしないのでそこはわからない。

*6:段ボールで作ったプラカードやおもちゃの類ではない。