Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

極右勢力が使っているシンボルについて、さらにわかりやすい資料集&ユダヤ人とトランプ ※今日も英文法はお休み

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

今回も、いつもの英文法解説は基本的にお休みして、英語で情報を得ているとどんなことが見えるかということの具体例を示しておきたい。

前回のエントリは、当ブログにしては多数のブックマークをいただいている。日本語圏の情報がほんとにめちゃくちゃな中でたくさんの方に読んでいただけて、とてもうれしい。ありがとうございます。

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一件、とても気になるブコメがあるのでそれにお返事しよう。 「実際のところ、極端に多様な典型的なおもしろアメリカ人のひとり、でしかないんじゃないの」というブコメをいただいたのだが、悪いことは言わない、全体、いや、「全体」は無理だからもう少し広い範囲(例えば隣に立ってる黄色いスウェットの男とか)を見て、2秒くらいは頭の底のほうまで神経を動員して考えるということをしてから、発言しような。あと、発言する前に、リンク先読もうな。以上。

追加。「能力主義社会で虐げられた貧しい凡庸な白人達が、ルーツの文化を掲げて抗議するのをバカにするな」書いてないことを勝手に読み取ったうえで公開の場で言いがかりつけるの、楽しいっすか。「貧しく凡庸」などと決めつけてるのはあ・な・た。私はそんなことは書いてない。むしろオーガニック・フードしか食わないお金持ちなんじゃないっすかね。そもそも、極右は金持ちとエリート層が多いんっすよ。あと、どこに北欧がルーツだなどという話が出てたんでしょう。

閑話休題。 

北欧神話のシンボルが極右に盗用されていることはとても微妙な話なのだが、私もそんなに詳しいわけではないから、前回のエントリの中にURLを貼りこんだキム・ケリーさんがCJRに寄せた記事などを読んでいただければと思う(英語としてはかなり読むのが大変な部類に入ると思うが)。

北欧神話のような欧州の土着宗教(paganism)に、ナチス・ドイツを含めて極右が関心を寄せるのは、それが「よそ者」つまり「移民」*1が入ってくる以前の「ピュアなヨーロッパ」のものとみなされるためである。もちろん、バイキングだって自分たちだけで閉じた「ピュア」な状態にあったわけではなく、実際のところはそんなに単純な話ではないのだが、今の状態を「悪しきもの」として否定し、自分たちを "疎外" している「よそ者」がいなかった時代、つまり「回帰すべき過去」を夢見る思想においては、過去が実際にどうだったかなどということはどうでもよくて、ただ勝手に理想化された「過去」があるのみである。そのシンボルとして、北欧神話のモチーフが勝手に使われているのだ。

そういったことについては書籍でリサーチするのが最も手堅いのだが、ネット上でもある程度は確認を取ることができる。例えばここで「北欧神話 極右」、つまり「Norse mythology far-right」をキーワードにして普通にウェブ検索してみると、カナダのアルバータ大学という非常に信頼度が高そうなサイトのURLで下記の記事が見つかる。タイトルはずばり「白人優越主義者たちは、北欧神話を不正な形で使っている、と専門家はいう」。

www.ualberta.ca

この記事は、同大学で北欧研究の講義を担当しているNatalie Van Deusen教授に、大学サイトが話を聞いてまとめたものである。日付は July 30, 2020 となっている。

教授は、2021年1月6日のワシントンDCでの暴動(議事堂乱入)後にも「思えばあのときが決定的な分水嶺だった」的に言及されている2017年のシャーロッツヴィルでのUnite the Rightの集会や、2019年3月のニュージーランドクライストチャーチでのモスク襲撃テロで北欧神話のモチーフが白人優越主義者によって持ち出されていたこと、カナダでも活動しているフィンランドの白人優越主義集団が、北欧の神「オーディン」の名前を冠していることなどに触れ、ナチス・ドイツにさかのぼって、欧州系人種主義者が北欧神話を利用してきたことを解説し、記事の後半ではそのような理解は誤ったものであるということを具体的に指摘している。単語は簡単ではないし、分量も多めだが、カナダで一般的な大学生がサクサクと読めるものとして書かれている文章だから、読みやすいと思う。このトピックに関心がある方には、ぜひ読んでいただきたいと思う。

さて、このほかに、前回のエントリの補足として、さらに資料集的なものをいくつか挙げておきたい。

目次: 

 

「hate symbols」でウェブ検索すると、 前回言及したADLの "Hate on Dislay" というヘイトシンボルのデータベースが一番上に出てくると思うのだが、同種のデータベースというか一覧表的なものはそれ以外にもあるから、ウェブ検索の結果の画面をずずーっと下のほうまで見ていっていただきたい。

英・グレーター・マンチェスター警察作成の資料集(基本的なもの)

例えば、英国のトラッフォードという地方自治体(グレーター・マンチェスターの一部)のサイトに、グレーター・マンチェスター警察が作成した「極右シンボルなどの一覧」というPDFの文書がある。これが、基本的なシンボル一覧になっていてとても簡便である。

https://www.trafford.gov.uk/residents/community/community-safety/docs/extreme-right-wing-symbols.pdf

英国では、「テロ」といえば北アイルランド武装組織(特にProisional IRA)の政治的暴力、という時代がずいぶん長く続いていたが、北アイルランドの暴力が90年代末にだいたい停止するのとまるで入れ替わるようにして、イスラム過激派の行動が活発化した。それが、2001年の米同時多発テロ、2005年のロンドン公共交通連続爆破テロといった大きな事件を経て、さらに2010年代のイスイス団の煽動によるテロの続発という形で前景化したことで、今度は「反移民」という名目の反イスラムの政治暴力が浮上した。一方で、その英国では、北アイルランドの政治的暴力の時代からずっと、というかそれ以前から、極右の政治的暴力という問題は常にあった。ただIRAのようないわば「効果的」な爆弾を安定して作る能力が彼らにはなかったし、組織としてもあまり堅牢なものではなかった(情報機関が浸透しては内部から破壊して、組織化を防いでいたのだが)。だから、組織性を第一に考えていた英国の対テロ政策において、極右テロという問題は、常にあったにもかかわらず、ずっと見過ごされてきた。

英国で極右集団が初めて法的に「テロ組織」に指定されたのは、どの組織にも属さず、ひそかに極右思想を抱いていた人物が、国会議員を刺殺するというショッキングな事件が起きた半年ほど後の2016年12月のことだった。「ナショナル・アクション (NA)」という新興の、きわめて過激で危険な組織がその対象となった。そのときのことは本家のブログに書いてある

nofrills.seesaa.net

このように、「テロといえばIRA」から「テロといえばイスラム主義過激派」の時代を経てようやく、2010年代後半に極右も「テロ」扱いされるようになったことで、英国内の情報は厚みを増し、量も増えた。今回参照するグレーター・マンチェスター警察の資料はそういうところで作成されたもので、極右・ネオナチのよく使うシンボルが、わかりやすくまとめられている。次のような感じでとても見やすいから、DLしておくとよいと思う。

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https://www.trafford.gov.uk/residents/community/community-safety/docs/extreme-right-wing-symbols.pdf

米・ニューヨーク市の説明

ニューヨーク市でも、英グレーター・マンチェスターのと同じような一覧をウェブで公開しているが、こちらは画像なし、文章のみである。米国は英国とは文化が異なり、白人優越というより黒人差別の文脈でのシンボルがあるので、そういったものはこれで確認するとよいだろう。

www1.nyc.gov

 

2021年1月6日のキャピトルで見られたシンボル類の解説

今、「hate symbols」でウェブ検索すると、英語圏の各メディアが、1月6日のワシントンDCの暴動で見られたシンボルについてまとめている記事がたくさん出てくる。その一部をここに列挙しておこう。

TIME

この記事&映像の内容については次回また後ほど取り上げたいと思っている。

time.com

 

ナショナル・ジオグラフィック

記事をがっつり読んで内容を把握する感じで。これもできればまた次回後ほど。

www.nationalgeographic.com

 

オーストラリアのABC

米ブランデイス大学の教授が、1月6日のキャピトルで確認できたもののうち、特に反ユダヤ主義のシンボルについてまとめた解説記事。

www.abc.net.au

 

タイムズ・オブ・イスラエルとハアレツ

これは濃い。反ユダヤ主義のシンボルについての解説。

www.timesofisrael.com

ハアレツも似たような感じ。

www.haaretz.com

 

補足

確かに当日の議事堂占拠者の間では反ユダヤ主義のシンボルも散見されたが、同時にこの乱入者たちの中には、イスラエルの国旗を掲げている者たちもいた。横田増生さんの記事にもイスラエル国旗を掲げた議事堂押しかけ参加者の写真がある。タイムズ・オブ・イスラエルのようなメディアはそこはスルーしてるかもしれない。

実際、2000年代(特に2010年代以降)の極右は、従来のような反ユダヤ主義を掲げていないことが多い。イングランドのEDLもそうだが、「反イスラム」で「反左翼」ということで、左翼が支持してきたパレスチナに対し、イスラエルを支持するという「敵の敵は味方」みたいなスタンスが、極右の間では珍しくなくなっている*2

それも道理といえば道理で、ユダヤ人が自分たちのところから出ていって自身の国を持ってくれていれば、白人優越主義者たちも自分たちの場所でユダヤ人を排斥する必要はないわけだ。白人優越主義・ユダヤ人排斥運動と、イスラエル国への支持(シオニズムの支持)は、両立する。

そして、ドナルド・トランプの支持者にはユダヤ人・イスラエル人が多い。中東におけるアメリカの外交政策らしい外交政策を見せなかったトランプが唯一邁進し、ほぼ「暴走」と言える勢いでやったのが、イスラエルのネタニヤフ政権を支持することだったし。

かくして、「キャンプ・アウシュヴィッツ」なる反ユダヤ主義のTシャツ*3と、イスラエルの旗が同時に議事堂に存在するということが起きていたわけだ。

そればかりか、例の毛皮かぶりもの男のすぐ後ろにいた、POLICEと書かれた防弾チョッキに、なんか毛皮の衣類を着けたペイガン・ワナビーみたいなこの男、「ブルックリンの判事の息子」と言われていて、それだけでもかなりとんでもないことなのだが: 

この防弾チョッキ男が正統派ユダヤ教徒であることなどは、ひょっとしたらニューヨークをよく知る人なら言わずもがななのかもしれないが、うちらのような部外者には、「そこ、言ってくれないとわからないよ」というポイントである。

 ハアレツのこの2番目の記事(暴動の2日前の取材)がなかなかに強烈なので、見てみるとよいと思う。防弾チョッキ男の兄(か弟)がかなりすごい。

One Trump supporter who plans to attend the protest is Nachman Mostofsky, executive director of Chovevei Tzion – an organization advocating for Jewish values from a Conservative perspective on Capitol Hill. He decided to extend his current stay in Washington, D.C. when he heard about the pro-Trump demonstration.

“I think it’s going to be a crazy showing of patriotism,” he told Haaretz, adding that he has an American flag and a “Keep America Great” sign ready for the event.

... 

Mostofsky told Haaretz he rejects the idea that voter fraud in the 2020 elections is a conspiracy theory. “Conspiracy theory is when you see what’s obvious and you start connecting the dots that are not obvious,” he said. “I’m not an anti-vaxxer. Someone who believes in conspiracy theories believes in a lot of them.”

www.haaretz.com

モストフスキー氏、言ってることがかなりめちゃくちゃである。

この記事によると、2020年の選挙でトランプはジューイッシュの票の3割を獲得しているが、そのほとんどは正統派のコミュニティに属する人々であるとの由。

こういうことが、英語で情報を入れるようにしていれば、どんどん入ってくるわけだ。英語という窓を開けておくことで入ってくるのは、エリック・アイドルの発言だけじゃないんだよねー、とかなんとか言ってみちゃったりなんかして!

 

※7000字超えてるよ。

 

参考書:  

ラディカルズ 世界を塗り替える<過激な人たち>

ラディカルズ 世界を塗り替える<過激な人たち>

 

 Kindle Unlimitedで読めるようになってる。

 

【追記】ブコメより、id:oskimura 曰く: 「アメリカの右派がイスラエルを支持するのは敵の敵理論じゃなくて、聖書(創世記)の記述- アブラハムの子孫にイスラエルを与えるというアブラハム契約が原因。というかイスラエル建国自体にキリスト教徒の宗教的信念が」

宗教右派はそうですよね。ただ、私がここで言及しているのは宗教右派ではなく政治右派で、宗教右派と政治右派が重なっていることは確かなのですが、その「宗教的信念」を2010年代に政治的極右(アブラハム契約云々には必ずしも関心が高くない層)と結びつけたのは、「敵の敵は味方」理論の役割が大きいです。イングランドのEDLがロバート・スペンサー(リチャード・スペンサーではない)を招いてイベントを開催しようとしてスペンサーが英国で入国拒否になったころに詳しい分析をツイートするかブクマするかしています。ウェブ検索すれば見つかると思うので、関心があればどうぞ。

*1:ナチス・ドイツを含む反ユダヤ主義の思想にとっては、ユダヤ人も有色人種と同じくヨーロッパから排斥されるべき「よそ者」であることに留意。ありもしない「純粋」を求めて、「よそ者」を「悪」とするために仕立て上げられたのが、陰謀論である。

*2:いわゆるAlt-rightと、昔からの米国の極右(KKKとかアーリアンなんとかとか)との大きな違いもここにある。

*3:これについてはこの次のエントリで扱っている。※この注は、1月16日朝追記