Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

自動詞と他動詞と受動態、そして《行為主》の明示・非明示(燃えた/燃やされたミャンマーの村)

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今回の実例は、報道記事から。

「自動詞」と「他動詞」を区別すると、もろもろ効率よくなる、ということを、私はずいぶん遅くなってから初めて知った。中学や高校の英語の授業で「他動詞」なんて単語を学校で聞いたこともなく(私立校で英語に力を入れているところなどでは事情が違うかもしれない)、ましてや、「国語」という枠組みの中でごくわずかだけ習った日本語の文法でも、そんな概念は用いられていなかった。だが「自動詞」「他動詞」の概念を知ったとき、「こんな便利なものがあったのか」と感動すると同時に驚き、「そういうものがあるのならもっと早くから教えておいてほしかった」と嘆いたくらい、それは便利なものと感じられた。今でもそう感じているし、この便利さをわかってもらいたいと思っている(のだが、「学校で教えないこと」を教えると、邪教の宣教師というか麻薬の売人のように扱われることもあるのが現実だ)。

「自動詞」(intransitive verb: vi) は目的語を取らない動詞、「他動詞」 (transitive verb: vt) は目的語を取る動詞のことだ。

と説明すると「目的語って何ですか」という疑問が出るのが当然だし、そこを説明するのも当然なのだろうが、ここはただの個人ブログなのでそこは端折る。

「自動詞」は「自ら動く」場合、「他動詞」は「他を動かす」場合に使う。例えば:

  私は起き上がった。=自動詞

  私は倒れた人形を起こした。=他動詞

別の言い方をすれば、自分でするだけで、他のものに何かをするわけではないのが自動詞、他のものに何かをするのが他動詞である。「猫はぴょんと飛んだ (The cat jumped.)」は自動詞だが、「猫は地面を蹴った (The cat kicked the ground.)」は他動詞である。

そして、《受動態》が可能なのは他動詞だけである。「猫が地面を蹴った」は、立場を変えれば「地面は猫によって蹴られた (The ground was kicked by the cat.)」と言えるが、「猫が飛んだ」は立場の変えようがない。これを認識しておくだけでも、英語はずいぶん楽になるはずだ。

さて、以上が「自動詞」と「他動詞」の違いの基本的なところだ。

怪談で「そのとき、ドアがひとりでに開いたのです」というのは自動詞、「私がおそるおそるドアを開けると、中にいたのは……」は他動詞だ。

要点だけ言えば、「開く」は自動詞、「(~を)開ける」は他動詞である。

同様に「(お湯が)沸く」は自動詞、「(お湯を)沸かす」は他動詞だし、「(明かりが)灯る」は自動詞、「(明かりを)灯す」は他動詞である。

と見てくれば、「燃える」と「燃やす」も自動詞と他動詞だということが(何となくではなく)明確にわかるだろう。「炎が燃える」と「紙を燃やす」の違いだ。

このように、日本語では自動詞と他動詞とでは別な語になるが(「燃える」と「燃やす」は同じ語ではない)、英語では基本的に、語自体は同じである。「ドアが(ひとりでに)開いた」は The door opened. だし、「私がドアを開けた」は I opened the door. である。(話がここまでくると、わかりづらくなってくるかもしれない。)

……ということの実例になっているのが、今日見る報道記事だ。こちら: 

www.bbc.com

この記事をひらいたときの画面: 

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https://www.bbc.com/news/world-asia-57506196

見出しで "Myanmar village of Kin Ma burns down" と《自動詞》で使われている《burn down》が、リード文では "A village in the centre of Myanmar has been burned down" という《受動態》で、つまり《他動詞》で使われている。

この場合、理屈で考えれば、「村が燃えた」(自動詞)といっても、村は勝手に発火するわけではない。稀には自然発火することもあろうが(乾燥した気候で発生する山火事などはそうである)、この村は誰かが火をつけたからこそ燃えたのだろう。だから、見出しで自動詞を使って "Myanmar village of Kin Ma burns down" と書かれているのは、少し違和感を感じさせるのだ(違和感など感じないという人もいると思うが)。

ではこの村を燃やした(他動詞)のは誰か。つまり、《行為主》は誰なのか。それもリード文では明示されていない。《受動態》は、日本の学校文法的に言えば、行為主が明白である場合は行為主を書かない(English is spoken all over the world. というとき、"by people" とはいちいち言わない)。だが実際にはそういう場合に限らず、行為主をあえてぼやかすために受動態が用いられることがある。能動態だと主語という形で行為主を明示しなければならないが、受動態ならそうしなくても一応文は成り立つからだ。

報道記事である以上、村が自然発火したわけではないのに「村が燃えた」と書くのは実はおかしなことで――「おかしなこと」というのが過剰なら「言葉足らず」といってもよい。英語の表現ではhalf truthというのだが――、その点での違和感はこの記事の中の方にまで続いていく導線となっている。

記事の本文、リード文のすぐ次には、実際にこうある: 

Residents told the BBC that 200 of the 240 houses in Kin Ma were razed to the ground by the military on Tuesday.

《raze ~ to the ground》(→受動態にすると、~ is/was razed to the ground)は辞書的には「~を完全に破壊する」(→受動態では「~は完全に破壊された」)だが、実際に使われるときは「~を焼き払う」(→「~は焼き払われた」)の意味であることが多い。

そしてここでは、「村の住民たちは、BBCに対し、火曜日に(ミャンマーの)軍隊によって、キン・マ村の240軒の家のうち200軒が焼き払われたと語った」という。

村(つまり人々が暮らしているところ)の焼き討ちは、ミャンマーでは以前も行われている。例えば下記は、2017年のアムネスティ・インターナショナルの報告についての報道記事。

www.bbc.com

村の人々は、「軍政に反対するこの村(のあるエリア)を地元とする武装勢力と、国軍が衝突したあと、村への放火が始まった」と述べており、この証言を受けたものか、英国大使がFacebookで次のように非難しているとBBC記事にはある。

"Reports that the junta has burned down an entire village in Magway, killing elderly residents, demonstrate once again that the military continues to commit terrible crimes and has no regard for the people of Myanmar," a Facebook post read.

https://www.bbc.com/news/world-asia-57506196

「軍政が村を丸ごと燃やした(という報告がある)」と述べている。

しかしながら、である。

State television however blamed the fire on "terrorists".

「国営テレビは、火災は『テロリストたち』によるものだとしている」のだそうだ。

まあ、通常運転というか、いつものことである。

以下、詳細は各自記事をお読みいただきたい。

軍政が「テロリスト」と読んでいる武装勢力は、今年のクーデター後に組織化されたものだそうだ(以前からビルマミャンマーで活動している武装組織ではない)。

昨日から今日は、このニュースもあった。

これに対して、日本国政府は意味の分からないことを述べており……

 

※こうしてミャンマーで起きていることについて書いているときに、パレスチナを無視しているのは何なのだ、シリアは、香港は、そもそも日本のことは、という、自分の中の無限のwhatabouteryと戦いながら、3700字。

 

 

 

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