このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。
-----------------
さて、今回は前回の続きで、英国に拠点のある格安航空会社のEasyJetに、「高度に洗練された」(と同社が描写している)サイバー攻撃があり、顧客の情報が大量に流出したことについての各メディアのTwitterフィードを見比べてみよう。
何が目的でこんなことをするかというと、同じことを言うための表現の幅がどのくらいあるのかを具体的に示すためだ。というか実際にこのニュースをTwitterで見ていたときに、そういう点でとてもおもしろい(興味深い)と思ったのを書き留めて、広くシェアできるようにしておきたい。
EasyJet says a "highly sophisticated cyber-attack" has affected nine million customershttps://t.co/5d0W87RSXa
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) 2020年5月19日
省略されているthatを補うと、次のような文になる:
EasyJet says (that) a "highly sophisticated cyber-attack" has affected nine million customers
この、どこか他人事のような突き放した「〇〇社がこう言ってます」調の書きっぷりは、いわゆる「客観報道」というものだ。ここでも前回説明したような引用符の使い方をしていることに注目されたい。つまり、「『高度に洗練されたサイバー攻撃』というのはBBCが言っているのではない、EasyJetが言っているのだ」という事実がこの記述で共有されている。
EasyJetの「高度に洗練されたサイバー攻撃」と顧客の情報の流出については、BBCのこの記事がよくまとまっていて読みやすいので、ここでこの記事をざっと見ておいていただきたい。記事見出しは、sayではなくadmitを使うなど、Twitterとは少しトーンが違っている。
何があったかを、この記事からかいつまんで説明しておくと、次のようなことだ。
EasyJetに対する「高度に洗練されたサイバー攻撃」の結果、およそ900万人の顧客に被害が出た。顧客のメールアドレスと旅程詳細が盗まれたほか、2,208人についてはクレジットカードの情報が「アクセスされた」(と、BBC記事は引用符を使って記述している)。同社は自社で調査を進める一方で、当局にも通報しているが、同社が最初にこの攻撃に気づいたのは1月のことだった ("EasyJet first became aware of the attack in January.") ――というわけで、人々からは「これまで何してたん?」というツッコミが入りまくっている。
"EasyJet said it first became aware of the attack in January" pic.twitter.com/VTojXOIbsd
— Curtis Tigers (@loginjackson) 2020年5月19日
そしてBBC記事は、上では「アクセスされた」というEasyJet社の発言を引用していたことについて、次のように地の文で書いている。
It told the BBC that it was only able to notify customers whose credit card details were stolen in early April.
1月に攻撃に気が付いて、それから調べて、クレジットカード情報が盗まれた顧客が特定できたのは4月上旬だったということで、攻撃者は侵入の痕跡を残さないようにしてサーバに侵入したのだろう。だから「攻撃された」ということはわかっても「どのくらいの範囲がどの程度攻撃にさらされたのか」がわからなかったのだろう。それゆえ、「高度に洗練された highly sophisticated」という表現をEasyJet社は使っている。
このほか、盗まれたカード情報はカード裏面の「セキュリティコード」を含むとか、メールアドレスが流出してしまった人々はフィッシングのターゲットとされる可能性があるから気を付けてほしいとか、5月26日に影響を受けた人全員に連絡を入れるとか、攻撃者の目的は顧客情報というより会社の知的財産だったと見られ、これまでのところ盗まれた情報が悪用されたという証拠はないとかいったことがこの記事には書かれている。
いずれにせよ、非常に多くの人々が日常的に利用している格安航空会社のEasyJetはサーバに侵入され、900万件もの顧客情報を盗まれた。その事実を報道各社がTwitterのフィード(多くの場合は記事の見出し)でどう伝えているかを並べてみるとしよう。
ガーディアンは見出しだけの機械的なフィードで、「サイバー攻撃で900万人の顧客の情報がさらされたとEasyJet社が明かした」。revealは「これまでは黙っていたが、ここに来て明らかにした」というニュアンス。
EasyJet reveals cyber-attack exposed 9m customers' details https://t.co/rigrYISsNe
— The Guardian (@guardian) 2020年5月19日
インディペンデントも見出しだけの機械的なフィードだと思うが、意外にもEasyJet社寄りで、引用符も使わず「900万人の顧客の詳細情報がアクセスされた」と打っている。
Personal details of 9 million easyJet customers accessed in major cyber attack https://t.co/yzqosrq4uy
— The Independent (@Independent) 2020年5月19日
衛星放送系民放スカイニュースの「速報」アカウントは記事リンクの送信をするのではなく、Twitterの280字を最大限に活用するスタイルで短信の速報を打っているが、そこはこう。これだけ読めば何があったのかはだいたいわかる。トーンはBBCとよく似ている。
EasyJet says hackers have accessed the email and travel details of around nine million customers and the credit card details of 2,000 more in "highly sophisticated attack"
— Sky News Breaking (@SkyNewsBreak) 2020年5月19日
一方スカイニュースの通常アカウントは、記事とニュース映像へのリンクの配信を主な目的とするアカウントだが、次のようにフィードしている。
BREAKING: Easyjet says hackers have accessed the email and travel details of around nine million customers.
— SkyNews (@SkyNews) 2020年5月19日
Full story: https://t.co/svebIlpytf pic.twitter.com/9A4cgLRvJ5
地上波系民放のITVはこう。前回見た文法項目、《have + O + 過去分詞》を使っている。何か唐突なようなのでこの前にツイートがあったのかなと思ったが、ITVのアカウントをさかのぼってもEasyJetに言及したツイートはこれしかない。EasyJet側の言い分を一切入れず、淡々と被害の数字だけをフィードするというのは、なかなか厳しい。
EasyJet said the figure includes 2,208 customers who have had their credit card details exposedhttps://t.co/TfBGp5GGFL
— ITV News (@itvnews) 2020年5月19日
タイムズはこう。「EasyJetがサイバー攻撃された」という受動態ではなく「ハッカーが個人情報を盗んだ」という能動態で書いているのと、EasyJetの「高度に洗練された攻撃だった」という言い分を引用符で示しているのが特徴。
Hackers have stolen the personal details of nine million Easyjet customers, as well as the credit card details of more than 2,000 in what the airline called a “highly sophisticated” attack https://t.co/4pEWoVeU1e
— The Times (@thetimes) 2020年5月19日
さて、ここ数年でどんどん極右ポピュリスト・メディアに変貌してきたかつての名門新聞デイリー・テレグラフだが、この時点では「独自路線を突っ走っている」としか言いようのないことをTwitterという拡散の場でフィードしている。
A cyber attack that has exposed the email addresses and travel details of 9m Easyjet customers is reportedly the work of Chinese hackershttps://t.co/6IddHjeY81
— The Telegraph (@Telegraph) 2020年5月19日
これを見たあとにアルジャジーラのフィードを見たので笑ってしまったのだが、実際にはアルジャジーラの方がデイリー・テレグラフより早い時間に投稿されている。
Did Chinese hackers steal data of 9 million easyJet passengers? https://t.co/WxjrW9AEmO pic.twitter.com/QgMPaC3sPH
— Al Jazeera News (@AJENews) 2020年5月19日
もっと早いのがロイター。この内容については記事を読まないとわからないが、当ブログではそこまでは扱わない。関心がある方は各自、記事をお読みいただきたい。
Chinese hackers suspected of stealing details of 9 million easyJet customers https://t.co/aPypMCXqqH pic.twitter.com/iRbf8zPy1T
— Reuters World (@ReutersWorld) 2020年5月19日
経済誌のフォーブズは淡々としているが、「被害に遭った企業」にやや寄り添った感じのスタイルだ。
Budget airline EasyJet has announced it suffered a “highly sophisticated” hack that led to the leak of personal information on 9 million customers and details of 2,000 credit cards https://t.co/eNAlNlSiEr pic.twitter.com/U00KRMBiRR
— Forbes (@Forbes) 2020年5月19日
EasyJetの利用客が多いドイツのメディアDWの英語版。見出しだけの配信で、「EasyJetが~された」の受動態ではなく「ハッカーが~した」の能動態で書いているので、すっきりしている。
Hackers have accessed data of roughly 9 million easyJet passengers.https://t.co/KGogyQaAbK
— DW News (@dwnews) 2020年5月19日
経済方面が中心の通信社、ブルームバーグは「EasyJetは~と述べた」という形で速報をフィードしている。英文法としては、《付帯状況のwith + 過去分詞》が入っている。
BREAKING: EasyJet says it has been the target of a "highly sophisticated" cyber attack, with some 9 million accounts compromised https://t.co/Syotg3m1p5 pic.twitter.com/Arc9WBVXOI
— Bloomberg (@business) 2020年5月19日
米CNNは「ハッカーが~した」の能動態で:
BREAKING: Hackers have stolen the data of millions of EasyJet customers, including thousands of credit card numbers, the budget airline said in a statement on Tuesday. https://t.co/Fmxx2cOSF1
— CNN International (@cnni) 2020年5月19日
CNNの「速報」アカウントも能動態だが、表現が少し異なる。
A "sophisticated source" accessed the email addresses and travel details of millions of EasyJet customers, and the credit card details of thousands, the budget airline says https://t.co/Y7gLGH5LT1
— CNN Breaking News (@cnnbrk) 2020年5月19日
そして前回見たニューヨーク・タイムズ。これが最も情報量が多い。280字で、よくこんなに入るなというくらい入っている。
EasyJet, the low-cost airline based in England, said that it was the target of a “highly sophisticated” cyberattack that exposed the email addresses and travel plans of about 9 million customers, and that some had their credit card details stolen. https://t.co/VM2G08pT5G
— The New York Times (@nytimes) 2020年5月19日
A statement from the easyJet Board. For more information please visit https://t.co/0uD2cWPIJK pic.twitter.com/b0glUXs8mY
— easyJet (@easyJet) 2020年5月19日
ニュース英語で4技能を鍛える インプットからアウトプットへーDevelop Four Skills through English News
- 作者:日本メディア英語学会 英語教育・メディア研究分科会,桝原 克巳,有江 和美,佐藤 文子,恒安 眞佐,南部 匡彦,畠山 由香子,吉原 学,和久 健司,Jason Goodier
- 発売日: 2020/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)