Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「theなんていう細かいこと」を気にしなくていい人に、私もなりたい

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今回は、前回のフォローアップ。

前回のエントリは、タイミングが合ったのか、当ブログには珍しくいっぱいブクマされた。「たくさんブクマされた」ことは、「バズった」というより「これについて何か一言いいたくなった人が多くいる」ことを意味するのだが*1、当該のブコメ一覧のページは、「銀座」について語りだす者あり、なぜか「風と共に去りぬ」の「ぬ」は否定であると言い出す者あり(それに対する指摘でまたいくつものブコメが……もちろん「完了」の意味ですよ。「~してしまった」)、ブラック・サバスを歌い出す者あり(あのtheは難しいんですよ。わりと沼の中。「Black Sabbathの歌詞で学ぶ英語の冠詞」とか、需要ありそう? 私はやりたくないけどw)と、がやがやした飲み屋みたいになった。今だからぜひ申し上げておきたいのだが、前回のエントリは書いたときに猛烈に眠かったので、資料をひっくり返すのもサボったし、イマイチぴりっとしてないと思う。その点はご海容願いたく。

b.hatena.ne.jp

FBでのシェアの件数も多く、みなさん、the(のとても基本的な用法)について改めて関心を喚起されたタイミングだったのだろう。

当方としては、「Tokyoのような固有名詞にはtheはつけないという、当たり前すぎて誰もあえて書こうとはしないことで、こんなに盛り上がってしまうとは」と、おもしろくていいんだけどこんなときどんな顔すればいいのかわからないので顔文字の「(^^;)」の顔になっているのだが、例の総裁候補の応援Tシャツとタイミングが合ってしまったのはわりと偶然である。

……と書いたけど、「うちら世代」でも、英語は「科目」でしかなかった人々、つまり「言語(言葉、ことば)としての英語」(それが「道具」であれ何であれ)を身に着けるという体験と無縁のままだった人々は、theのようなものは「theなんていう細かいこと」としか認識していないから、厳密には「世代」の問題ではない。でも、最初に文法というものを認識することなく、耳から入ってくるフレーズで何となくフィーリングで覚えた気になってしまった場合は、theは単にそこにあるものでしかなく、「このtheってやつは何なのだ」ということを考えないから、そのままだと、theというものが使えない。

しかも厄介なことに、英語では(欧州の他の言語と異なり)、冠詞(aやthe)をいつ使うかはかなり不規則的なので、冠詞の使い方は実にめんどくさく、「『theなんていう細かいこと』を気にするより先にすべきことがある」という方向に流れがちになる。

そして、うちらのように「theなんていう細かいこと」を気にする立場の者(英語を教える立場の人、英語で文章・文書を書くのが仕事の人、翻訳者、編集者、校正者など)が、何かとバカにされてさげすまれたり(「そんなことにこだわっているから英語ができないんだ」など……いや、英語ができるからそこにこだわるんですが)、単に日本語の脱字の指摘レベルのことをしただけで「マウントを取っている」とみなされたり、etc etcで、特にネット上では袋叩きにされたりする。

実際、英語母語話者や、母語レベルで英語が使える外国語または第二言語としての英語の習得者(日本語圏で雑に「ネーティブ」「ネイティブ」と呼ばれている人々)は、テレビ見てて飽きたからゲームしようよという状況で "I am boring." と言ってしまうような日本人(厳密には「日本人」に限らないかもしれないが)に英語を教えなければならない状況で、「『theなんていう細かいこと』を気にしている場合ではない」ということを述べがちになる。実際、「theなんていう細かいこと」を気にしてしゃべったり書いたりすることができなくなるよりは、そんなのとりあえず二の次にして、とにかく表現したい(言い表したい)ことを言葉にするほうがずっといい。

けれどもそれは、「theなんていう細かいこと」はどうでもいい、ということではない。

だから、英語母語話者が「あってもなくても通じる」「あえて畏まったり美しい表現をしたい時に気をつける」とかいうことを言っても(そういうことを指摘するブコメがいいくつかあった)、それを文字通りに受け取って、「そっか、じゃあtheはどうでもいいんだ」って思って、本当にtheやaを無視してたら、英語で話したり書いたりするときのあなたは「ブロークン・イングリッシュで一方的に言いたいことを言うだけで、実は何を言っているかよくわからない、話があんまり通じない奴」になってしまう可能性がかなり高い。「何かを知っていて使いこなせないこと」と、「何かを知りもしないので使いこなす以前の問題であること」とは別である。

 

これは厳密性には欠けるんだけど、英語の冠詞について話すときによく引き合いに出されるのが、日本語の助詞の使い分けだ。

例えば少し上に書いた文の一節だが、「英語では、冠詞をいつ使うかかなり不規則的である」はなぜ、「英語では、冠詞をいつ使うかかなり不規則的である」ではないのか。私も自分で書いておいて今考えてるけど、30分あれこれ考えても「これだ」という回答は思いつかないし、質問されたら「どっちでもいいんだけど何となく気分で」としか答えようがない*2。けど、日本語を外国語として勉強している人はこういうことを疑問に思うだろう。わかんないって言ってるのにしつこく質問されたら「そんな細かいこと、気にしなくていいです」って返すと思う*3。でも「『は』か『が』かなんてことは、どうでもいい」わけではない。

同じようなことが、目的語を表す助詞にも言えて、例えば「梨買った」と「梨買った」は言ってることが微妙に違う*4。コンテクストによっては、助詞を省いて「梨買った」ということもある。だが、私たちはそんな「細かいこと」をいちいち考えてから発話しているだろうか? 

日本語を母語としていれば、そんなことはいちいち考えるまでもないかもしれないが、外国語・第二言語として習得する場合は、「を」と「は」の使い分けはどうすればいいのか、といったことを勉強して身に着けることになるだろう。

私たちにとってのtheやaは、そういう存在である。「ネイティブ」が「気にしなくていいよ、そんな細かいこと」と言ったからといって、じゃあ、自分も気にしないでいいんだ、と思えるほど自分に素地があるわけではない、ということを自覚するところから始めないことには、自分が "Machida in the Tokyo", "Save the Japan" 式の怪しい英語を量産してしまうことは止められないだろう。

っていうか、「theなんていう細かいこと」を気にしなくていい人に、私もなりたい。この先、果たしてその境地に達することができるのかどうか。 (´・_・`)

 

前回のフォローアップはここまでが前置きで、まだ先(本題)があるのだが、たらたら書いてたらこれだけで3700字に達してしまったので、この先はまた改めて。

 

ブコメでお勧めされていた本をリンクしておきます。私も異論はありません。これらだけじゃないですけど……。これらの本はうちの積読山のどっかにあるので、的確な引用紹介などできなくてすみません。

でもこれらは冠詞だけでまとめられている本ではないし、冠詞だけを効率よく整理したい人にお勧めしたい本の決定版と思うのはやはり、前回もリンクしたけど正保先生のこの本です。今回のトピックは「第3章 固有名詞と冠詞」で扱われていて、私が延々と書いてることとブコメで書かれていることの大半は1ページで言い尽くされてます。

Amazonのレビューによると、改訂版では削られたところがかなり多いようで、場合によっては旧版のほうが役立つかも。旧版は現在、電子書籍で入手可能になってます(研究社さん、えらい)。

 

 

 

 

*1:9月24日19時台で、ブコメ件数209件のうち、コメントがあるのは74件である。つまり135件が無言ブクマ、もしくは非公開でのブクマである。

*2:もちろん、「は」と「が」についてはもっと明確に違いが説明できる例はある。

*3:そういえば私、大学受験のとき、世界史は記述答案(「~について200字以内で説明せよ」的な)の練習をしてたんだけど、通信添削で1848年が20世紀に持つ影響についてという問題があって、質問カードで「社会主義共産主義ってどう使い分けたらいいんですか」って聞いたら「大学受験では気にしなくていい」という回答をもらったことがある。大学受験では確かに気にしなくていいかもしれないけど、じゃあ例えば20世紀の英国の労働党について検討するときには、そこを気にしないで何かまともな検討ができるかっていうことになるよね。

*4:前者は「美味しそうな梨があったから買ってきたよ」とかそういう場合に使うし、後者は「梨なら買った(が、葡萄は買っていないし、牛乳も買ってきてなんて言ってなかったじゃん)」みたいな場合に使う。

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