このエントリは、2021年1月にアップしたものの再掲である。
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今回は、日本語圏で話題になっている英語報道をどう見つけ、どう追うかということについて。
先週金曜日(1月22日)、日本語圏で大きな話題となっていた「英紙タイムズ」の報道がある。
「英紙タイムズ」は、見ての通り英国の「タイムズ (the Times)」という新聞のことである。この新聞についてはいろいろあるが、国際報道(英国外のことについての報道)については、がっさりと「英国を代表する新聞」ということをふまえておけば、詳細を知らなくてもとりあえずは構わないだろう*1。
なお、Timesという名称は新聞の名称として一般的なもので、the New York Times, the Los Angeles Times, the Japan Timesなど《the + 地名 + Times》という形式の新聞名(固有名詞)はたくさんあり、それら「なんとかタイムズ」が自紙を指して "the Times" と言うこともあるので注意が必要なのだが*2、通常、地名などなしで "the Times" といえば、英国のロンドンを拠点とするこの新聞のことである。
上述したような英国外の "the Times" を自称するメディアとの混同を避けるため、この媒体については "the Times of London" と言うこともあるが、それは正式名称ではなく、したがってこの媒体のことを "the London Times" と呼ぶことはない(それでもたまにそういう記述を見かけるのだが)。
さて、今回のように日本語圏で「英紙タイムズ」の報道が話題になったときに、どういうふうにして元記事を確認するなどするかといったことを、以下に書いておきたいと思う。
本題に入る前にお断りしておく必要があると思うが、The Timesは完全に有料化されていて、有料で購読している人がログインすれば、サイトは後述するよりももっと使い勝手がよいのかもしれない。スマホやタブレットのアプリだとまた違うのだろうと思うが、ここでは有料購読をしていない状態で、PCのブラウザで確認する場合について述べる。
通例、「新聞が何かを報じた」と聞いたら、その新聞のサイトをチェックする(APなどの通信社の場合は、通信社のサイトではなく配信先のメディアのサイトをチェックすることになる場合も多いが)。The Timesと、その日曜版であるThe Sunday Timesのサイトは下記:
多くの新聞のサイトなら、こうしてウェブサイトを見てそこで「検索 search」のボタンを見つけ、そこから適切な語句を使って検索すれば目的の記事が見つかるのだが、The Timesは、少なくとも現在のデザインでは、トップページに「検索」のボタンがないので、一筋縄ではいかない。その日の大きなニュースならトップページに出ているから、そこからたどることもできるが、そうでなければGoogleなど外部の検索エンジンを使わないと、記事を探すこともできない。(上述したように、有料購読していればもっと使い勝手が良いのかもしれないが。)
そのため、The Timesの記事を探す場合には、Twitterでのフィードから探すのが早いのではないかと思う。Twitterでの同紙のアカウントは@thetimesである:
1月22日に日本語圏で話題になっていた記事のフィードはこちら:
The Japanese government has privately concluded that the Tokyo Olympics will have to be cancelled because of the coronavirus, and the focus is now on securing the Games for the city in the next available year, 2032 https://t.co/bsuB9wMt30
— The Times (@thetimes) 2021年1月21日
同じ文面で、この記事を書いた記者のアカウントからもフィードされている。
“The Japanese government has privately concluded that the Tokyo Olympics will have to be cancelled because of the coronavirus, and the focus is now on securing the Games for the city in the next available year, 2032.” @thetimes https://t.co/aZPzJPtdGK
— Richard Lloyd Parry (@dicklp) 2021年1月21日
記事を書いたリチャード・ロイド・パリー(ペリー)さんは、もうずっと日本で仕事をしているジャーナリスト。英語版ウィキペディアによると日本でジャーナリストとして仕事を始めたのは1995年だから、もう25年になる。インディペンデント紙を経てタイムズ紙アジア地域主任特派員を務めており、2000年代はアフガニスタンやイラクでも大きな仕事をしてきた(英語版ウィキペディア参照)。日本については、2冊の本を書いている。英国人女性殺害事件についての調査報道と、東日本大震災についての丹念な取材をまとめたものだ。
さて、上述したように、The Timesは全面的に有料化されているので、個別の記事は購読者でないと読むことができないのだが、現時点では各記事冒頭の2パラグラフは誰でも読めるようになっている。日本の新聞(朝日、毎日、読売、日経など)でおなじみの形式だ。
今では英語圏の報道機関サイトで購読が有料なのは珍しくないが、そのような有料購読を最初に持ち込んだのがこの媒体で、無料から有料に切り替えたときには、よくある「月に5本までは無料で読める」とかいう方策もとらず、本当にサイト丸ごとが「有料の壁 pay-wall」の向こうに行ってしまい、非購読者が目にすることができるのはホームページだけ(事実上、スプラッシュ画面だけ)という状態で、個別記事のURLさえ知ることができないという形式だった*3。その点はその後徐々に軟化して、URLは誰でもが共有できるようになり、記事も今のように冒頭部分だけは誰でも読めるという形になった。
今回のこの記事も例外ではなく、冒頭2パラグラフは誰でも読めるようになっている。
さて、これはリチャード・ロイド・パリー記者の大スクープだったのだが、英語圏ではこのように1つの媒体の大きなスクープ報道が出ると、ほかの媒体がその要旨を受け売りするような形で記事にするのが通例である。多くの場合はただの要約や抜粋ではなく、さらにその媒体が独自に誰かに取材したものが付け加えられていたりもする。
今回のこの報道も例外ではなく、そういった他媒体の記事を参照すると、冒頭部分しか閲覧できないThe Timesの記事も何となく全容っぽいものがつかめたりすることもある。このあとはその話……という予定だったのだが、この時点ですでに3500字を超えているので、それはまた次回に持ち越したい。
※3630字
※本稿はもともと、1月22日に書きかけのままでアップしてあったものを完成させ、26日に新記事として投稿したものである。これに伴い、22日のエントリは本文を空白にして、こちらへのリンクを貼ることにする。
参考書:
*1:英国のニュースに関しては、事はさほど単純ではないが。
*2:例えば https://twitter.com/nytimes/status/1353412259775717377 はニューヨーク・タイムズがTimesを自称している例。 https://twitter.com/latimes/status/1353157705591119874 はロサンジェルス・タイムズがTimesを自称している例。 https://twitter.com/steel_elk/status/1353154466233470976 は読者がニューヨーク・タイムズを指してTimesと述べている例。
*3:そうなる前は、タイムズはガーディアンに次いでデジタル化に積極的な新聞で、19世紀以降1990年くらいまでのアーカイヴを開放してくれてたりした。あれのおかげで、うちのPCでも大学図書館ばりの調べものができていた……昔の話。