Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】《have + O + 過去分詞》の構造を、書いてある通りに読む、ということについて。

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このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。

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今回は、前回の続き。前回は前置詞のintoを勝手にtoに読み替えてしまい、原文にない情報を勝手に付け足してしまった(つまり、英語で書かれていることを書かれている通りに読めていない)誤訳を取り上げたが、今回はより「受験英語」寄りの、ど真ん中の文法項目である。

英語のいわゆる「5文型」のうち、第5文型、すなわち《SVOC》は、自分で英語ができると思い込んでいて翻訳なんかにも手を出してみちゃったりすると、実は全然わかっていない(読めていない)のでとんちんかんな訳文を作成してしまいがちな文型である。ごくごく初歩的な、"I call my cat Omochi." (「私は自分の猫をおもちと呼んでいます」)とか、"This song makes me happy." (「この歌は私をハッピーにする」=「この歌を聞くとハッピーな気分になる」)のようなものがこなせないということはさすがにないだろうが、まずはこの基本を再確認しておくことが必要である。《SVOC》の文型においては、「O=C」が成り立つ。ここで出した2つの文でいうと、"my cat" = "Omochi" であり、"me" = "happy"である。

さて、《have + O + 過去分詞》という構文がある。日本語にするときは、文脈によって、「Oを~させる」「Oを~してもらう」「Oを~される」と3通りの訳し方があるのだが、この構文を英語として英語で考えると「どう訳すか」は関係がなく、この構文でも「O=過去分詞」が成り立つということが重要だ。例えば、"He had his watch repaired." (「時計を修理してもらった」)では "his watch" = "repaired" である。

ここで気をつけねばならぬのが、"He had his watch repaired."  という文では、repairするのは(文の主語の)heではない、ということである。

さらに言えば、repairするのが誰であるかはこの文では度外視されている。この文のポイント(言いたいこと)は「時計がrepairされた」ということで、誰がrepairしたかはポイントではないのだ。

というわけで、ここで今回の実例。

Royal brides married at the Abbey now have their bouquets laid on the tomb the day after the wedding and all of the official wedding photographs have been taken.

The Unknown Warrior - Wikipedia

少し長めの文だが、"the day after" から後は《時》を表す副詞節だから、文の構造を確認する段階では外してしまっておいて構わない。 

朱字で示した部分は、過去分詞のmarriedによる《後置修飾》で、直前の "Royal brides" にかかっている。「(ウエストミンスター)アベイで結婚した王室の花嫁たち」の意味だ。

さて、下線部で示したところが、《have + O + 過去分詞》の構造になっていることは、見ただけでわかるだろう。というか、これが見ただけでわからないレベルならば、翻訳に手を出すには早すぎる。

 

laidは他動詞lay(「~を横たえる」)の過去分詞で(lay - laid - laid)、意味は「(~は)横たえられる、横たえられている」となる。

この「横たえる」という日本語がわかりづらいならば、「置く」と言い換えてもよい。原形の「~を置く」と過去分詞の「(~は)置かれる」の関係だ。

よって、 "Royal brides ... have their bouquets laid on the tomb" は、「アベイで結婚した王室の花嫁は、自分のブーケを、その墓の上に置いてもらう」という意味になる。「ブーケ」が「置かれる(横たえられる)」という関係を把握しよう。

そしてここでは、このブーケを墓に置くという作業をするのが誰なのかは語られていない。それは話題になっていないし、つまりどうでもいいことである。ただし、主語の "Royal brides" が直接、墓にブーケを置くのではない(もしそうだとしたら、ストレートにそのように書くはずである)。宮殿の使用人か誰かに頼んでやってもらうのである。だから《have + O + 過去分詞》の構文なのだ。

さて、さっきいったん外しておいた副詞節の部分: 

the day after the wedding and all of the official wedding photographs have been taken

実はこれはちょっと崩れた形になっていて、"after the wedding" は《after + 名詞》の形なのに、ここにandでぶら下がっている部分は "all of the official wedding photographs have been taken" とS+Vを含む文の構造になっている。つまり、「after 名詞 and 名詞」の形ではなく「after 名詞 and 文」というふうになっているが、これは《非標準》で、あまり推奨されない形である。推奨はされないのだが、実際には、ここで見ている例のようなこともある。

ともあれ、この部分の意味は「結婚式の翌日、すべての公式の結婚写真が撮影された後に」となる。

ウエストミンスター修道院(寺院)で結婚式を挙げた王室の花嫁は、結婚式の翌日、写真撮影が済んでから、花嫁のブーケをこの無名戦士の墓に供えるというならわしがあるわけだ。

さて、この文が、私が見たときにエリザベス王太后のエントリ内でどう訳出されていたかというと: 

f:id:nofrills:20210414172728p:plain

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B6%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%BA%EF%BC%9D%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3&oldid=82378050

これ以来、王族の結婚式では、結婚式後に花嫁がブーケを無名戦士の墓に捧げることが伝統となっている。

勝手な作文である。原文の「ブーケが捧げられる」という構造をそのままシンプルに日本語化すればよいのに、そうしていない。というか、おそらくこの構造が取れていないので、単語を勝手につなげ合わせて、「花嫁がブーケを捧げる」という「訳文(もどき)」にしてしまっているのだろう。よくある間違いである。よくあるからスルーしてもよいということは誤訳にはありえない。よくあるからこそ、注意が必要である。

 

※なお、今回取り上げた部分は下記のように修正済み。

現在、王族の結婚式では、公式の写真を撮影し終えた後に、花嫁のブーケが無名戦士の墓に捧げられるならわしとなっている。

エリザベス・ボーズ=ライアン - Wikipedia

日本語の文としてはこの「ブーケが捧げられる」 という受動態はいかにもぎこちないので嫌われることが多く、この文面も編集者に渡したら問答無用で「ブーケを捧げる」という能動態に書き改められてしまうだろう。

最終的にはその能動態の形でもよい場合もあるかもしれない。だが、ここでは、「花嫁が直接ブーケを捧げる」わけではないのだから、「ブーケを捧げる」という日本語にしてしまうのは、微妙なところだ。ただし日本語特有の「主語を書かずに曖昧にしておける」という性質をいかして、あえて能動態でも変じゃないように書くこともできるだろう。そこは文章の書き手の腕次第だ。

だが、翻訳という作業では、そういったいわばお化粧的なことをする前に、原文が正確に読めていることが必要になる。

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