今回は、前回の続きで、イスラエル政府によるパレスチナNGO6団体の非合法化という暴挙について報じるDWの記事から、前回見た部分の少し先を見てみよう。
前置きは前回書いたので、そちらをご覧いただきたい。また、当ブログではイスラエル/パレスチナについては【中東】のタグをつけてあるので、そのタグ一覧のページも合わせてご参照いただきたい(ただし、より広義の「中東」、つまりアラブ&北アフリカの東の方についてのトピックも【中東】のタグに入っている)。
記事はこちら:
前回は記事の書き出し部分を見たが、今回はずっと中の方を見てみよう。
記事は前回見た冒頭部分に続いて、アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチが連名で、イスラエル政府のやっていることについて非常に批判的な声明を出したことを紹介して、実質非合法化された6団体に含まれていない人権NGOの反応を紹介している。今回見るのはその部分。
キャプチャ画像の最初の文:
Adalah, an organization that advocated for the rights of Palestinians in Israel, called it an "unprecedented attack" that "fits totalitarian and colonial regimes and constitutes political persecution under the pretext of anti-terrorism legislation."
やや長い文だが、一読して構造はとれただろうか。
構造を明らかにするために、スラッシュ等を入れてみよう。
Adalah ( , an organization that advocated for the rights of Palestinians in Israel, ) called it an "unprecedented attack" ( that "fits / totalitarian and colonial regimes / and constitutes political persecution under the pretext of anti-terrorism legislation." )
いくつか注目すべき文法項目がある。まず、太字で示した "that" が2つあるが、どちらも《関係代名詞》で主格である(直後に動詞が続いている)。
最初の "that" を含むカッコでくくった部分は、単純な構造で、特にひっかかりそうなところはない。そのカッコでくくられた部分は、2つのコンマによって文の中に《挿入》されている形だが、これがその前の "Adalah" という固有名詞と同格で、Adalahについての説明をする形になっている。すなわち、「アダラー、つまり、イスラエル内にいるパレスチナ人の権利をadvocateしている組織」という意味で、もっと読みやすくすれば「イスラエル内にいるパレスチナ人の権利をadvocateしている組織であるアダラー」となる。
advocateという語は、日本語になじむように日本語化するのがとても面倒な語なので、ここでは英語のまま示しておく。この単語を知らない人は、各自辞書で確認されたい。
また、"an organization that advocated..." と過去形になっているのは、主節の動詞(後述)が "called" と過去形であるための《時制の一致》 で、この組織がadovocateしていたのは過去の話で、今はそうではない、ということではない。本来、この組織は、記事が書かれたあともまたずっとadvocateし続けていくわけで、そういう場合は《時制の一致の例外》の《普遍の真理・一般的事実》に該当すると考えられるが、そういうときであっても何となく時制を一致させてしまうことが英語にはある。これが、「時制の一致」が「惰性の一致」と呼ばれる所以である(江川泰一郎『英文法解説』のp. 466を参照)。
で、この長い文の主語は "Adalah", 述語動詞は、この《同格》の挿入句の後にある "called" で、目的語が "it", そのあとにある "an 'unprecedented attack'" は補語で、つまり《call + O + C》の構文で、文型は《SVOC》は第5文型だ。
そして、2番目の関係代名詞のthatの節は、 "an 'unprecedented attack'" を修飾する節で、文全体の骨格は「アダラーは、それを、『これまでになかったような攻撃』と呼んだ」。
2番目の関係代名詞のthatの節は、《等位接続詞》のandがあるため、最初のthat節に比べて構造が複雑になっている。
ここでは、"and" の直後が "constitutes" と、動詞の三人称単数現在の形だから、先行する三人称単数現在とつながっていると判断して、文構造を正確に把握することができる。つまり、下線で示したように、 "fits ... and constitutes ..." という構造だ。
また、このthat節全体が《引用符》でくくられているのは、それがAdalahという組織の声明・コメントからの直接の引用であることを示しているだけで、文構造の判断では無視してよい(この読みとりは、アカデミックな文章を書いたことがないとなかなか難しいかもしれないが、日本語でもカギカッコは本来そう使うことになっている)。先行詞の 'an "unprecedented attack"' が引用符でくくられているのも同じで、この記事を書いた記者の言葉ではなく、Adalahの声明で用いられている文言をそのまま用いているということを示している。
このthat節と先行詞の部分の意味は、「全体主義・植民地主義体制にあてはまり、対テロ法制という口実の下で行われる政治的迫害を構成する*1先例のない攻撃」である。
その次の文:
Leaders of the targeted groups decried the move as politically motivated and lacking a basis in truth.
文構造としてはシンプルで、特に解説すべきところもないのだが、太字にした "as" は注目しておこう。
この "as" は《前置詞》のasで、前置詞ということは直後は名詞に決まっている……と言う話ならシンプルなのだが、そこは英語、名詞だけでなく形容詞や分詞がくることがある。『ジーニアス英和辞典』(第5版)は、p. 119で次のように説明している。
[思考・判断を表す他動詞と共に]…(である)と、…として(◆(1) 名詞のほか形容詞・状態を表す分詞を従える……後略
ここでは、asの直後の "politically motivated" が、副詞付きで複合語みたいな形になってはいるが《過去分詞》、andで接続された "lacking a basis in truth" の "lacking" が《現在分詞》で、全体の文構造としては《decry + O + as + 過去分詞 and 現在分詞》となっている。
文意は「標的とされた組織の指導者たちは、この動きを、政治的に動機づけられたものであり、事実への根拠が欠けていると非難した」。
なお、イスラエルの最大の支援国である米国は、「この判断の根拠について、イスラエル側に説明を求めていく」というスタンスであるそうだが、10月22日にこの報道があってから1週間経過しても、イスラエルが根拠を示したという報道は出てきていなかった(ひょっとしたら私が確認できていないだけかもしれないが)。イスラエルが、自身に批判的な勢力に対して無根拠なレッテル貼りをして活動を封じるのはいつものことなので*2、驚くにはあたらない。ただ、呆れるくらいのことはしなければならないし、怒り、抗議するということもしなければならない。