Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】could not be+比較級, be clear that ~, anyの用法, 過去分詞単独での後置修飾, など(イングランド・フットボール協会がサポーターの中のレイシズムに立ち向かう声明を出した))

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このエントリは、2021年7月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、スポーツの競技団体のステートメントから。

日本語圏でもとっくに大きく報じられているが、欧州でのサッカーの国際大会「欧州選手権 (EURO)」*1決勝でイングランドとイタリアが対戦し、PK戦でイタリアが3-2で勝利した。PK戦で蹴る5人のうち、イタリアは2人が外し、イングランドは3人が外すというかなりの混戦になった。こういう場合、外した選手が「戦犯」とそしられ、矢のような非難があちこちから浴びせられるのはおそらくどこの国でも同じだが、今回のイングランド代表の場合、最初に決めた2人が白人*2で、続いて立て続けに失敗した3人は黒人だったことから、広く一般社会で "racist abuse" と呼ばれるものが、まさに怒涛のようにネット上に流された。経験の浅い、大舞台に立つことなどこれまでほとんどなかった若い世代のプレイヤーたち(中には19歳の子供もいる)に、容赦のない偏見と侮蔑の言葉が浴びせられた。

ガレス・サウスゲイトという稀に見るような立派な人物を監督としている今のイングランド代表は、ピッチでは人種差別に反対する「片膝つき」 ("take the knee" と呼ばれる動作) をキックオフ前に行うなどしてきたし、ピッチの外でゴシップねたではなく「政治的」な発言・活動で目立つプレイヤーもいるのだが、2016年にBrexitを決めた投票以降、社会の一番よく見える場所に躍り出てきたイングランドナショナリストたちはそういう「サヨク」臭い行為を許容することができず、サウスゲイトイングランド代表を「マルクス主義者」と呼んでけなしていた(英語圏における「マルクス主義者」は、日本語圏における「きょーさんとー」と同じように、あるイデオロギーの持ち主によって、特に意味のない罵倒語として用いられる)。ならイングランド代表の応援などやめればよいと思われるかもしれないが、そういうふうに単純に「今のチームは嫌いだからサポートしない」というようにならないのがサッカーである。

そういう偏狭なファンはイングランドのサポーターのごくごく一部であるかもしれないが、偏狭なナショナリズムを煽るメディアや、そういうメディアに発言の場を持つような人々、また保守党系のアクティヴィストやブロガーといった人々などは、実際の数の多さがどのくらいなのかはわからないにしても、大きな声を持っている。そして、そういう人びとの多くが、仮に建前としては「人種差別は良くないと思います」みたいな態度を表明していたとしても、実際には「フットボーラーはサッカーだけしてればいいんだよ。とにかく結果を出せよ。話はそれからだ」という考え方をしており、「おれたち」のイングランド代表が、いわば「アメリカの黒人みたいに」はっきりとした意思表示を試合会場で行うことには、基本的に反感を抱いていた。特に黒人のフットボーラーが何かをすることは、そういった「自称サポーター」たちから、激しく反感を買う――イングランドでは実は常にあった問題だが。

「政治的なフットボーラー」への反感を煽るそういう言動を、ボリス・ジョンソンの保守党政権は、積極的に止めるようなメッセージは出していない(ものすごく婉曲的な言い方をしています)。ジョンソン政権は反感を煽るような人々を切り離すようなこともしていない。例えば今の保守党の取り巻きの中にいる、ダレン・グライムズという、Brexitにおいてかなり怪しげな役割を果たして今なお一定の影響力は保っているらしい、まだ20代の若きアクティヴィストは、今回のパンデミックに際して休校でランチがなくなった子供たちに対して、話にならないような乏しい食事しか支給しようとしないジョンソン政権に異議を唱えて行動を起こした*3マーカス・ラシュフォードに対し、「政治的な活動なんかするより、PKの練習でもしろよ」という、まあ「暴言」にはならないかもしれないが「罵詈雑言」に属するようなことを言っている。その発言は下記のような反応を大量に買い、「炎上」状態となったたのだが、グライムズ本人には痛くもかゆくもなかろう。 

このグライムズの発言などは全然上品な方で、 試合終了後しばらくの間は、うっかりTwitterを見ない方がよいほどの罵倒祭りみたいな状態になった。 

それを受けて、イングランドのサッカー協会 (FA) が出したステートメントを、今回は読んでみよう。

 

画像1枚目の文面、第2文: 

We could not be clearer that anyone behind such disgusting behaviour is not welcome in following the team.

太字にした部分のcouldは《仮定法》に由来するcouldで、過去のことを言っているのではなく(つまり「~できなかった」という意味ではなく)、現在のことを、多少の含みを持たせて述べている。「~することはできなかろう」という感じだ。

ここではそのcouldに、《can not+(be)+比較級》の形が重なっている。《can not+be 比較級》は、直訳すれば「もっと~になることはできない」だが、つまりは「最高に~である」という意味になる。これについては、つい先日解説を書いたばかりなので、そちらを参照されたい。

そして、下線で示した《be clear that ~》は、「(主語)は~ということをはっきりわかっている」という意味で、この文は「私たちは~ということはこの上なくはっきり把握している」ということになる。

このthat節の中身は: 

anyone behind such disgusting behaviour is not welcome in following the team

太字にした部分が骨格。anyはここでは「だれであれ」の意味で解釈するとうまくいくだろう。「~な人はだれであれ、歓迎されない」という意味である。

"behind ~" は、一読して意味が取れなかったらまず辞書でbehindという単語を引いてみてほしい。基本的な単語だから知ってるつもりになっているが、実は何となくうやむやなまま適当に読んでしまいがちな単語として代表的なものだ。ここでは「そのようなひどい行為の背後にいる人はだれでも」、つまり「そのようなひどい行為を行った者はだれでも」の意味。

"disgusting" はよく「吐き気を催させるような」「むかむかするような」と直訳されているが、「ひどい」という意味を表す形容詞の中でも最も強い語のひとつと覚えておくと、人とのコミュニケーションが円滑になるだろう。

下線で示した "in following" は《前置詞+動名詞》の形で、このthat節は「そのようなひどい行為を行った者はだれであれ、(代表)チームをフォローすることにおいて歓迎されない」、つまり「ああいうことをする人には代表をフォローしてもらいたくない」という意味だ。

極めて強いメッセージである。

次の文: 

We will do all we can to support the players affected while urging the toughest punishments possible for anyone responsible.

太字で示した "to support" は《to不定詞の副詞的用法》で「~をサポートするために、私たちにできることはすべて、私たちはしていくつもりである」の意味。この箇所のallは代名詞で、"all we can" は "all that we can" のthat (関係代名詞) が脱落した形である。

そのあと、下線で示した部分は "while we are urging" の主語とbe動詞が省略された形(副詞節内での主語とbe動詞の省略)だが、意味的には "while we urge" (進行形ではない)だろうし、なんかこのwhileは接続詞なのに前置詞化しているなと思うような例である。実際、非常によく遭遇する用法なのだが。

そして、ポイントを一つ飛ばして下線を引いてしまったのだが、青字にした個所は、過去分詞が単独で名詞を後ろから修飾している(過去分詞単独での後置修飾)。「影響を受けたプレイヤーたち」という意味である。

朱字で示した個所は、《形容詞の最上級+名詞+possible》という形になっている。これは「可能な限り、最も~な…」の意味で、possibleがこういうふうに後ろに置かれるということに注目しておきたい。

文末のresponsibleの語義も解説したいのはやまやまだが、既に4500字を超えているので省略する。辞書をあたってみてほしい。

文意は、「私たちは、あのような行為を行った者はだれであれ、可能な限り最も厳しい懲罰を与えるよう強く求めつつ、影響を受けた(=罵詈雑言・差別言辞にさらされた)プレイヤーたちを支援するために、できることはすべてやっていきたい」ということになる。

 

FAの声明の2枚目は、また次回に。

 

※4600字

※画像からの文字起こしは、https://www.onlineocr.net/ を利用しました。便利。

 

f:id:nofrills:20210802133157j:plain

https://twitter.com/FAspokesperson/status/1414388159769714690

 

 

 

*1:サッカーの欧州選手権(EURO)の2020年大会は、新型コロナウイルスパンデミックによる1年の延期を経て、2021年に開催された。この大会は元々、欧州選手権開始から60年の節目ということで開催国を1つに絞らずに欧州各地の12都市で開催されることになっていた。実際には感染状況を見てアイルランドのダブリンが外され、スペインというかバスクビルバオがセビージャに変更になったので、11都市での開催となったのだが、いずれにせよ準決勝からあとはイングランドウェンブリー・スタジアムで行われることになっていたので、実質、イングランドがやるならこの大会をおいてよりないだろうという大会だった。

*2:といっても2人ともアイリッシュなんだけどね……ハリー・ケインはお父さんがアイルランドからの移民だし、ハリー・マグワイアアイルランド系でカトリックの学校に通っていた。

*3:その前からずっと、貧困という問題に主体的に取り組んできたのだが……まだ20代前半なのに、本当にすごい。

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