今回の実例は、新聞の論説記事から……のつもりだったが、そこにたどり着く前に字数が尽きたので、Twitterからのクリップのみ。
日本時間で昨日23日の夜か、今日24日の早朝に行われた*1サッカーのワールドカップでのドイツ対日本の試合で、日本が逆転して勝利したことが、すさまじい勢いで取りざたされている。私は今大会はボイコットしているので、たまたま目にした誰かのツイートや報道記事の見出し程度のことしか把握していない。富安がピッチにいたことだけはArsenalのフィード経由で把握しているが、スタメンだったのか途中交代で出たのかも知らない。
ともあれ、予想外の結果に終わったこの試合について、24日付の英国の新聞一面では、試合結果ではなく(欧州時間では試合終了を待っていては新聞の印刷時間に間に合わなかったのだと思う)、キックオフ前のドイツ代表の「パフォーマンス」が注目されていた。
今大会開催国のカタールは、さまざまな苛烈な人権問題を抱えた国家だが、大会開催前に大きく注目されたのが、同性愛に対する過酷な締め付けである。2009年のイランの動乱の前に、当時のアハマディネジャド大統領が、「我が国に同性愛者はいない」と性的少数者の存在すら否定する発言をして(この点、チェチェンのカディロフも同じ考え方をしているのだが)世界的に問題視されたことがあったが、今回カタールでは大会開幕直前に閣僚だか王族だか、とにかく重要な地位にある人がそういう発言を西洋のテレビの取材に応じて述べていた。
そういった強烈な否定と否認に対抗するために、西欧のいくつかの国*2のサッカー協会が、選手がレインボーカラーのハートマークに「1」と描かれた "One Love" の腕章をつけてピッチに立つというシンボリックな行動を取ろうとしていた。しかし、FIFAから「そんなことをしたら制裁対象とする」とか「主将にカードを出すことになる」「退場させるかも」と脅されて、腕章着用計画を(かなりあっさりと)断念している。私が見ている範囲では、特にイングランドではそのヘタレっぷりにがっかりという声が多かった。ましてや、この西洋の恵まれた国々の腕章取りやめの決定のあとに、イラン代表による「国歌を歌わない」という抗議行動が全世界的に衝撃を与えることとなったのだからなおさらだ。腕章をつけないリッチなスーパースター軍団と、政府が民衆に銃を向けて殺戮している国で政府に対してNOという態度を国際舞台で示したフットボーラーたちを比べて「本当に命をかけているイランの選手たちの行動はすばらしく勇気のあるものだ。一方で、うちらの高給取りのメガスターたちときたら……」という冷ややかな言葉が、浮かんでは流れていった。イングランドでは、選手が着けなかった腕章をピッチサイドに立ったテレビの記者が着けているといって話題になってもいた。
日本との試合のキックオフ前、ドイツ代表は、そのような状況に置かれたこと、つまり腕章をつけるという些細な行為さえ封じられたことに対する抗議として、「自分たちは口をふさがれた」ということを動作で示した。それがあの「口ふさぎ」でのチーム写真である。(結果的に試合に勝った側がおちょくりの材料としてよいものではないよね。そんな下品なこと、スタジアムのゴミ拾いでカバーできると思うなよと腹立たしい。まったく恥ずかしい。)
英国の、というかイングランドの新聞がドイツのその行為に関心を示したのは、「ドイツにこれができて、イングランドは何もしないのか」というプレッシャーをかけるという意味合いかもしれない。保守系のデイリー・テレグラフやタイムズ、果ては金融新聞のFTまでもが、大きな写真入りでドイツ代表の「口ふさぎ」を報じていた。
Thursday’s Telegraph: “GPs to go on shame list over access” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHsAaBL7 pic.twitter.com/ccO3UBO7gp
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
Thursday’s Times: “Britons told how to save energy” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHsAa3Vz pic.twitter.com/ojkb1tWsQV
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
Thursday’s FT: “Business and unions demand Sunak scraps planned bonfire of EU rules” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHsAa3Vz pic.twitter.com/LFfQW97YgI
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
※FTの紙面フィードのツイートが、そのままエンベッドしただけでは切れてしまっているので、下記に再掲する:
一方で、「人権」については冷笑的な態度を取っている(できれば英国を「欧州の言う人権」から切り離そうとしている)保守系タブロイドのデイリー・メイルやデイリー・エクスプレスは、これを一面ではスルーしている。
Thursday’s Mail: “Drivers hit with 30,000 parking tickets every day” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHsAaBL7 pic.twitter.com/90cCXqD8pu
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
Thursday’s Express: “New dementia drug could be ready next year” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHsAaBL7 pic.twitter.com/DgRuPg0aoJ
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
しかし、デイリー・メイル系列で都市部で無料新聞として配布されているメトロでは、非常に大きく、自社ロゴをレインボーカラーにするということまでして、大きく取り上げている。こうすれば目立つし、配布されているのを持っていく人も多いのだろう。
Thursday’s Metro: “Referendum indy bin” #BBCPapers #TomorrowsPapersToday https://t.co/7FuHszSswZ pic.twitter.com/KyhStWgdsm
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月23日
これをBBC Newsがまとめると、次のようになる。
Newspaper headlines: 'Referendum indy bin' and energy saving campaign https://t.co/xzQLTUIblJ
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2022年11月24日
大きな写真はスルーして、見た目上は地味なトップニュース(最も大きな記事)を取り上げたツイートだ。(実際、この日の英国の最大のニュースは、'Referendum indy bin', つまり最高裁がスコットランド独立のレファレンダムについて下した法的な判断だと思う。)
他方、BBC Newsのこの「まとめ」に入れてもらえていないガーディアンだが、この日は独自の調査報道で、新型コロナウイルスのパンデミックに際して必要となった医療従事者の防御服 (PPE) をめぐって、英国版「アベノマスク」と言える不透明な取引についてキーパーソンとなる保守党所属の上院議員についてのスクープ記事をメインに持ってきている。ただ、一面の左上のところにちゃんと、ドイツ代表の「口ふさぎ」の写真が出ている。
Guardian front page, Thursday 24 November 2022: Revealed – Conservative peer Michelle Mone secretly received £29m from 'VIP lane' PPE firm pic.twitter.com/h6MKzGw6ms
— Guardian news (@guardiannews) 2022年11月23日
……うーむ、今日はこの時点ですでに3400字だな。当ブログでは1日の文字数上限は4000字を目安にしているのだが、このままだと今回はそれを超過することは確実である。
ちょっと体調も悪いし、時間も時間なので、今回はここで打ち止めにして、英文法解説つきの本文は明日、改めて投稿することとしたい。
サムネ: