Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

book (動詞) 、booked (形容詞)

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今回は実際のニュース記事のキャプチャ画像はお休み。

動詞のbook 

先日、問題集を見ていたら、「受動態」のカテゴリーに、bookedという単語が出てきた。このbookはもちろん動詞で(だから「本」という意味ではなく)、「~を予約する」という意味だ。語源は、「ホテルの宿泊者名簿(宿帳)、つまりbookに書き込む」というところから来ている。

せっかくなので、Oxford Dictionariesのサイトで、語義を参照してみよう。NOUN(名詞)ではなくVERB(動詞)のところを見てほしい。

https://en.oxforddictionaries.com/definition/book

VERB   「動詞」
[WITH OBJECT]   「目的語をともなって」(つまり「他動詞」)


1. Reserve (accommodation, a place, etc.); buy (a ticket) in advance.

(例文略)

 ...

これはどういうことかというと、bookの直後に宿泊施設や場所などを置いて「宿などを予約する」という意味になり、bookの直後に列車などの切符を置くと「切符を前もって買う」という意味になる、ということだ。つまり: 

  They booked a hotel for Justin. 

  「彼らはジャスティンのためにホテルを予約した」

 

   They booked a room at Totemo Sugoi Hotel for Justin. 

  「彼らはジャスティンのために、トテモ・スゴイ・ホテルの部屋を予約した」

 

……という文ができる。これを受動態にすると、

 

  A hotel was booked (by them) for Justin.

  A room at Totemo Sugoi Hotel was booked for Justin. 

 

となる。ここまでは何の疑問も生じないだろう。

形容詞のbooked 

さて、ここで先日見た問題集の問題である。その問題は駐車場の空きの確認に対して「申し訳ありません、もうすべて予約が入っています」と断る、という、大学入試というより実務の英会話集に出てきそうな会話文だった。その「すべて予約が入っています」が、

We're all booked.*1 

となっていたのである。しかも「受動態」のカテゴリーだ。

いや、実際、この英文には何も不自然なところはない。普段使う表現である。問題は、これが「受動態」にカテゴライズされているところにある。というのは、We're booked. を能動態に書き換えたら They book us. となって、文がおかしいからだ。

They book our hotel. (「彼らは私たちのホテルを予約する」)とか、They book a room at us. (「彼らはうちの部屋を予約する」。この場合usはour hotelを言い換えた表現) ならば何もおかしくない。しかし、 "They book us" はおかしいだろう。おかしくない? 

となると、We're all booked. のbookedは、動詞の過去分詞が形容詞化し、何かの受動態とかではなく単独で「予約されている」の意味を表すようになった、と考えられるだろう。

この推測を確認しようと、その場で使えるリソース(高校生向けの紙の英和辞書とスマホの辞書アプリ、ブラウザ)を使って調べてみたが、何も出てこない。紙の辞書はbookedを単独の語としては扱っておらず、動詞のbookの過去形・過去分詞としか説明していない。辞書アプリはOxford DictionariesでもCollins Dictionaryでもbookedという単語が検索できず、bookしか項目がない。ブラウザを使って普通にウェブ検索で調べてみたが、bookedの検索結果からbookの語義解説をしているだけのページを除外するのは無理だ。そもそも私はスマホで調べものをするのが不得手だ(スマホではPCの半分くらいのことしかできない)。

そこで家に戻ってPCで調べてみることにした。

その結果、わかったのは、まず、Collins DictionaryのサイトではHospitality(「おもてなし」*2)の分野の専門用語として、fully bookedという表現を形容詞として扱っていること。

fully booked [in Hospitality]
(fʊli bʊkt)
adjective


If a hotel or restaurant is fully booked, it has no rooms or tables left for a particular time or date.

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/fully-booked 

辞書に記載するに際して、2語まとまって「ひとつの語」として数える場合はハイフンを使うのが標準的なので、fully-bookedとなるべきだが、Collinsはそのようにしていない。ということは、おそらく、fully bookedは元々は形容詞として考えられておらず、最近「専門用語」として形容詞とみなされるようになった表現なのだろう。実際、Oxford辞書などより権威的な辞書には、fully bookedは取り上げられていない。

そのOxford辞書では、動詞のbookの中に、

(be booked up) Have all places reserved; be full.

https://en.oxforddictionaries.com/definition/book 

 という記載があり、つまり「(be booked upの形で)すべての部屋・席などが予約されている、満員である」と定義されているので、事実上、bookedが形容詞化していると記載していると解釈される。

というわけで、問題集に出ていた "We're all booked" のbookedは、bookという動詞を使った能動態の文を受動態にしたときの過去分詞だと考えるより、形容詞のbookedという語と考えておくのが妥当だろう。

仕上げに、こういうときに頼りになる英語と英語以外の欧州の言語のオンライン辞書で参照してみたら、やはり、英語・スペイン語の辞書で「booked (形容詞)」という記載がなされていた。

Inglés ------------------------------- Español

booked adj (reserved) ----------- reservado/a adj

https://www.wordreference.com/es/translation.asp?tranword=booked

 

そしてここまで調べたところで判明して衝撃を受けたことがある。このbooked、どうやらイギリス英語と呼べるものであるらしい。道理で、Websterなどアメリカ英語の辞書で調べてもわからなかったはずだ。

「どうやらイギリス英語と呼べるものであるらしい」という根拠は、ネット上の定評ある語学系掲示板での下記のやり取りだ。 ここは、英語を外国語として学習している人が質問を投稿すると、知見のあるネイティヴ英語話者が答えてくれるという掲示板である。

https://forum.wordreference.com/threads/full-fully-booked.3256159/

 

質問者は次の2文は自然かどうかを尋ねている。

QUESTION: Is full interchangeable with fully booked?

1. Sorry, we are full today.
2. Sorry, we are fully booked today.

これに対し、1人目の回答者(イギリス人)は、次のように、1は「口語調」、2は「正式」ということを答えている。

1. Sorry, we are full today. -> common and colloquial
2. Sorry, we are fully booked today. -> correct and precise

 そして、続いて2人目の回答者(アメリカ人)は、次のように、「アメリカ英語(AE)では、bookedはあまり使わないかなあ(正しい英語だけど)」と答えている。

"we are full today" is enough to say.

I think "booked" is not used very often in AE (though it is correct).

英語と米語、それぞれ1人ずつしか回答者がいないので、これだけで判断するわけにはいかないのだが、おそらく、bookedは主にイギリスで用いられる語なのだろう。

別のオンライン辞書のサイトには、"booked up" という2語で「形容詞」として出ているが、これもCollinsの辞書(イギリスの辞書)である。

https://www.thefreedictionary.com/booked+up

 

このように、一口に「英語」といってもいろいろある。中学・高校の教科書でときどき取り上げられている「シングリッシュ」(シンガポールの独特の英語)のような極端な例でなくても、英語には地域ごとのバリエーションというものがあるのだ。

(こういった違いについて、学習者はあまり気にしすぎる必要はない。旅行やホームステイに行ったときに単語が通じないとかいうことはあるかもしれないが、その場合はそのときその場でそこで通じる言い方を教えてもらえるはずである。) 

 

 

 

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*1:実際には、I'm afraid we're all booked. という文だったが、本稿では便宜上、I'm afraidは外しておく。

*2:「おもてなし」は何も日本固有の概念ではない。日本の特殊性を強調したがる大人にだまされないように。

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