Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英単語の語源を確認するためのたったひとつの冴えたやりかた

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英単語の語源を確認したい? 語源で単語を解説する英語学習本がいっぱいあって、どれがいいのかわからない? ネット検索をしても情報量が多すぎる? 

今回は、そんなときに参照すべき情報源について。PCでもスマホでもタブレットでも、ブラウザが使えてネット接続環境があれば特別な費用は不要、アプリも不要で使える情報源のご紹介。

……と書くといきなり怪しくなる(笑)。以下、続きにて。

(中身は単なる英英辞典サイトの参照法の話。うさんくさくないよ)

 

最近、「英単語を覚えるために語源の知識を」という主張――いや、「語源から英単語を覚えよう」という主張か――を見ることが、以前より増えてきたと思う。

この方面であんまり理論的なことは勉強していないので、自分自身の経験と、自分が見た他人の経験というごく狭い範囲のことで申し訳ないが、語源を知ることで英単語を覚える(英語の語彙を増やす)ことができるのは、ある程度のレベルに達したあとの話で、ベースができていないときにいたずらに「語源、語源」と唱えてみたところで、空回りに終わる。

英語の単語の語源というものは、日本語で使う漢字の部首にちょっと似ていて、「あれとこれを合わせたらそういう意味になる」という性質のものである。「木」が並んでたら「林」で、いっぱい集まっていたら「森」、というのが、日本語を使う人なら誰でも思いつく基礎的な例だ。

でもそう単純なものばかりではない。今回のエントリで、ここまで使ってきた漢字を見てみると、例えば「源」はサンズイがあるから「水」の意味があるのだろうとぼんやり思い浮かべてみても、それに「原」が合わさって「みなもと」の意味になるのはどういうことか、としばし考えねばならないだろう。そして、少し考えたところで、「原」といっても「原っぱ」の意味ではなく「原生」とかで使う意味かな、と思い当たれば「そうか!」と腑に落ちるかもしれない。だが「原」について、「原生」に含まれるような概念を知らず「原っぱ」しか思い浮かべることができないと、「水のある原っぱ」がなぜ「みなもと」になるのか、よくわからないだろう。よくわからないまま、「そういうもの」として納得してしまうかもしれないが、それでは漢字の部首と漢字の意味をしっかりつなげることができているとは言い難い。

「英語」の「英」がなぜクサカンムリに「央」みたいな字なのか、「漢字」の「字」がなぜウカンムリに「子」なのか、「終わる」の「終」はなぜイトヘンに「冬」なのか、など、私も今キーボードを打って変換を確定させながら、実はわかっていない。知る必要があるときは図書館に行って大きな漢和辞典を引けばいいので、そんなことを知らずに文字だけを使っていても別段不自由はないのだが、記憶をさかのぼっていくと、子供のころ、漢字を教わるときに、部首については教わったけれど、その部首に意味があるということは、どのくらい教わっていただろうか、と思う。サンズイやケモノヘンのようなものを除いて、例えばノギヘンやコザトヘンなどは意味を習った記憶がない。私だけかもしれないし、実は習っているのに忘れてしまっているだけかもしれないが(確かに、漢字を部首の意味から覚えたという経験がないわけではないけれど、それが全てではなく、むしろ「能」は「ム・月・ヒ・ヒ」と形で覚えた、といった《例外》のほうが強く記憶に残っている)。

文字の世界は深くて複雑で、漢字の部首も掘れば掘るほどおもしろくて楽しいだろう。時間とエネルギーがたっぷりあれば、その世界に足を踏み入れてみることはとても見返りの多い知的な旅になるだろう。

だが、日常で漢字を使うときに、そこまで考えているかっていうと、少なくとも自分の場合は考えていないし、そこまで考えているという人の話も聞いたことがない。「読書会の第2回のテーマは〇〇です」と案内文を書くとき、「読書」の「読」は言葉に関係のあることだ、くらいのことは潜在意識のレベルにしみついているかもしれないが、「第2回」の「第」を見て竹林を思い浮かべたりはしていない。

英単語もそんなようなもので、例えば対になっている2つの語を「語源」(というか「語根」かもしれないが)つながりで記憶に定着させる、ということはできるし、自分もやったし、みんなもどんどんやればいいと思うが(例えばimportとexport, ascendとdescend, など)、「英語なんか別に好きじゃないけど、大学受験で必要だからやらざるを得ない」というスタンスの人ともそれなりに接してきた上で言えるのは、それ以上のこと(例えばdescribeとsubscribe)は、かなり好き、というか英語(を含むことばというもの)に関心がないと厳しいんじゃないかということだ*1

ましてや、「『語源』を知っていれば、知らない単語を見かけたときに意味を推測できるよ! 」という呼び込みは、「『源』という漢字を知らない人が『サンズイに原』という字を見て推測した意味が、実際の語義と近くなるとでも?」と偉そうに反駁しておくのがよいのではと思うくらいである*2

だらだらと書いてしまったが、英単語を覚えるときに「まずは語源を覚えよう」という取り組み方は、あんまり初心者・初級者向きではないよ、ということである。

最近世間の書店の書棚には、「初心者・初級者」向けの体裁で、「語源」系の本が多く並んでいるが、中にはいろんな問題点があるものがあるとのことで*3、「じゃあ、どの本なら確実なんですか」みたいな疑問が出てくるのは自然なことかもしれないが、むしろ重要なのは、「どの本なら確実」ということではなく「確実な情報源はどこにある」ということではないか。

というわけで、ようやく本題に入るが、「英単語の語源」について最も確実な情報源となるのは、英語圏で作られ、英語圏で使われている辞書である。現在、オンライン化されている辞書ならばアプリなども不要で、別途費用もかからない。

「語源辞典」のようなものももちろんあるのだが、特に専門的な関心があるわけではなく、英文を読んでいてわからない単語に遭遇したので調べたい、といったときには、そういった専門辞典でなく、広く一般的に使われている辞書でよい。

現在、オンライン化されていて広く一般に使えるようになっている英語圏の辞典には、LongmanCambridgeCollinsなどがあり、複数辞書をまとめて閲覧できるDictionary.comThe Free Dictionaryなども、インターネットの「集合知」の上に成立しているWiktionaryのようなものもある。

どれもそれぞれの特徴と使いやすさがあるが、今回は他のオンライン辞書にも幅広くコンテンツを提供しているMWこと、Merriam-Websterのオンライン辞書を使って、実例を見てみよう。MWは米国で作られている辞書で、米語の辞書だからUKやオーストラリアなどの英語の使用者はあまり参照する機会がないかもしれないが、語義や用例ではなく語源を参照するためなら、そこは考えなくてよい。

例えば今日、Twitterの画面にこんなフィードが流れてきた。アメリカのTV局NBCのニューヨーク支局のツイートだ。

ツイート本文には、語源を調べたくなるような難しい単語はひとつもない(大学受験生にとっては難しいものが2, 3個あるかもしれない)。だが、リンクされている記事の見出し(ツイート下部にTwitter cardで示されているもの)はどうだろう。

New York, City of Trump's Dreams, Delivers His Comeuppance

「トランプの夢の街であるニューヨークが、彼のcomeuppanceをdeliverした」(deliverは意味は分かるがしっくりくる日本語を探す作業が面倒なので英語のままにしておく)。このcomeuppanceっていう単語、いかにも「語源を調べてみてください」という顔をしていやがるじゃねえか……。

語源を調べる前に、手元にある学習英和辞典(ジーニアス6)を見ると、「略式」としたうえで、語義と用例1件だけが載っていて、語源は記載されていない*4

ここでさらに大きな英和辞典へと手を伸ばしてもよいのだが、21世紀の現在、そんなことをするよりは目の前にあるブラウザを使って調べた方が早い。英和辞典はオンラインで無料で使えるものには限度があるが、英語圏にいけばだいたいのことはブラウザだけでできてしまう*5。そのあたり、日本語圏とは感覚が違うので、注意されたい。

というわけで、comeuppanceについてMWのオンライン辞書を引いてみる

www.merriam-webster.com

MW辞書の個別ページは、現時点では、上から「語義 Definition」、「類義語 Synonyms」、「用例 Example Sentences」、「この語の歴史 Word History」、「前後の言葉 Entries Near」という順番で情報が掲載されている。サイドバーにある当該項目をクリックすると、一瞬で目的の情報に飛べる。

https://www.merriam-webster.com/dictionary/comeuppance
※画像は一部加工してあります。

ここで「この語の歴史」の項を見てみると、「語源 Etymology」は、「come up(という句動詞)に、接尾辞の -ance がついたもの」と記述されており、「確認されている最初の用例 First Known Use」は1859年とある。ここで、その最初の用例について深堀りしたくなった人は、この辞書では機能的に不十分なのでOEDなどに行くことをお勧めしたい。また、接尾辞や接頭辞についての知識がない場合は、「語源」を見るためにはそっから始める必要がある。

「語源」に記載されている "come up" は、「英語ってこういうのが難しいんですよね~」の見本みたいな句動詞で、単語だけいくら眺めていても、comeuppanceという語の意味(「当然の報い」)につながる手掛かりはさっぱり見えてこないので、ピンとこない場合は "come up" という句動詞についてさらに調べてみる必要もあるだろうが*6、MW辞書で検索しただけで、「1859年に最初の用例が確認できている語で、come upを-ance語尾で名詞化したもの」ということがわかった。

こうやって語源についての情報を見て、実際の用例であるNBCの記事見出しやツイートを見て、何らかの形でこの語の語義を頭に入れることができれば、語彙力増強の役には立つ。「NY州の大陪審ドナルド・トランプの起訴を決めたときに、この単語が使われていたなあ」という具体的なエピソードで記憶できれば、頭の中に定着させることができるだろう。

https://twitter.com/NBCNewYork/status/1642641489212702720
※画像は一部加工してあります。

ついでにもうちょっと何かを増やしたければ、日本語圏でgoo辞書で「~で終わる」を使ってみるとよい。中身は小学館の『プログレッシブ英和辞典』だから信頼性は高い。uppanceで検索したところ、comeuppanceしかないようだったが(だから、「upで終わる句動詞に-anceがついたもの」はこの語だけと考えておいてよいだろう。深掘りすれば出てくるかもしれないけど……)、anceだけで検索すれば、allowance, disturbance, performanceといった-anceを接尾辞にもつ語がいろいろ見つかるので、ぼーっと眺めて頭の中を整理するもよし、知らない単語があったら覚えてしまおうという気持ちで貪欲に見てもよし、である。

Comeuppanceはちょっと特殊な語(句動詞に接尾辞をつけた19世紀の新語)だったので、もう一例見ておこう。

これも先日、見ている画面内に流れてきて「お」と思ったもの。

ポール・オグレイディ(オグレディ)という英国のTVタレントの訃報を受けて、ここにある "an acerbic wit" という表現が複数見られた(この語群は、ほぼ成句みたいな表現だと個人的には思っている)。「語源で英単語」系の人にはピンとくるのではないかと思うが、acerbicはacidと関連のある語で(調べると直接的な関連ではないが、同じところから発している)、「辛辣な」という意味である。

いろいろと見慣れていれば「見ればわかる」語だが、ちょっと見てみよう。さっきのと同じくMW辞書で……お。 "Did you know?" という見慣れない小見出しの下に、次のように記載されている。

English speakers created acerbic in the 19th century by adding -ic to the adjective acerb. Acerb had been around since the 17th century, but for most of that time it had been used only to describe foods with a sour taste. (Acerb is still around today, but now it's simply a less common synonym of acerbic.) Acerbic and acerb ultimately come from the Latin adjective acerbus, which can mean "harsh" or "unpleasant." Another English word that comes from acerbus is exacerbate, which means "to make more violent or severe."

www.merriam-webster.com

すごい勉強した気になった。

 

元々、ラテン語からフランス語に入ったacerbという語(形容詞)が英語に借入されて、どういう理由でか、それに英語の接尾辞の-icがつけられてacerbicとなり、味覚について言う「酸味のある」という意味ではacerbで、「辛辣な」はacerbic、という使い分けがあった……のだろうか。そのへんはOEDでないと調べがつかないかもしれない。

実に、言葉の世界は奥が深い。

 

※本エントリのタイトルに、特に意味はありません。人口に膾炙している表現ということで、出典とは関係なく、ただの言葉として独り歩きしているものとして使っています。

 

「英語の語源というのはどういうものか」を知りたいのでするする読めるものを探しているという方には、ほぼ20年前に書かれたものですが、下記文庫本が読みやすく、難しすぎなくていいかも。ガチ勢には物足りないと思います。電子書籍ならいつでも手に入ります。著者の石井米雄は、学生時代に言語学を学んだマルチリンガルで、特にタイ語をおさめ、外務省に入ってタイで研究したタイの専門家で、外務省を退いた後は東南アジア研究者として大学で教えるなどしてきたという経歴の方で、英語とラテン語はできて当たり前といった感じですかね……。

 

※約7000字

*1:importとexportくらいはわかってる状態で、「reportもsupportも同じ語源だよ!」と目をキラキラさせた人から早口で話しかけられても「えっ、あっ、いいです」ってならない人は、「語源」からのアプローチに向いてるかもしれない。

*2:私自身、知らない単語の意味を接頭辞や語根や接尾辞から推測して当たったことがないわけではないが、辞書持ち込みができない試験などは別として、辞書引いたほうが確実。あと、語源から推測するより、文脈や話の内容から推測したほうが確実。はっきりした意味はとらえられなくても「なんか、こんなものはダメだ、使えない、っていうことを言ってるな」ということがわかれば、とりあえず文は読めることが多い。

*3:著者が思い込んだり勘違いしたりしていることは実はよくあることで、つまりさほど問題ではなく、問題は、そういった「ヒューマン・エラー」を修正するためのチェック機能がないままに製品として作られてしまう本がある、言い換えれば、そういうふうに本を作ってしまう出版元がある、ということだが。

*4:この用例がget one's comeuppanceというものなので、対置できる例として動詞のdeliverの例を余白にメモっておいた。余談だが、今、BOOK OFFに行くと、買い替えで手放した人が多かったのか、ジーニアスの旧版が大量に売られている。第5版は400円程度になっていたので、「ペーパーバックをすらすらと優雅に読みこなしたい」などの用途で、最新版にはこだわらず、とりあえず紙の英和辞典を持っておきたいという人にはかなりねらい目ではないかと。最新ののほかに旧版も持っておく必要がある沼の入り口に立っているよい子のみんなも、G5持ってなければぜひ。

*5:もちろん、OEDなどを見なければ解決しないような問題を調べる必要があるときは別で、そんな問題について調べる英語学習者はあまりいないだろう

*6:ちなみに、ロングマンはそういうところ、すごい親切設計になってるけど、初出年が「1800年から1900年」とがっさりしすぎている。「どのオンライン辞書も一長一短」といえるかもしれない。

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