今日の実例は、スコットランド出身のプロ・テニス・プレイヤー、アンディ・マリー*1が引退の意向を示した記者会見での発言より。標題に書いたように、短い発言に文法事項がみっちり詰まっていてお得感が高い。少し細かいようだが、こういうことをひとつひとつ確実に押さえることができていないと、英文の正確な読解・理解・内容把握はできないので、丁寧に見ていこう。
キャプチャ画面の上の方にある段落が今回見る実例である。
the same + 名詞 + as ~
まず最初の文。《the same + 名詞 + as ~》が入っている。
I know that I’m not the same player as I was.
このまま、英作文準備のための暗記基本例文にしてもよいくらいの文である。この文の注目点は《時制》。
I know that I’m not the same player as I was.
know, amという現在形に対し、as以下ではwasという過去形が使われており、「私は今は、かつて私がそうであったのと同じプレイヤーではないということは、自分でもわかっている」という意味*2。動詞の形を変えるだけで「過去」を表せる英語では、いちいち「今は」とか「かつては」といった語句(副詞)を入れることなく、それを表すことができる。
直説法のif節(条件を表す副詞節)、時制
続いて第2文。
But, if today was my last match, it was a brilliant way to finish.
これは、"if today was ..." と始まるので、「仮定法過去かな?」と一瞬思うだろうが、その先、主節を見ると、仮定法の形(助動詞の過去形+原形)になっていない。
But, if today was my last match, it was a brilliant way to finish.
つまりこれは、「仮定法」ではなく、「直説法」であり、if節は《条件を表す副詞節》だ。直訳すれば「だが、もし今日が私の最後の試合でも、それはすばらしい終わり方だった」。大胆に意訳して意味がわかるようにすると、「しかし、今日の試合が自分のキャリアの最後だとしても、この試合で最後になるというのなら悔いはありません」といったところか。
アンディ・マレーのこの記者会見は、2019年1月の全豪オープンでロベルト・バウティスタ・アグートと対戦して負けたあとに行なわれたもので、彼の言う "today" はその試合のことを言っている。5セット4時間超と大変な試合だったことが記事の前の方に書かれているので、記事を読んでいる人には、マレーが「すばらしい終わり方」と言っているのがどういうことなのかはよくわかるようになっている
次の第3文は、関係詞節の中でtake ~ into considerationという熟語が使われていることと、somethingを先行詞とした関係代名詞としてwhichではなくthatが使われていることが注目ポイントにはなりえるが、今回のこのてんこ盛り状態の中では、いちいち取り上げるまでもないかなと思うので、軽く流そう。
That’s something that I’ll probably take into consideration as well.
その次の第4文 (It was an amazing atmosphere.) は解説ポイントもないので、流す。
長い文(等位接続詞による接続の構造)
続く第5文は、まず何より、文が長い。
I literally gave everything that I had on the court, fought as best as I could and performed a lot better than I should have done with the amount I’ve been able to practise and train.
この文は、以前見たように従属節がだらだらと続いているというパターンというより、等位接続詞で併置されて長くなっているパターンだ。これが、案外と構造が取りづらいことがあるので、十分に練習をしておこう。
構造を取るときに注目すべきポイントは、上で下線を引いたandは何と何を接続しているのか、ということ。andの直後がperformedと動詞の過去形であることが最も重要な注目点となる。andは等位接続詞で、同じ性質のものをつなぐのだから、and performedの前で接続されているのは動詞の過去形だ。それを考えると、次のような構造が浮かんで見えてくるはずである。
I literally gave everything that I had on the court, fought as best as I could and performed a lot better than I should have done with the amount I’ve been able to practise and train.
その上で、最後のperformed以下の部分は従属節がだらだらと続いて長くなっている。
先行詞にevery-がある場合の関係代名詞
その文の最初の部分に、everythingを先行詞とした関係代名詞のthatが入っている。
I literally gave everything that I had on the court,
as ~ as one can
その次の部分には、《as ~ as one can》が入っている(文全体が過去のことを言っているので、canはcouldになっている)。
fought as best as I could
なお、ここでas best as ...とあるのは「非標準用法」である。英語でものを書く人の間ではよく知られているワシントン州立大学のポール・ブライアン教授のサイトでは、「(英語母語話者の)よくある間違い」の1つとして、この用語法が取り上げられているが、実際にはよく遭遇する表現なので、「間違い」というより「非標準」と扱われるようになってきているのだろう。日本語でも「厳密には間違いだが、実際にはよく使われている」みたいな表現はいろいろあるが(「ら」抜き言葉とか)、英語でも同様のことはあるわけだ。言葉なので当たり前といえば当たり前。
比較, 助動詞 + have + 過去分詞, be able to do ~
次の部分が少々ややこしい。主節はperformed a lot betterの部分で、以下は従属節だ。
and performed a lot better than I should have done with the amount I’ve been able to practise and train.
このthanは「擬似関係代名詞」と呼ばれるものだが、その文法用語を覚えることにあまり意味はないし、実際、《比較》の構文であることが把握できれば、あまり気にしなくてよいと思う。要はthanに「~なこと」の意味が含まれているということで、I performed a lot better than I should have doneは「私ができて当然だったよりもずっとよくプレイした」という意味になる。
順番が前後してしまうが、should have doneは《助動詞 + have + 過去分詞》の形で、should doより1つ前の時制を表す用法だ。
多くの場合、《助動詞 + have + 過去分詞》のshould have doneは「~すべきだったのに(しなかった)」という意味になるが、ここでは単に過去のことを言うためにこの形が使われていると考えられる。意外と珍しいというか、そんなに頻繁には遭遇しない用例である。
この文の後半、"with the amount I’ve been able to practise and train" は、《be able to do ~》を含む表現で、日本語としてやや不自然になるが、「私が練習・トレーニングすることができた量」。(マリーは慢性的な怪我のため、練習やトレーニングが十分にはできない状態にある。)
以上を総合すると、受験英語的な逐語訳ではなく、翻訳的な意訳だが、「自分が練習・トレーニングできた量から考えて妥当だと思われるよりずっとよくプレイした」といった意味になる。
動名詞, 動名詞の意味上の主語, 前置詞 + 動名詞
というわけでこのややこしい文を乗り越えたあとにある最後の1文は、
I’d be OK with that being my last match.
最初の "I'd be OK" は「自分的にはそれでもオッケーかな」くらいの意味で、日常生活でとてもよく使うフレーズ。覚えておいて損はないが、誰かと英語で「タメ口」での会話をしないのなら、使いどころはあんまりないかもしれない。
文法ポイントはその後で、with that beingのところ。withの目的語が動名詞のbeingで、その動名詞の意味上の主語がthatという構造になっている。
つまり、節で書き直すと、(that) that was[is] my last match ということになる。(最初の、カッコでくくったthatは接続詞のthat. 次のthatは元の文にあるthatで指示代名詞「あれが」の意味。)
■記事そのもの:
大学入試問題集 関正生の英語長文ポラリス(2 応用レベル) (.)
- 作者: 関正生
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/08/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る