今回の記事は以前投稿したものの再掲である。倍数表現は、大学入試や検定試験などのマーク式の試験での整序英作文でも、和文英訳でもよく問われる一方で、語順をうろ覚えにしているままの人もけっこう多い。「旅行で英会話ができればいいかな」程度ならうろ覚えでもよいが、まともに英語を使いたいならそうはいかない。「通じればいいんだ」と開き直るのではなく、なるべく早い段階で正確な語順を頭の中に定着させておきたい。
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今回の実例は、2019年1月15日、イギリスの国会下院でテリーザ・メイ首相がEU(欧州連合)との交渉の末に取り付けてきた協定案が採決にかけられ、歴史的大差で否決されたときのBBCの政治記者のツイートから。
Extraordinary. Humiliating. Unprecedented. A majority of 230 against PM’s Brexit deal. Twice as many MPs vote no as vote yes
— Nick Robinson (@bbcnickrobinson) January 15, 2019
実例として見るのは最後の文。MPはmember of parliament, つまり「国会議員」のことだ*1。
Twice as many MPs vote no as vote yes
「~倍の」を表す表現を、《倍数表現》という。
基本的な形は、《〈~倍を示す数の表現〉+ as + 形容詞など + as + 比較の対象》だ。
This city is twice as large as Dublin.
(この都市は、ダブリンの2倍、大きい)
Japan is three times as populous as Kenya.
A cheetah can run four times as fast as a human being.
(チーターは、人間の4倍、速く走ることができる)
この基本的な形で、《〈~倍を示す数の表現〉+ as + 形容詞など + as + 比較の対象》の《形容詞など》の部分に、「多数」の意味のmany, 「大量」の意味のmuchが来ることもある。
We are short of money. We need twice as much as we currently have.
(私たちはお金が足らない。現在持っているのの2倍、必要だ)
さらに、この基本的な形にちょっとだけ付け加わって、このmanyやmuchに名詞がくっつくことがある。
We need twice as much money as we currently have.
(私たちは、現在手元にあるのの2倍のお金が必要だ)
そして、この《倍数表現》で長くなった名詞句が主語になることがあり、これがなかなかわかりづらい場合もあるかもしれない。
Three times as many lucky long sushi rolls as we actually eat have been made.
この文は、"Three times as many lucky long sushi rolls as we actually eat" が主語で、have beenが述語動詞。「私たちが実際に食べるのの3倍の恵方巻」の意味。文意は「私たちが実際に食べるのの3倍の恵方巻が製造されている」となる。
今回みた実例の、"Twice as many MPs vote no as vote yes" は、「Yesと投票したのの2倍の議員が、Noと投票した」という意味である。(なお、時制がvoteと現在形なのは、報道の文体の流儀による。)

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*1:イギリスの国会は上下両院からなる2院制だが、MPと呼ばれるのは下院(庶民院)の議員のみで、「ジョン・スミス議員」ならJohn Smith MPというように表記される。一方、上院は貴族によって構成され、上院での審議を伝える報道記事では議員名はLord John SmithやLady Jane Smithというように表記されている。
*2:一応調べた。ソースはウィキペディア。