このエントリは、2月にアップしたものの再掲である。報道記事の見出しについて、基本中の基本といえる事項を解説してあるので、「ニュースの見出しくらいは英語でチェックしたい」とお考えの方にはぜひ読んでいただきたいと思う。
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今回の実例は、報道記事の見出しと例文に出てくる仮定法過去の例。ソースは2019年1月、EU離脱をめぐる国会の大混乱のさなかにある野党・労働党についての記事。
キャプチャ画像は、ガーディアン(UK版)のアプリを立ちあげたところだが、記事でも同じ見出しとリード文が確認できる。
リード文
まずはリード文の方から見てみよう。キャプチャ画像で見出しの下にある、見出しより小さな文字で示されている文だ。
A number of Labour frontbenchers say they would consider their positions if leader backed idea
主節は "A number of Labour frontbenchers say (that) ..." だが、ここは(単語を除けば)何も問題ないだろう。
frontbencherはイギリスの政治用語。「議場で一番前のベンチに座っている議員」のことで、つまり「野党の場合、シャドウ・キャビネット(影の内閣)のメンバー」をいう。日本の政治制度では「シャドウ・キャビネット」はなじみがないかもしれないが(一時、民主党がやろうとしていたが)、イギリスでは正式な制度の一部である。
この文で見るべきはthat節内である(thatは省略されているが)。なお、文末のideaは、直前の見出しにある 'people's vote' という案のことである。
they would consider their positions if leader backed idea
if節内の過去形と、主節内の助動詞の過去形という形で、《仮定法過去》の文であることは一目瞭然である。《仮定法》だから、「事実ではないこと」を仮定して述べており、「もしも党首が(people's voteという)案を支持するならば、彼らは自分たちのポジションを考えるだろう」という意味。
つまり、労働党のフロントベンチャー(「影の内閣」のメンバー)たちが、党首に対し、「党首がpeople's voteを支持するなら、こちらはフロントベンチを辞する構えだ」と言っている。要するに労働党のフロントベンチはpeople's voteに強く反対している――というのがこの記事の伝えたいことである。
見出し
続いて記事見出しだが、少し変則的なことが起きている。
本題に入る前にまず、英語での報道記事の見出しの大原則をひとつ、説明しておこう。報道というのは「既に起きたこと」を文章にして伝えるものなので、普通に考えれば「基本的に過去形で書かれる」ことになる。確かに記事本文はそう考えておいてよいのだが、見出しは例外。見出しでは基本的に動詞はすべて現在形を用いるのだ。
例えば「カタールがアジアカップで優勝した」という報道では、本文では "Qatar won the Asian Cup" となるが、見出しでは "Qatar win*1 the Asian Cup" と現在形が用いられる。
ここまでが前置き。
さて、この「見出しでは動詞の過去形を使わない」というルールが、《仮定法過去》にも及んでいるというのが、今回見ているガーディアン記事の見出しの例である。
Corbyn could face string of resignations if he backs 'people's vote'
このbacksは、先ほど見た通り、《仮定法過去》の文なので、本来はbackedと過去形である。それが見出しに来ているので、backsという現在形になっている。
一方、主節のほうのcouldだが、助動詞の過去形は記事見出しでもそのまま過去形で用いる(記事見出しに限らず、普通の英語でも「助動詞の過去形」は「過去」を表すためではなく《婉曲》の表現として現在についても用いられるのが普通である)。
今回の実例、見出しは少々変則的な例だったが、《仮定法過去》が用いられる場合としては内容的にはとてもオーソドックスなもの。この《仮定法》が読めるようにしておくことは、重要である。
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