Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

thoughやhoweverを使った論理展開、助動詞+完了形、など(気候変動とヴェネツィアの冠水)

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今回の実例も、前回と同じ記事から。前回は記事の冒頭部分を見たが、今回は記事の中ほどで、世界的に関心を集めているイタリアのヴェネツィアについての部分から。

日本語では外国の地名など固有名詞は現地の音を参照してカタカナにするのが原則だが(ただし中国の地名などについては例外)、英国の言葉である英語ではしばしば、現地語とは違った読み方をすることがある。「ヴェネツィア Venezia」はその代表例で、英語では「ヴェニス Venice」という。同様にイタリアの「フィレンツェ Firenze」は英語では「フロレンス Florence」だし、「ローマ Roma」は「ローム Rome」、というように地名ひとつとってもいろいろあるのだが、当ブログでは基本的に日本語で定着している表記を採用している。

実用英語となると、こういった「英語独特の呼び方をする、英語圏以外の地名」も、重要なものは押さえておかないといけないのだが(例えば英語のラジオのニュースを聞いていて「"サイベリア" に隕石が落下し……」と流れてきたら「シベリアに隕石が落下した」と即座にピンとこなければならない、とかいったことがかなりたくさんある)、大学受験の段階ではそこまで手を広げようとする必要は必ずしもないだろう。ただし、例えばロシア語やロシアの地域研究の方面に進みたい人は、いずれ英語で論文を読んだり発表を聞いたりすることになるのだし、ロシアの地名の英語読みに早いうちからなじんでおきたいと思ったらそうすればいい。大学受験までの基礎力づくりの段階で重要なのは、固有名詞をたくさん覚えておくことというよりむしろ、この先、自分がやりたいようなことができるようにしておくことだ。

 

閑話休題。記事はこちら: 

www.bbc.com

今回はちょっと長めに文章を切り取って、論理展開を見ていこう。

 

 

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2019年11月16日、BBC News

The Mayor of Venice was very quick to attribute the floods to climate change. Critics though have pointed to delays and corruption in relation to the installation of a major floodwater defence system that might have limited the damage.

Climate scientists, however, see a clear relation between rising temperatures and the inundation.

"Sea level rise is rising globally and it is also rising in the Adriatic," said Prof Gabi Hegerl, from the University of Edinburgh.

"Venice is also subsiding a bit, so you have a bit of a double whammy.

 太字で示したthoughとhoweverは、どちらも、日本の学校で英語を科目として教わる人はほぼ例外なく《逆接》として把握しているだろう。

この「逆接」という用語の「逆」にとらわれて、「《逆接》の接続詞や接続副詞が出てくるのは、例えば『白』と『黒』のような、正反対のことを述べる場合に限る」と考えてしまうのは、間違いではないにせよ狭すぎだ。

《逆接》は、英語ではcontrastと考える。つまり「対照」である。論理展開としては、それまで述べていたこととは別の方向に向かうとか、別方向からの光を当てる、というイメージでみると、わかりやすいだろう。

そのような論理展開をするときに使われる論理マーカーが、but, though, howeverという接続詞・接続副詞である。

 

まず軽く接続詞について説明しておこう。接続詞はこの場合、文と文をつないで1つの文にする役割を負う。

Butは書き言葉では "not A but B" や "not only A but also B" のような定型表現で使うことが多く、普通に接続詞として使う頻度は話し言葉ほど高くないが、日本の学校の一部で教えられているような「Butで文を書き始めるのは間違い」のような極論は不正確でもある(その必要性があれば、Butで文を書き始めてよい)。

  I was born in Tokyo, but I was brought up in Osaka. 

  (生まれは東京ですが、育ったのは大阪です)

この場合「生まれは東京」よりも「育ったのは大阪」のほうをしっかり伝えたいという論理構造である。

 

Though(またはalthough)はbutとは順番が変わる。A, but Bは、B though A(またはThough A, B)という順番になる。上の例文なら: 

  Though I was born in Tokyo, I was brought up in Osaka. 

  I was brought up in Osaka, though I was born in Tokyo. 

この2通りに書き換えられる。重要なのは、"though I was born in Tokyo" でひとまとまりになって、従属節になっているということ。主節(しっかり伝えたいこと)は "I was brought up in Osaka" である。

 

一方、接続副詞は、接続詞とは異なり文と文をつないで1つにすることはできないが、前の文から次の文に話を流すときに、話が方向転換していますよ、というcontrastを示す論理マーカーとして使われる。

接続副詞は「副詞」なので、副詞の位置(文の主語と動詞の間など)に置く。それが今回の実例の最初の文だ。

The Mayor of Venice was very quick to attribute the floods to climate change. Critics though have pointed to delays and corruption ...

ここでは「ヴェネツィア市長は非常に迅速に、洪水は気候変動のせいだと述べた。しかし(一方で)市長を批判する人々は、遅延と汚職を指摘する」という論理構造になっている。

そしてこのあとは、その「遅延と汚職」について具体的に述べられている。

... delays and corruption in relation to the installation of a major floodwater defence system that might have limited the damage.

下線を引いたthatは《関係代名詞》の主格で、そのあとの "might have limited" は《助動詞+完了形》の形で、この部分の意味は、直訳すれば「被害を限定的なものにしていたかもしれない大規模な洪水防御システムの設置に関連した遅延と汚職*1

ここまで、要約すれば、「市長は即座に気候変動のせいでこんなことになったと言ったが、それ以前に洪水防御システムが汚職だなんだでいつまで経っても導入されないことのほうが問題だろうという批判もある」ということである。そしてその論理展開において、thoughという論理マーカーが使われているわけだ。

 

次のセクションは、それを受けてさらに however で方向性を変えていく。

Climate scientists, however, see a clear relation between rising temperatures and the inundation.

訳すときは「しかしながら気候の研究者(科学者)たちは……」とすればよいのだが、重要なのは、ここまでの話を受けて、また別方向に話を展開していくよ、ということが、however という接続副詞で示されている、ということが把握できるかどうか。

つまり、「市長は気候変動だと言い、市民たちはそうじゃなくて汚職だろと言うが、科学者たちは、いやいや、気温上昇と洪水には明確な関連がありますよと言う」という論理展開だ。

このように、話があっちに行ったりこっちに行ったりするときに、この実例のようにthoughやhoweverを使いこなせていると、話がスッキリと、一つの流れを作っているように見える。

しかし日本で英語を習った(はずの)人は、こういうふうに論理マーカーを使って論を組み立てるということが下手で、つながりのない断片をただ並べておいて、その断片のつながりは読み手が考えろといわんばかりの文を書いてしまう(ことが多い)。

先日もそういう例があってTwitter上の「英語を使ってる日本語母語話者」クラスタがにぎやかになっていた。大学受験とはほとんど関係ないが、英語で文章を書くときに意識的になっておく必要があるので、関心がある方は下記を参照されたい。

threadreaderapp.com

 

ヴェネツィアの場合、もう30年くらい前からずっと「地盤沈下で水没の危機」ということが言われていたと思う。そこに海面上昇が重なって今のようなことになっているわけだが、ヴェネツィアのように世界的に知られているわけではないところでも、同様の危機にさらされている場所はあるだろう。海はひとつだ。

強烈なハリケーン・台風や、今月イングランドで起きているような集中豪雨、オーストラリアの山火事のような極端な事象も、単発で起きているわけではない。

今回見たBBC記事は、最後のセクションで、科学者たちの発言のトーンが変わってきているということを、やはりbutを使った論理展開で、次のように紹介している。

For years, when faced with extreme weather events like the fires in Australia or the floods in South Yorkshire, scientists have trotted out the "we can't attribute any single event to climate change" mantra.

But that view has changed.

"You will not find that climate change is the only cause for an extreme event," said Dr Friederike Otto from the Environmental Change Institute at the University of Oxford.

"But you can look at individual events and work out how much climate change has altered the likelihood of it to occur or its intensity."

This view is echoed by other experts in the field. ...

 

参考書:  

論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)

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パラグラフから始める英文ライティング入門 改訂版

パラグラフから始める英文ライティング入門 改訂版

 
徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

 
英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

 

*1:普通に翻訳するときはこんな読みづらい日本語は出力しないが、大学受験の勉強のための英文和訳(つまり自分にその英文の意味が本当に取れているのかどうかを自分で確認するための手段)ならこのスタイルで直訳するのがよい。

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