このエントリは、今年4月にアップロードしたものの再掲である。じわじわと笑えるよい話である。
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今回の実例は笑い話。
笑い話だから、何が笑えるのか、前提を共有するところから始めなければならない。
「フランシス・ベーコン」という人名は、高校の世界史で習っていると思う。16~17世紀のイギリス(イングランド)の哲学者で、イギリスの「経験論」、「帰納法」といえばこの人、という歴史上の偉人である。
※20世紀に活躍した同姓同名の画家もいるが、世界史の教科書に出てくるのは哲学者のフランシス・ベーコンだ。
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哲学者フランシス・ベーコンの言葉として最も有名なものは、「知(知識)は力なり」というものだろう。これはベーコンが書いた言葉そのものではなく、主張を言い表した言葉だそうだが、本人の書いた文章に "Ipsa scientia potestas est” (ラテン語)という一節があり、また別の著作に別の言い方で同様の考えを表した一節があり、その内容を英語で表すと "Knowledge is power" となる。これを日本語にしたのが、教科書にも出てくる「知(知識)は力なり」だ。
ここまでが笑い話の前提である。
というところで今回の実例:
This is hilarious. pic.twitter.com/E1kCyoFKzc
— Elly Vintiadis (@EllyVintiadis) April 14, 2019
Twitterの埋め込みでは画像が半分しか表示されないので、改めて:
末尾に記されているように、これはReddit(英語圏のネット掲示板)でLard_Baronというハンドルの人が投稿した文章。下記URLで確認できる。
今回取り上げる文法事項が入っているのは最後の一文だが、これは「笑い話」だからまずはそこに至るまでの部分を読んでいただきたい。「フランシス・ベーコン」という人名と「知(知識)は力なり」という名言を踏まえていれば、読解に苦労するようなポイントは何もないだろう。子供のころに「フランシス・ベーコン」と聞いて人名だと理解する前に「フランス・イズ・ベーコン」と空耳してしまったことで、この人名を「謎の名言」にしてしまった、という逸話だ。大人に質問してみても、口頭でのコミュニケーションではLard_Baron氏が「知は力なり。フランスはベーコンなり」と解釈しているということも伝わらず、「知は力なり」というありがたい名言の意味をたっぷり解説されて終わりになってしまう。
そしてそのオチが:
It wasn't until years later I saw it written down that the penny dropped.
太字で示したのは、 《It was not until ~ that S+V》の構文(「~まで、…しなかった」、つまり「~してようやく…した」)である。文末の "the penny dropped" はイギリス英語の成句で「合点がいった、腑に落ちた」の意味。
また、下線部で示したのは、《知覚動詞+O+過去分詞》で「Oが~される(されている)のをVする」。write ~ downは「~を書き留める」という意味で用いられることが多いが、ここでは「~を文字で(紙などに)書く」という意味だということが文脈から判断できる。
だから、この文は「何年も後に、そのフレーズが文字で書かれているのを見るまで、合点がいかなかった」、つまり「何年も後に、そのフレーズが文字で書かれているのを見てようやく、そういうことかと腑に落ちた」という意味になる。
英語圏でのこのような「空耳」事案はほかにも数多くある。音楽の歌詞だけだが、「ジミ・ヘンドリクスのPurple Hazeの歌詞で "Excuse me, while I kiss the sky" という一節を "Excuse me, while I kiss this guy" と空耳する」というのに心当たりがある人が多い(らしい)ことから、KissThisGuy.comと名付けられている投稿サイトにたくさんアップされている。英語学習者・外国語としての英語話者にとって、「なぜそのように空耳されるのか」を考えることは、英語の音声を知るうえでなかなかあなどれないので、時間があるときにでも見てみるとおもしろいだろう。ただし中には「明らかなネタ投稿」(絶対にそんなふうに聞こえているはずがないのに、ウケを狙って変なふうに聞き取れるとしている投稿)もあるので、あまりまじめに見ない方がよいかもしれない。