Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

報道記事の見出し(未来のことはto不定詞で表す), be to do ~(ロンドン、ベスナル・グリーンの博物館)

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今回の実例は、偶然にもつい先日(連休初日)再掲したのと同じ項目なので、「知識の定着を図る」的に見ていただければと思う。

ロンドンの真ん中を東西に横断する地下鉄、セントラル・ラインに乗って、都心部から東に向かおう。ざっぱくに言えば、昔からの都市としてのロンドンはリヴァプール・ストリート駅までで、そこから先は(今はロンドンのど真ん中だが)かつては「ロンドンの外縁部」みたいなところだった。それが「イーストエンド East End」つまり「東の果て」だ。

その「東の果て」に少し入ったところになるのがベスナル・グリーンという地域。ここは面白い歴史を持っているのだが、特に19世紀後半、チャールズ・ディケンズが小説にしていた時代には、ここは英国でも最も貧しく荒んだスラム街となっていた。環境は劣悪で、悲惨だった。(そういうところだからこそ「救貧活動」も盛んだったのだが。)

そのベスナル・グリーンに博物館が設立されたのは1872年だった。貧困層への教育の提供が目的だった——というか、「文化を恵んでやる」という発想だったのだが。当時の最先端の技術を使った鉄骨の建物が都心部のヴィクトリア&アルバート博物館 (V&A) から移築され、企画展的なものを次々と開催する会場として使われたようだ。やがて20世紀に入り、第一次大戦の後には美術専門館となったが、そこで子供のセクションがどんどん拡張されていったという(「子供」という概念自体がヴィクトリア朝の発明だが)。そして1974年、この施設は「チャイルドフッド・ミュージアム(子供時代博物館)」と定義されることとなった。詳細は下記参照(ウィキペディア)。

en.wikipedia.org

20年前に書いたそっけない訪問記もよろしければ。

nofrills.in.coocan.jp

この博物館、「ロンドンに行くが、あまり知られていないおもしろい博物館はないか」という人がいれば必ず紹介してきたのだが、ついに大々的な改装がおこなわれることになったという。今回の実例はそれを伝える記事から。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

f:id:nofrills:20200225041825p:plain

2020年2月17日, the Guardian

見出し: 

V&A Museum of Childhood to close for £13m revamp

これはつい先日再掲したものと全く同じパターンで、《未来》のことをいうときの報道記事見出しの定型である。

少し整理しておこう。

 

報道記事の見出しでは、過去のこと(既に起きたこと)をいうときは現在形を用いる: 

  Coco Gauff becomes first 15-year-old in 15 years to reach top 50 in WTA rankings

  https://sports.yahoo.com/coco-gauff-becomes-first-15-125739523.html

例えばこの↑見出しの場合、ココ・ガウフがWTAランクのトップ50入りしたのは過去のこと(彼女は既にトップ50に入った)であるが、見出しでは現在形が使われる。

 

もしこれが、まだ起きていないことを伝える見出しである場合、つまり「ガウフがトップ50入りする見込みである」という報道ならば、becomeのところが今回の実例のようにto不定詞になる。

  Coco Gauff to become first 15-year-old in 15 years to reach top 50 in WTA rankings

 

これが基本だ。

では、見出しの中に過去形っぽい動詞があるときはどう判断すべきか。

結論から言えば、ルールとしては、その「過去形っぽい動詞」は過去形ではなく、過去分詞である。意味は《受け身》。つまり「主語が~された」ということを伝えるときの見出しだ。例えば下記の見出し: 

  Priti Patel urged by No 10 to defuse public row with senior civil servant

  https://www.theguardian.com/politics/2020/feb/24/priti-patel-urged-by-no-10-to-defuse-public-row-with-senior-civil-servant

これは、「プリティ・パテル大臣がurgeした」ではなく、「プリティ・パテル大臣がurgeされた」という報道。「大臣が要求した」のではなく、「大臣に対し、要求が突き付けられた」のである。

同様に、例えば "Newly-weds Killed in Los Angels" という見出しは、「新婚夫婦がLAで殺した」のではなく「新婚夫婦がLAで殺された(死亡した)」という意味。

これ、機械翻訳で誤訳されても気づかない人がけっこう多いので、要注意ポイントである。

 

次、記事本文: 

The V&A’s Museum of Childhood is to get a £13m revamp to create spaces that are less about nostalgia and more about encouraging young people to change the world.

太字で示した部分は《be + to不定詞》である。これについての説明は以前書いているので、それをコピペして貼り付けておこう。

まず、見出しの "Manchester City captain to leave" では、to leaveの直前のbe動詞が省略されている。この「be動詞の省略」は報道記事の見出しで全般的に起きることで、その結果、 to不定詞だけが残っているわけだ。 

ということは、この部分は本来 Manchester City captain is to leave という形で、つまり《be動詞+to不定詞》の形になっている。 

《be+to do ~》は、高校の文法の授業で「予定、義務・命令、運命、可能」などと暗唱させられてうんざりしてしまった人も多い項目だろう。要は「まだ起きていないこと」(あるいは「すでに起きているとは限らないこと」)を言う表現で、それぞれ文脈的なことで訳し分ける必要があるので「予定、義務・命令……」という例の呪文のような《用法》が出てくるわけだ。 

 

例えば「予定」は下記のようなもの:

  We are to arrive at Shinjuku station in half an hour.

  (あと30分で新宿駅に到着します)

 

「義務・命令」はこんな感じ:

  You are to finish your homework before you watch TV.

  (テレビを見る前に宿題を終わらせなければいけませんよ)

 

「運命」は「予定」のバリエーションと考えることもできる:

  Tommy was never to return to his hometown.

  (トミーは故郷の町に二度と戻ってくることがない運命だった/二度と戻ってくることはなかった)

 

「可能」は通例否定文で、toのあとは受動態の形になっている:

  Not a soul was to be seen on the street.

  (街路には人っ子一人見当たらなかった)

 

これらのうち、「可能」は少し毛色が違うが、残る用法は「まだ起きていないがこれから起きるはずのこと」を言うものだということが共通していて、基本的には「予定」の用法をしっかり把握しておくことが重要だ。

今回の実例として見た "Manchester City captain to leave" は、上記の分類では「予定」になる。これを、記事本文最初の文の "he will leave Manchester City" と確実に紐づけして、意味を把握してしまおう。

そのうえで、今後報道記事の見出しでto do ~を見たら「未来」のことだと即座に判断するようにしよう。

 

報道記事の見出し(未来のことはto不定詞で表す), be to do ~(マンチェスター・シティ主将の退団)【再掲】 - Hoarding Examples (英語例文等集積所)

 今貼り付けた解説では、見出しがto不定詞で、本文はwillを使った記述になっているものを参照していたが、今回の実例は、見出しがto不定詞で、本文がbe to do ~という形になっていて、よりわかりやすいのではないかと思う。

 

さて、もう一度本文に戻ろう:

The V&A’s Museum of Childhood is to get a £13m revamp to create spaces that are less about nostalgia and more about encouraging young people to change the world.

上記引用部分で下線を施した "to create" は《to不定詞の副詞的用法》で《目的》を表していると考えられよう*1。その後にある "that" は《関係代名詞》(主格)で、先行詞は "spaces" だ。つまり「スペースを作り出すために」に「どのようなスペースか」という説明がぶらさがっている。

that以下を訳すと、「懐古趣味についての度合いを減らし、子供たちに世界を変えるよう勇気づけることについての度合いを増やしたスペース」となろう。"young people" は直訳すれば「若い人」だが、実用英語では多くの場合「子供」の意味で用いられる。Child/childrenよりももっと一人の人間として一人前に扱ってる感のある表現だ。

要するに、「大人が昔懐かしい玩具などを眺めて楽しめ、子供は昔の子供の生活ぶりを知ることができる施設」に、「子供自身を行動させるきっかけを与えるスペース」が新たに加えられるということ。その文化行政のために、それなりの金額が投じられるということ。

先進国ではこういうのが普通だと思う。つまり「若者の行動を促す社会づくり」に「文化への投資」。それをしようとしない(それどころかどんどん削ってしまう)のが普通という環境にいると、別世界すぎて話がわからないかもしれないが。

 

というわけで、ベスナル・グリーンのこのユニークな博物館は、2022年まで閉館となるので、ロンドン訪問予定の方はご注意を。

 

 

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*1:形容詞用法で、直前のrevampを修飾しているとも解釈できるが、ここはどちらでとらえてもよいと思う。

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