※本日新規記事の代わりに、一昨日・昨日と書いてきたことについてウィキペディアの編集作業を行い、ブログは過去記事の再掲としたいと思います。宜しくお願いします。
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このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。ここで取り上げているようなフレーズは確かに「学校では習わない」かもしれないが、こういう「学校では習わない」ようなものだけ知ってれば英語でのコミュニケーションはうまく行く、というわけではないので、その点は注意されたい。
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今回の実例は、近年、ビジネスパーソンの間で大流行して定着したというフレーズが出てきているインタビューより。
英国の公共放送BBCのラジオは、やたらとたくさん局がある。ニュース・天気予報はもちろん、音楽中心のところもあればスポーツ中心のところもあり、討論やリスナーの意見を電話で受けるトーク番組が多い局もあるし、ラジオドラマや教養系の番組が主軸の局もある。これらに加えて各地域のローカル局があり、PCやスマホのラジオアプリで「BBC」と入れると、膨大な数の局が表示されることになると思う。ネットで聞くには、スポーツなど、放送の権利関係がいろいろある番組は英国内からのアクセスでしか聞けないが、そうでなければ日本からでも普通に聞ける。
今回のソース元であるBBC Radio 5 Liveは、スポーツの実況中継もやるが、トークやインタビューが中心の局だ。平日早朝の番組に、"Wake up to Money" という非常に直接的なタイトルの経済・ビジネス番組があり、多くのビジネスパーソンが聴いている。
2019年7月24日、テリーザ・メイ首相が正式に退任してダウニング・ストリート10番地の首相官邸を去り、後を受けるボリス・ジョンソン新保守党党首が首相となる日の朝、番組はやはりこのトピックを取り上げ、何人かの財界人に話を聞いたようだ。
そのひとりがネット通販大手HUTグループの創業者、マシュー・モールディング氏。彼の発言の一部が、BBC BusinessのTwitterアカウントから次のようにフィードされた。
"When you don't have the same accountability you can be quite a jovial chap who can be a lot of fun but going forwards Boris Johnson is now leading the nation at a very pivotal time" Matthew Moulding, founder of the HUT group#wakeuptomoney @bbc5live pic.twitter.com/ArZYNhRbCq
— BBC Business (@BBCBusiness) July 24, 2019
本題に入る前に論理構成の基本を確認しておこう。「今日は気温はさほどでもないが、湿度が高い」と言うとき、話し手が言いたいのは「気温はさほどでもない」か「湿度が高い」か、どちらだろうか。
もちろん、「湿度が高い」である。「AだがB」という形では、Aの部分はいわば前置きで、言いたいことはBのほうにある。
天気予報で「今日は気温はさほどでもないが、湿度が高い」と言ったら、スーパーの店長は湿度が高くてムシムシするなら、気温が低い日には動きが鈍くなるようスカっと爽やかな炭酸飲料やビールの売れ行きにはあまり影響はないかもしれないなと考えるだろう。
「君の気持ちはわかるが、それは無理だ」と言われて「よかった、気持ちをわかってもらえたんだ」と喜ぶ人はまずいない。「それは無理だ」と言われて落胆するだろう。
というわけで、BBCラジオのインタビューに応じたこのビジネスパーソンのちょっと長い発言も、butの前、つまり "When you don't have the same accountability you can be quite a jovial chap who can be a lot of fun" は、前置きということで読み流す/聞き流すことができるが、butが出てきたあとは本題なので、そこからはしっかり読む/聞く必要がある。
そこでbutの後を見てみると:
but going forwards Boris Johnson is now leading the nation at a very pivotal time
今回取り上げるのは、下線で示した "going forwards" という表現だ(going forwardともいう)。
これはニュース記事など書かれた英語をいくらたくさん読んでいてもほとんど遭遇しないが、ビジネスの現場では盛んに使われているという表現である。
ネットで英語辞典(英英辞典)を参照すると、例えばロングマン:
https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/going-forward
in the future – used especially in business
going forward(s) はそのまま直訳すれば「前に行く」ということなので、ここにあるように「将来は、先々は」という意味で副詞句として用いられることに、意味上の疑問はないだろう。
だがここでのマシュー・モールディング氏の発言は、文字として読むと、かなりわかりづらい。というのは:
going forwards Boris Johnson is now leading the nation at a very pivotal time
"going forwards" なのか、"now" なのか、どっちかにしてくれ (´・_・`)
こういうのはしゃべってる英語ではありがちな混乱で、あまり厳密に考えるのは時間の無駄なのだが、調べてみたところ、"going forwards" はあまり意味のない言葉として使われがちだということが確認できた。
英語学習者なら知っておきたいオンライン辞書のひとつに、Urban Dictionaryというのがある。ここは通常の辞書とは異なりユーザーが語義を投稿して作る辞書で、それもお笑いが主要な目的だ。「辞書」と名乗ってはいるが、編集者はいないし(いるとしてもユーザー参加型サイトのコンテンツのモデレーション以上のことはしていないと思う)、同じ語義を説明する複数のエントリがあったりして、実際には辞書というよりユーモアが主軸となった用語集だ。だからここに書かれていることを真に受けすぎてはならないし、英語圏のユーモアというものがどうにもわかりづらいと感じている人はたぶん使いこなせないだろうと思われるので、万人におすすめできるオンライン辞書ではない。
だが、ある程度英語が使えて、ユーモアのセンスもある程度わかっている人にとっては「リアルな英語」という点では非常に良いソースなので、どんどん使ってみてほしいと思う。「ユーモア」といっても「内輪でしかわからないネタ」というよりはもっと一般的で、例えば「SFオタクでなければ理解できない」みたいなことはあまりないと思う(むしろ「SFオタクはこういう意味でこの単語を使っている」ということがわかりやすく、ユーモラスに、そして多くの場合かなりトゲのある形で説明されているのがこの「辞書」だ)。
さて、そのUrban Dictionaryでgoing forward(s) を見てみると、こんなふうな説明がなされている。
A completely unnecessary and meaningless corporate buzz phrase that somehow gets shoehorned into every memo, press release or public statement. It can always be eliminated from the text without any effect at all upon the intended meaning.
あるいはこんなふう:
Corporate-speak phrase, usually repeated three times per paragraph, that has completely replaced the phrase "in the future" and "from now on". Generally used at the beginning and the end of a sentence.
1つ目は「まったく不必要で意味のないビジネス界の流行語で、どういうわけかありとあらゆるメモやプレスリリースや公にするステートメントにねじ込まれている。さっくり除去しても、話者が言いたかった意味には何ら影響を与えない」、2つ目は「会社用語で、通例、1パラグラフにつき3度繰り返されるが、普通にin the futureとかfrom now onと言えば済む話である。多くの場合、文頭および文尾に置かれる*1」という解説で、どちらにしても、要するに無視しても構わないということだ。
おそらく、「この先」のことを常にアピールしていかねばならないビジネスパーソンにとって、going forward(s) というフレーズは単なる口癖になってしまっていて、意味が消失しているのだろう。
日本語でも「この先、少子化傾向がますます進めば、将来的に市場規模が縮小していくことを長期的視野に入れる必要性が生じる見込みで、……」みたいな、(冷静に考えれば)同じことを何度言うんじゃ、という物言いはよくあるが、今回の実例の "going forwards Boris Johnson is now leading the nation at a very pivotal time" というモールディング氏の発言もそういう感じだろう。
いかにも、「生きた英語」の実例である。
ちなみに発言の意味は「責任ある立場になければ、陽気で愉快にやってればいいだけかもしれませんが、今は、ボリス・ジョンソンは非常に重要なときに国を率いていく立場にあるわけです」というようなこと。つまり、「このタイミングでジョンソンで大丈夫なのか」という気持ちを抱いていると考えられる。
10年以上前の本だが、ジョンソンが書いたエンタメ小説が日本でも翻訳出版されている(今は古書しか手に入らないと思う)。娯楽小説だから気軽に読んでアハハと笑っていればよい。
ジョンソンはこういう仕事をしている分にはほとんど無害だったのだが、現実にはそういうふうにはならなかった。ウィンストン・チャーチルに憧れて(あの鬱病の人格破綻者に本気で憧れてる時点でやばい)「信念」やら「気合」やらで難局を乗り切ろうとすることそのものにロマンを感じているようである。
今日は英文法の参考書はいいか。ビジネス英語の本。
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*1:同じ言葉を2か所w