Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【ボキャビル】あなたが知らないかもしれないmakeの用法(保守党党首選結果発表を伝えるBBC記事)【再掲】

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このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。makeのような基本語で、特に熟語(イディオム)でもないのに、このような「知らなければ正確に読み取れない」ような用法があるのが、英語の沼である。あるいは、「会話は基本単語だけでOK」みたいないかにも簡単そうな標語にホイホイとつられていくと、こういう壁にブチ当たると言うべきか。

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今回の実例は、以前、「こんなの、日本の受験英語でやるだけで、本物の英語には存在しないんですよね?」的なことを言われたものについて。

といっても「クジラ構文」ではない。もっとシンプルな事例だ。

 

makeという単語を辞書で引いたことがある人は、案外少ないのではないかと思う。より正確にいうと、自分で書いた英語を確認するために英和辞典を引いて用例を確かめるとか、makeを含む成句表現・熟語の意味を調べるとかいったことでなく、makeそのものの意味・用例を辞書で調べることは、かなり少ないのではないか。何しろ基本語中の基本語である。「~を作る」は誰でも知ってるし、「~を…にする」の意味の構文を取ることもたいがいの人は知っている。"Did you make it?" (「実行できたのか」「間に合ったのか」)のような成句表現は別として、makeで単語の意味がわからなくて辞書を引くという流れにはならない。

だから、今回の実例のような文に接すると、第一には「印刷ミス(ミスプリ)ではないか」と思ってしまうかもしれない。「makeの直後に何か目的語が抜けているのでは」とか「そもそもmakeではなく別の単語の間違いではないか」とか。

 

実は、そのようなmakeの用法は、かつて大学入試が「受験戦争」と呼ばれる競争だった時代に作られて使われていた参考書・問題集などにも出ていた(今も出ていると思うが)。そういう参考書が「受験英語は日本で日本人が作った日本でしか通用しないデタラメだ。こんなのをやっているから日本人は学校で英語を勉強しても英語ができないんだ」という(全然論理的でもなければ事実に即してもいない)批判の矢面に立たされ*1、「ネイティブはこんなこと言わない」などとレッテルを貼られるブームみたいなのがあって、今回見るようなmakeの用法は、「でも、参考書に載ってても、実際にはこんな用法、ないですよね」と言われてしまうということがあった。

でも、この用法は実際にある。見かけたら「実際の用例」としてちゃちゃっとメモっておきたい程度にはレアだが、実際に使われている。あなたがそれを見たことがないとしたら、あなたが「生きた英語」、実際の英文を見る量が全然少ないからだろう。

 

記事はこちら: 

www.bbc.com

ボリス・ジョンソンが保守党党首に選出されたことが告知される日(23日)の朝、告知の行事の数時間前に出た記事。本稿は英国時間23日朝に書いているのだが、念のため、時間の経過によってアップデートされて内容が書き換えられてしまった場合の参照先: 

https://web.archive.org/web/20190723030955/https://www.bbc.com/news/uk-politics-49078864

実例として見るのは記事のかなり下の方、Laura Kuenssbergの分析を挟んだ次のセクション。

f:id:nofrills:20190724113653j:plain

2019年7月23日、BBC News

キャプチャ画像内の2つ目のパラグラフ: 

Since he made the final two candidates last month, Mr Johnson - who led the Leave campaign in the 2016 Brexit referendum - has been regarded as the clear frontrunner.

太字にしたmakeは、「~になる」という意味である。

ジーニアス英和辞典』(第5版)の紙版では、makeの項は分量にして3ページ半もあるのだが、このmakeが説明されているのは2ページ目の中ほど、17個挙げられている他動詞のmakeの語義のうち、15番目だ。辞書でここまで見る人はあまり多くはないだろう。ましてや電子辞書のインターフェースではここまで到達するのが非現実的といえる域かもしれない。

ともあれ、そこには次のような記載がある。

(15) a) …… b) …… c) (努力して)〈…の地位〉に達する: 〈チームなど〉の一員になる 

つまり「~になる」という意味だ。

ジーニアス』には次の2つの例文が挙げられている。

Ha made the football team. 彼はそのサッカーチームの一員になった

He made professor at th age of 30. 彼は30歳で教授になった

 1つ目の例文は、"the football team" という一般名詞だとピンとこないかもしれないが、"The Welsh boy made Arsenal." (そのウェールズ人の少年はアーセナルの一員となった)のように固有名詞を使った文なら見たことがあると思えるかもしれない。

 

ジーニアス英和辞典 第5版

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余談だが、かつて、このmakeについては、参考書では "She will make a good wife." という例文が載っていたと記憶している。さすがに今の時代、その例文はないだろう。ただし参考書の例文になくたって、実際の英語にはあるかもしれないし、昔書かれた実際の英語にはおそらくこういう文は普通にある。

 

というわけで今回の実例: 

he made the final two candidates last month

これは「先月、彼が最後の2人の候補者という地位に到達したとき」「先月、彼が2人の最終候補に残ったとき」の意味となる。

 

今回のキャプチャにはほかにも時制や関係詞、to不定詞など読みどころがたくさんあるが、それらについてはまた機会があれば。

 

ちなみに「中学英語で大丈夫」とか「英語は3語」とかいったまとめ方をしている本は、makeのような基本語を使いこなすことを前提としていて、そしてそれは外国語として英語を学ぶ身には、むしろ逆に高度である。 

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英文法解説

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*1:確かに、本当に不自然な例文などがなかったわけではないのだが、すべてがそうだというわけではない。

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