Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

時制、完了不定詞、stop -ing, start -ing(嘘を嘘と見抜ける人でないと、ネットで投げ銭するのは難しい)【再掲】

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。ここで見たような《時制》の扱いは意外と雑に済ませてしまいがちなので注意したいところである。

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今回の実例は、中国で起きたネット上のちょっとした騒動を紹介するBBCの記事から。

BBC Newsのウェブサイトにはいくつかのコーナーがある。「国内(UK)」、「国際(World)」、「ビジネス(Business)」、「IT・技術(Tech)」、「科学(Science)」、「エンタメ(Entertainment)」など、どこの報道機関でも使っているような一般的な区分けのほか、日々のニュースを追っかけるというより、ものごと・出来事の背後の人の生活や考えといったものを掘り下げる「ストーリーズ (Stories)」のコーナーなどの、BBC News独自のコーナーというかレーベルがある。

今回実例として参照する記事が入っている「BBCトレンディング (BBC Trending)」は、そういった独自のコーナーのひとつだ。

www.bbc.com

名称から察することができる通り、これは「ネットで話題」なものを集めたコーナーで、BBCの記者による取材はほとんど行われず(場合によっては行われることもある)、ネット上で話題になっていることを「まとめ」た、いわゆるコタツ記事を掲載するコーナーだと思っておいてよい。

このコーナーの記事は、記事中にBBC記者による検証などが入っている場合は別として、基本的に「BBC」というブランドにまどわされずに、「そのへんのまとめサイト」くらいのつもりで読むのがよい(「いかがでしたかブログ」よりは全然ましだが)。何かBBC記事のフィードが流れてきても、それがTrendingの記事なら、「あー、はいはい」くらいに構えておくのがちょうどよい。ここの記事はBBCが誇る「プロの仕事」とはちょっと違う。ここの記事に書かれていることは事実の確認・検証という過程を経ていない、「~と言われている」「~と書かれている」の集積である(個人的には、記事を書き慣れていない人が、あちこちにある雑多な情報をいかにひとつのまとまった文章として記事にできるかという点で実践的に練習するための場なのではないかと思っている)。今回の記事はざっと読んだところ特に引っかかるところはなかったが(情報が足りないと思った個所はあるが)、内容がさほどシリアスではないので、このくらいゆるくてもなんとも思わずにいるだけかもしれない。

困るのは、BBCの日本語版のサイトでは ”BBC Trenging" というヘッダー情報がなく、普通の「ニュース」とこの「コタツ記事集積体」を区別せずに単に並べて日本語記事としてアップしてくれるので、どこの何とも知れないネット上の情報を切り張りした程度のものが、あたかも「信頼性抜群のあのBBCがこのように報じた」というように見えてしまっていることだ。

一度遭遇したひどい例に、「日本のTwitterでは蚊に『死ね』とツイートするとアカウントが凍結される」とかいう不確かな(アカウント凍結された本人がそう言っているだけの)噂を、何の裏付けも取らずに英語にして「まとめ」ただけの記事がそのまま日本語にされたケースがある。これは「逆輸入」の形でネット上の日本語圏ですさまじい勢いでバズってしまって、今もまだ修正・訂正はされていないが、噂の出元となった当の「蚊に死ねと言って凍結されたアカウント」は、その後自分でアカウントを削除して消えてしまったので、本当にそんなことが原因で凍結されたのかどうか、真相はわからないままだ(噂の出元となったアカウントは、ひとことで言って、非常にうさんくさいアカウントで、日本語圏の人なら、いわゆる「バイラルメディア」であっても、あのようなアカウントの言っていることを真に受けて記事にしたりはしないだろう。まあ、最初に目をつけたのはBBCではなく、日本にあるニュースサイトの英語版で「日本って変な国だよね~!」という方向のサイトのようだが、それを裏取りもせずにBBCが記事にしたことで、いわゆる「ソースロンダリング」された状態になってしまっている)。ちなみにこの件についてはブログに記録してあるので、詳しくはそれをご参照のほど。

nofrills.seesaa.net

なお、BBC Trendingと似たような、「各国で報道されていることをそのまま英語にします」的なコーナーはBBCにはほかにもあるのだが(BBC Monitoringという)、そちらはもっとずっと本格的。各国の報道を文字通りモニタリングしている。以前はBBC Newsの中に組み込まれていて普通に記事が読めたのだが、現在は全面的に有料サービスになっているようだ。

 

今回見る記事が掲載されているコーナーについて説明していたら、前置きがとても長くなったが、そろそろ本題。記事はこちら: 

www.bbc.com

中国で「癒し系の声を持つ若い女性」として人気を集めてきた女性vlogger (video + blogger: 文字で書くブログではなく映像で情報発信をしている素人。使ってるプラットフォームがYouTubeだったらYouTuber)が、配信中にいつも使っているフィルターがなぜか起動せず、それに気づかなかったためにうっかり素顔のままで配信してしまい、実際は「若い女性」ではなく「中年の女性(おばさん)」だったことが判明し、ファンが愕然、本人はアカウント閉鎖……という、いかにも「ネットで話題」な話である。

"Your Highness Qiao Biluo" (Qiao Biluo姫様、といったところか)を自称するvloggerの女性(以下「姫様」)は、癒し系の声で知られ、フォロワーは10万人という人気vloggerである。中国ではこういった映像生配信をしている人が顔を見えなくするフィルターを使うことは普通のようで、この日、彼女はもう1人別のvloggerの女性と一緒に配信を行っていたが、配信を見ている人々(記事ではher fansと表されている)から「顔出したのむ」「フィルター外して」と言われて「投げ銭が10万元分になったらね」などと応じていた(1元は15~16円くらいなので、額面で「150万円」っていう感じ)。そう言われて人々は次々と投げ銭を開始したが(中には一人で4万元を送った人もいるとか……たかがネット配信の顔出しに!)……と、記事を頭からずーっと読んでいって、中ほどの部分。

f:id:nofrills:20190801024227j:plain

2019年7月30日、BBC Trending


 下記で太字にした部分と、下線を引いた部分に注目していただきたい: 

However, at some point, it seems the filter being used by the vlogger stopped working and her real face became visible to her viewers.

She is reported to have noticed only when people who had signed up to her VIP access room started exiting en masse.

Many of her original followers - especially men - are said to have stopped following her and withdrawn their transactions after seeing her true identity.

太字にした部分は、記事を書いている時点のことを述べているので現在形である。「記事を書いている時点で~と思われる」とか「記事を書いている時点で~と言われている」といった記述だ。

一方、下線を引いた部分は、記事を書いている時点までにすでに起きたことを述べているので過去形または《完了不定詞》を使っている。

このように、「主節は現在、従属節は過去」というように2つの時制が混在する場合、that節など接続詞を使った複文の形にするときはそのまま現在形と過去形を同居させればよいのだが、to不定詞を使って単文にするときは《完了不定詞》にしなければならない。

  It is reported that she noticed the error. 

  → She is reported to have noticed the error. 

  (彼女はそのエラーに気づいたと報告されている)

  It is said that they stopped following her. 

  → They are said to have stopped following her. 

  (彼らは彼女をフォローするのをやめたと言われている)

 

さて、文法的なポイントをもう1つ。上記引用文中には、"stopped working" (「動作を停止した」)、stopped following (「フォローするのをやめた」)と、2か所、《stop -ing》の形が出てくる。

これは中学で学習する項目だが、stopは目的語としてto不定詞を取らない。stopの目的語になるのは動名詞だけである。stopの直後にあるto不定詞は、目的語になれる名詞的用法ではなく、副詞的用法で、この場合のstopは「動作を止める」という意味の自動詞である。

  The dog stopped drinking water and turned around. 

  (その犬は水を飲むのをやめて、くるりと向きを変えた)

  The dog stopped to drink water and bent down. 

  (その犬は、水を飲むために立ち止まり、顔を下に向けた)

 

また、引用した部分にはstart exitingという《start -ing》の形もあるが(「出ていき始めた」の意味)、startは動名詞でもto不定詞(名詞的用法)でもどちらでも目的語になりうる動詞だ。ただしニュアンスは少々異なり、動名詞の場合は「既に行われた動作」という感じが強くなる。この場合は、姫様の配信でVIPアクセスルームにサインアップした人々が大量に離脱するということが現に行われたことで、姫様がフィルターが動作していないというエラーに気が付いた、という話なので、動名詞がしっくりくるわけだ。

 

さて、この話、記事を最後まで読んでいただきたいが、「癒し系ボイスの姫様」に入れあげてお金をつぎ込んでいて、彼女の本当の顔が現れたとたんに幻滅して去っていったのは大半が男性だったとのことで、単におもしろおかしいエピソードである以上に、何らかの問題提起にはつながっていそうではある。姫様はこの件があって映像の生配信はやめてしまっているようだが、別のSNSではフォロワーが爆増してるという。

いずれにせよ「癒し系ボイス」に年齢はあんまり関係ないわけで、そこに「若い美女」を求めてしまうという現象は、何らかの研究対象になりそうですらある。

 

なお、記事の最後の方には、中国という非常に情報統制のきつい国で、一般の人々がネットで映像生配信することについても書かれている。

 

 

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英文法解説

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