今回は前回の続き。
前回説明したように、何らかの報告についての報道記事では、前半でまずその報告の内容を端的にまとめたあと、後半で当事者や当局者に取材して得られたコメントなどを記載するのが基本形である。
それに加えて、前半で報告の内容をまとめたあとに、報告を行った機関などの補足的なコメントを入れるというパターンも非常に多い。今回見ている記事はそのパターンで、今回の実例はその、報告者によるコメントの部分から。
記事はこちら:
今回見るのは、記事のかなり下の方で、ウイグルでの人権侵害と世界のアパレル企業が使っている綿(コットン)との関係についての報告を出した人権機関連合体のひとつ、the Workers Rights Consortium (WRC) の人のコメントの部分。
WRCは米国で販売されているアパレル製品の生産過程における労働者の人権問題をモニターしている非政府系独立機関。日本にこの機関があったら、事実上「格安の労働力」として搾取されている外国人技能実習生の問題や、アパレル企業での職場でのパワハラ・セクハラといった問題について、がっつり調査しているだろう。詳細は下記ウィキペディア参照。
キャプチャ画像の最初の文、WRCのスコット・ノヴァ氏のコメントから:
“Forced labourers in the Uighur region face vicious retaliation if they tell the truth about their circumstances. This makes due diligence through labour inspections impossible and virtually guarantees that any brand sourcing from the Uighur region is using forced labour,” said Scott Nova, executive director of the WRC.
これは構造を取るためにじっくり考える必要なく、ざくざくと読んでいけるタイプの英文である。(もし意味が取れずにつっかえてしまうようなら、まだ基礎力が足りていないということだから、がんばってほしい。)
最初の文、太字にした "if" の節は、(仮定法ではなく)直説法で、《条件》を表す。この文は「もし、自分たちの状況について本当のことを話したら、ウイグル自治区で強制労働させられている人々は、過酷な報復に直面する」と直訳できる。
第二文は、下線で示したように、《make + O + C》だが、Oが少し長くなっている。"due diligence" も見慣れないフレーズなので、少し戸惑ったかもしれないが、そこで止まってしまわずに先に読み進めていくと、"make ~ impossible” という構造が見えるはずだ。そうすれば、仮に "due diligence" というフレーズを知らなくても、その意味は何となく類推できるだろう。知らない語句が出てきたときに、そうやって類推しながら読み進めていく能力は、大学受験でも必須となる。この文、 "This makes due diligence through labour inspections impossible" は、「このことが、労働査察を通じてのdue diligenceを不可能にしている」と解釈できればよい。
ちなみに "due diligence" は下記のような意味である。
デューディリジェンス(Due diligence)とは、企業などに要求される当然に実施すべき注意義務および努力のことである。
……
企業の社会的責任を定めたISO 26000および JIS Z 26000 では、企業が人権侵害を行わないようにするための義務として、また人権侵害に加担しないように定めたような注意義務のことをデューディリジェンスと呼んでおり、これを規格として企業などに要求している。
それに続く "and" の後の "virtually guarantees ..." は動詞で、主語は "This"、つまり "This virtually guarantees that any brand sourcing from the Uighur region is using forced labour" という文になるわけだが、これは「ウイグル自治区から調達しているブランドはいかなるブランドであれ、強制労働を使っているということを、事実上guaranteeする」と直訳される。この、肯定文で使われている《any》にも注意したい。
guaranteeという動詞は、受験用の単語集的には「~を保証する」という《意味》になるが、ここではその日本語にとらわれてしまうと文意が取れなくなるかもしれない。で、こういう、ちょっとひとひねりしたようなものが、難関校の入試では下線部和訳で問われることもある。暗記した通りの語義ではうまくいかないときにどういう日本語を使えるかということは、その単語・その文の意味が本当にわかっているかどうかを示すものだからだ。
さて、ではこの "This virtually guarantees ..." はどう対処したらよいかということは、各自、手元の英和辞典をじっくり読みこんで考えてみてほしい。私の手元にある『ジーニアス英和辞典(第5版)』は、列挙されている語義をどんなに眺めてみても、直接「これが使える」というものは見つからない。辞書にある語義を、《意味》を変えないようにして、どんどん言い換えてみる必要がある。
少し余裕がある人なら、そういうときは英英辞典を見てみるとよいだろう。特にCollins Cobuildの語義はこなれていてわかりやすい。
1. VERB
If one thing guarantees another, the first is certain to cause the second thing to happen.https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/guarantee
続いてキャプチャ画像2番目のパラグラフ。やや長い文だががんばってみよう:
“An apparel brand that claims to know, with confidence, that all the farms and factories it uses in the region are free of forced labour is either deeply cynical or misinformed.”
まず、 "that" が2か所出てきたが、判別できただろうか。
太字で示した最初の "that" は、《関係代名詞》の主格。
下線で示した二番目の "that" は、"know" の目的語となる名詞節を導く接続詞。
それから、この文の主語はどれで、述語動詞はどれか(この文の構造がどうなっているか)、一読してわかっただろうか。
この構造は、"know" の目的語となる名詞節を導く接続詞が正確に読み取れていれば難なく取れるはずだ。主語は "An apparel brand", 述語動詞は "is" である。つまり:
“An apparel brand [ that claims to know, with confidence, ( that all the farms and factories it uses in the region are free of forced labour ) ] is either deeply cynical or misinformed.”
つまりこの文は「~ということを知っていると、自信を持って主張するアパレル・ブランドは、深くcynicalであるか、間違った情報を与えられているかである」というのが骨格。"cynical" の意味は、上でみたguaranteeと同じように、辞書をじっくり見て適切な訳語を考えてみよう。
青字で示した《either A or B》は「AかBのどちらか」。
で、赤いカッコ類でくくった部分(主語の "an apparel brand" の修飾節)の中の構造もなかなかややこしいが、下線で示した部分がthat節内の主語と述語動詞であることを把握できれば正確に読めるだろう。「同地域で自分たちが使っている農場や工場が、強制労働とは関係がないということを知っていると、自信を持って主張する、アパレル・ブランドは」という意味になる。
次回もこの同じ記事から。今回のこのWRCのノヴァ氏の発言内容は、次回までしっかりと覚えておいてほしい。
※3710字
参考書: