Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

やや長い文, 関係代名詞, 助動詞mightなど(ディエゴ・マラドーナ死去)

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今回の実例はTwitterから。

日本時間で今日未明、ディエゴ・マラドーナが亡くなったとのニュースが流れてきた。最初は「現地報道によると」という形で、その「現地報道によると」はすぐに外れた。BBCのサッカー番組Match of the Dayのプレゼンターをしているガリー・リネカーさんは「現地報道によると」と同時に故人への追悼の言葉を綴っていた。

私のスマホには、速報が出るようにしてあるメディア2つ、BBCアイリッシュ・タイムズから速報の通知が飛んできていた(もちろん、この2つのメディア以外のメディアもそれぞれ速報を出しているだろう)。

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この速報から数時間後には 、各メディアのトップニュースになり、ガーディアンはlive blogの形式でこの悲報への反応をまとめていた。ほぼ同じタイミングで米国ではトランプが出てきてしゃべったとかいうことがあり、私のTwitterのフィルターバブル内ではアメリカの人々は「トランプがー」「共和党がー」「民主党がー」という状態だったが、それ以外の個人アカウントは、英国もアイルランドもトルコも中東も、みんなこの話をしているといってよいような状況だった(東アジアはみんな寝ている時間帯だったが)。引退したスポーツ選手やチームの監督の訃報でTwitterの画面が埋め尽くされるのはよくあることだが、プロサッカーに基本的に興味のない北米を除いて*1、全世界的にこういうふうになったのは、マラドーナの現役時代はそう遠い昔ではなく、多くの人が鮮明に記憶しているからだろう。(ヨハン・クライフが亡くなったときのことを思い出す。あのときも、「欧州の人たちはみんなその話」という状態だった。)

日本時間で朝5時ごろのBBC Newsとガーディアンのアプリを立ち上げた画面のキャプチャ。(ガーディアンのほうは大きな写真はスライドショーで、たまたま写真が切り替わる瞬間をスクショしてしまったので多重露光みたいになっている。)

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こうしてみんながマラドーナのことを話していて、そのどれもが、彼がいかにすごかったかを語っていた*2。今回見る実例はそのような言葉のひとつ。こちら: 

 ツイート主のビル・ニーリーさんは米NBCの国際部のジャーナリストだが、2013年までは英国のITVにいた。北アイルランドの出身で、北アイルランド紛争の報道からキャリアをスタートさせた人で、ディエゴ・マラドーナと同世代である。自身もスポーツマンで、マラソントライアスロンの大会に出場していて、サッカーではリーズ・ユナイテッドのサポーターだ(ガチ)。

このツイートには実は誤認が含まれているようなのだが(後述)、ニーリーさんがツイートしているこの写真は今日の訃報でTwitterにも多く流れたし、英国の新聞でも大きくフィーチャーしているところがあるので、英語を読むということをしながら少しみてみよう。

If there’s a photo that sums up Diego #Maradona- and there are so many to choose from of the man in his prime- perhaps this is the best, toying with a Belgian defence that has every idea of what he might do and no idea of what he will do.. or how he does it. 

最初から最後までで1文というやや長い文だが、読むのはさほど難しくないだろう(解説しようとすると結構大変だが)。構造はわりと単純だ(複雑な入れ子になっているわけではない)。最初に "If" があるからそのif節がどこまでなのかを判断して、主節を見つけるのが最初の作業となる。それをやると: 

[ If there’s a photo that sums up Diego #Maradona (- and there are so many to choose from of the man in his prime-) ] perhaps this is the best, toying with ...

というわけで、"perhaps" の前までがif節で、その節内に《ダッシュ》を使った《挿入》があるという形で、主節は "perhaps this is the best" である。このif節は、節内も主節も動詞が普通に "is" なので仮定法ではなく、直説法で《条件》を表すif節だ。

"a photo that sums up..." のthatは《関係代名詞》で、if節は「ディエゴ・マラドーナを端的に示す写真があるとしたら」

挿入句の部分では《to不定詞の形容詞的用法》が用いられていて、"there are so many (photos) to choose from" (photosが重複を避けるため省略されている)は直訳すれば「そこから選ぶための写真がとてもたくさんある」。

上記でphotosが省略されていることに気づかないと、"of the man in his prime" がわかりにくいかもしれないが、これは "(photos) of the man in his prime" で、「全盛期のこの人の写真」。「~を被写体にした写真」という意味で「~の写真」というときは前置詞はofを使うということも注意しておこう*3

主節の "perhaps this is the best" はシンプルで、「おそらく、これが最良だ」。

そのあとの部分: 

... perhaps this is the best, toying with a Belgian defence that has every idea of what he might do and no idea of what he will do.. or how he does it. 

太字にした "toying" は《現在分詞》だが、これは分詞構文ではなく(主語が共通していないので分詞構文にはならない)、この前から意識が続いていて、"a photo of the man toying with ..." と言っていると考えるのが妥当だろう(分詞の後置修飾)。

つまりここは実は "this is the best, a photo of the man toying with..." の形で、《同格》が入っていると考えられる。

a Belgian defence that has every idea of what he might do and no idea of what he will do.. or how he does it. 

"a Belgian defence" の直後の "that" は《関係代名詞》で主格。whatも関係代名詞だ。この文がeveryとnoの対比になっていてかっこいい。スポーツジャーナリズム文体というか、日本でいうと雑誌Numberの記事のあの独特な調子のような文体だ。「彼が何をする可能性があるかは全部知っていて、それでいて実際に彼が何をするか(何をしようとしているか)、あるいはどのようにそれをしようとしているかは全然わかっていない」。

ここでは助動詞のmightとwillの対比にも注目である。対戦相手のディフェンス陣としては、ボールを持ったマラドーナが何をしうるかはよくわかっているが、実際に目の前の彼が次にどんなことをするかは見当もつかないし、どうやってそれをしてくるかもわからない、と。

だからディエゴ・マラドーナは「マジシャン」と呼ばれた。ジョーイ・バートンの追悼のツイートにもそう書き添えられている。

 

英語版ウィキペディアに、映画監督のエミール・クストリッツァ*4の次の言葉が引用されている(引用元はFIFAの記事): 

"I asked myself, 'Who is this man? Who is this footballing magician, this Sex Pistol of international football, this cocaine victim who kicked the habit, looked like Falstaff and was as weak as spaghetti?' If Andy Warhol had still been alive, he would have definitely put Maradona alongside Marilyn Monroe and Mao Tse-tung. I'm convinced that if he hadn’t been a footballer, he'd've become a revolutionary."
—Emir Kusturica, film director

"a revolutionary" とクストリッツアは評しているが、マラドーナが亡くなった11月25日はフィデル・カストロの命日でもあった(私もこれはTwitterで知らされた)。マラドーナは、革命時のカストロの盟友、チェ・ゲバラの顔をタトゥーとして肩に入れていた。

「何をしうるかはわかっていても、何をしてくるかわからない」ということについては、リネカーさんがBT Sportで語っている映像をフィードしていた。

 

さて、ニーリーさんがツイートしているこの写真だが、実際にはこういうものだそうだ。

つまり、これは相手ゴール前に切り込んでいった時の写真ではなく、フリーキックからのボールを受けたところで、マラドーナの前にいるのはフリーキックの壁で、このかっこいい写真のあとすぐにマラドーナはボールを奪われたとの由。さらにいえばこの試合はベルギーの勝ちだったと。

argentina belgium maradonaみたいな適当な検索ワードだけで、この点について、2014年にガーディアンがこの写真を撮影したフォトグラファーにインタビューした記事が見つかった。1982年のワールドカップ(スペイン大会)での写真である。

https://www.theguardian.com/football/blog/2014/jul/05/diego-maradona-belgium-famous-photo

この記事がおもしろい。ぜひ読んでみてほしい。

The question, of course, is: does it matter that the image is so suggestive of something which did not actually occur? I think the answer is no.

The fundamental nature of photography is that it selectively captures a moment in time, it doesn’t necessarily speak of what went before or after, or of what happened beyond the bounds of the frame. Everyone knows that, we just forget it sometimes and we make assumptions to complete the story in our minds. In this case, the invitation to ‘see’ Maradona in his pomp is just too inviting.

この試合について、FIFA.com: 

www.fifa.com

 

それでもこの写真がアイコニックなものとして、このアルゼンチンのスーパースターを語る目的で閲覧され続けることは確定的だ。新聞が大々的に使っているので。

Twitterで知った映像。ウォーミングアップをするマラドーナ。ひたすらすごい。


Warm-Up Maradona UEFA-Cup semi-final 1989 HD

 

波乱万丈、太く短く生き抜いたマジシャン、安らかに。

 

※引用も多いし、今日は約6000字。

 

 マラドーナのドキュメンタリーはいくつかあるが、クストリッツァ監督のドキュメンタリーは下記。

マラドーナ [DVD]

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  • 発売日: 2010/06/09
  • メディア: DVD
 

 

 

 

 

 

 

*1:本気か冗談か、「アメリカではMadonnaとMaradonaが死んだことになってる」というツイートも流れてきていた。かなりイラっとしたのでスルーしたけど記憶からは消えてない。

*2:しばらく後に出た英タブロイドはそうではなかったのだが、その話はまた次回。

*3:「~による写真」の意味で「~の写真」なら前置詞はbyになる。所有格を使うとそこらへんが曖昧になる。a photo of Tomは「トムを写した写真」、a photo by Tomは「トムが撮影した写真」で、Tom's photoだとそのどちらでもありうる(文脈で判断する)。

*4:クストリッツァマラドーナのドキュメンタリー映画を作っている。

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