このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、12月13日の総選挙で残念ながら議席を失った議員が見舞われた悲劇についての報道記事より。
イギリスの国会議事堂は、観光ガイドブックの表紙にもなっている例の時計塔(ビッグ・ベンの塔)の横に広がっている豪奢な建物で、あの中には上院と下院の議場やロビーはもちろん、国王のためのスペースがあったり、議員や秘書・職員のための図書・資料室や食堂やバーがあったりするのだが、そういった「みんなで使うスペース」の他に、各議員のオフィスもある。
それらオフィスは2人で1部屋を使うこともある。そうして「オフィスメイト」になった議員同士として有名なのがトニー・ブレアとゴードン・ブラウンである。この話を書き始めると長くなるので端折るが、ブレアとブラウンの物語をスティーヴン・フリアーズが映像化したThe Dealでは、2人の友情とライバル関係の始まりの場となるこのオフィスから物語が始まる。
これはセットで撮影されていると思うが、実際の議員のオフィスも、こんな感じの狭苦しいスペースだそうで、そこに各議員が書籍やら書類やら、パソコンやら何やら、議員としての仕事に必要なものを持ち込んでいる。替えのスーツやネクタイなどを置いている人もいる。
今回の記事は、13日の総選挙で議席を失った(元)議員が、そのようにしてオフィスに置いてあった私物が、勝手に処分されてしまっていたというあまりに気の毒な件についての報道記事である。記事はこちら:
見出しにある "incinerate" という単語は、大学受験生は覚えておかなくてよいが(長文に出てきたら語注を付けるレベルの語)、「~を焼却処分する」という意味。はてなブログでURLを埋め込むとこの見出しで表示されるが、実際にリンクをクリックすると "incinerated" ではなく "destroyed" と書かれていると思う。英検1級を受験する人はここでこの2つの語をほぼ同義の類義語として覚えてしまえばよいボキャビルになるだろう。
実例として見るのは、記事の最後のセクションのあたりから。落選したジョーンズ議員がオフィスに置いてあった私物がどうなったか、それに対する補償はどうなるのかがすっかり説明され、今回の異例の時期に実施された選挙にともなう落選議員のネット上の資産などの扱いについて、「クリスマスの時期だということを勘案すべき(少し日程的に猶予を見るべき)」といった意見なども紹介したあとで、やらかしてしまった下院(庶民院)の側がどう述べているかを伝える部分から。
キャプチャ画像の最初の文:
A House of Commons spokesperson apologised for the unfortunate demise of Jones’s belongings.
"apologise" という綴りはイギリス式で、アメリカ式なら "apologize" となる。スペルチェッカーの多くは初期設定のまま使うとこの -ise 語尾のイギリス式の綴りを「間違い」として指摘してくるが、余計なお世話である。
《apologise for ~》は「~について(全面的に非を認めて)謝罪する」の意味。前置詞でforを使うことから、be sorry for ~の表現と関連づけて覚えておくとよいだろう。
He apologised for being late.
(彼は遅れたことについて謝罪した)
He was sorry for being late.
(彼は遅れたことを申し訳なく思っていた)
この部分は報道などでの形式にのっとって、最初に「スポークスパーソンはジョーンズ氏の私物が不運にも処分されてしまったことについて謝罪した」という要旨を述べ、そのあとに、引用符でくくって実際の発言を紹介している。
その引用符内から:
This was a genuine mistake and we are very sorry for the distress and inconvenience caused. Mr Jones will be compensated for the items lost
ここで "we are very sorry for ~" が出てくるが、それについては上の説明を参照されたい。
さて、ここで2か所、太字で示したのは、どちらも、《名詞+過去分詞》の語順で、過去分詞が単独で先行の名詞を修飾する《後置修飾》になっている形。
これについては先日取り上げているので、そちらをご参照いただきたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
受験英語では「分詞が単独で後置修飾になることはありえない」と教えられるかもしれないが、「ありえない」のではなく「原則としてない」くらいに考えておくべきだろう。逆にいえば、今回のこのような例があるからといって、「分詞が単独で名詞を修飾する場合は、名詞の前においても後ろにおいてもいい」などと考えてしまわないようにすることが重要である。特に整序英作文の問題ではこれはとても重要だ。原則として、分詞が単独の場合は名詞の前、分詞が後ろに語句を従えている場合は名詞の後に置く。
a sleeping cat
(眠っているねこ)
a cat sleeping on my scarf
(私のマフラーの上で眠っているねこ)
a broken vase
(割れた花瓶)
a vase broken by our house cat
(うちのねこによって割られた花瓶)
同じ文のコンマの後の部分:
..., and we will review our processes to minimise the chance of this happening again.
ofという前置詞の後なので、happenという動詞が動名詞のhappeningになっており(《前置詞+動名詞》)、その《動名詞の意味上の主語》が動名詞の前に置かれている。「これがまた起きる可能性を最小化するための私たちの手順を見直すことになる」という文意である。
to minimiseは《to不定詞の形容詞的用法》で、our processesを修飾していると考えられる。(あるいは副詞的用法で、「~を最小化するため、私たちの手順を見直す」という意味だというふうにも取れるが。)
次の文:
“We recognise that this error will have contributed to what is already a very difficult time.”
《will + have +過去分詞》の《未来完了》である。ざっくり直訳すると、「このミスが、(ジョーンズ氏にとって)既にたいへんに難しい時となっているものに、さらにcontributeしてしまうであろうということを、私たちは認識している」となる。
recogniseの綴りについては、上で見たapologiseと同じ、イギリス式。アメリカ式ならrecognizeとなる。
このcontributeはとても日本語にしづらいのだが、こういうのは東大や一橋大の和訳問題に出題されそうではある。ここではcontributeは自動詞で、前置詞toを置いて《contribute to ~》の形になっている。意味は「~に寄与する」とか「~に寄付する」とか。このまま日本語にしてもイマイチ意味がわからない文面になるだけで、かみ砕いて日本語にしなければならない。私なら「すでに(落選という)つらい結果を味あわされているときに、さらにそのつらさを増してしまう」といったように日本語にすると思うが、それでどのくらい点数が取れるかは採点基準と採点者次第だろう。
最後、下線で示した "what is already a very difficult time" は、以前取り上げたような、関係代名詞のwhatを用いたこなれた表現である。「かっこよくこなれた表現」ということで、読解では意味さえしっかりとれていればあまり深く考えなくてもよい。詳細は下記を参照。
hoarding-examples.hatenablog.jp
参考書: