このエントリは、2020年1月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、前回見たのと同じ記事から。
前回、というか昨日は、西洋の英語圏では実質年末年始の休みムード明けで*1、アメリカのエンタメ業界ではゴールデン・グローブ賞の授賞式があったのだが、その場でオーストラリア出身のスターであるラッセル・クロウ(TVドラマの部門で主演男優賞を受賞している)が、今のオーストラリアの大火は地球規模の気候変動と密接に関連しているというスピーチを行ったとして、ガーディアンのニュースになっていた。
Russell Crowe uses Golden Globes win to highlight Australian fires climate change link – video https://t.co/fJ98tKxyWG
— The Guardian (@guardian) 2020年1月6日
日本でも、6日の未明に超有名人がツイートしていたのが爆発的に話題になっていた。
【こちらもRTお願いします】
— Yusaku Maezawa (MZ) 前澤友作 (@yousuck2020) 2020年1月6日
数年前にオーストラリアでコアラを抱っこしました。そのまま僕の腕の中で💩をしました。そんな可愛いコアラ達が苦しんでます🥺
オーストラリアの山火事が大変です。余裕ある方は寄付のご検討ください。僕も寄付します!https://t.co/LBJmAPkDAJ #PrayForAustralia pic.twitter.com/rr1263Wn5w
オーストラリアは今の保守政権が人為的気候変動という事実を否定するスタンスに寄っていて、11月からずっと続いていて拡大するばかりの今回の火災について、「森林火災なら毎年起きている。気候変動との関連などない」という否認論を展開していたのだが、それを覆して気候変動と火災の関連を認める発言をスコット・モリソン首相が行ったのは、ようやくこの12月中旬のことだった。
グレタ・トゥーンベリさんがスピーチで "The problem now is that we need to wake up. It’s time to face the reality, the facts, the science." と述べて批判したのは、モリソン首相のように、人為的気候変動という事実・現実を認めようとしない政治的リーダーたちの態度だ。
さて、今回の記事は(前回と同じく)こちら:
実例として見るのは、前回見た部分の続き:
2つ目のパラグラフの2番目の文:
“It’s the waiting and the limbo, you just feel like anything has to be better.”
前回説明したように、引用符でくくって示されている部分は(日本の新聞記事でのカギカッコの用法とは異なり)発言者の発言そのままを文字にしているので、文法的には微妙かもしれないような、口頭での英語がそのまま文字になっていることもよくある。この文もそうで、厳密に言えば、接続詞もないのにコンマで2つの文が並置されているのは文法的にはおかしいのだが、この程度のことなら何も修正せずにそのまま文字にする。
引用符内で文字にした部分で、何か単語を補ったり修正したりしないと読者に話が通じないような場合は、ブラケット [ ] を使って補足・修正するというルールが一般的である。詳細は大学入試には関係ないし、ここでは解説しないが、大学に入ってから英語で論文などを書くことになる人は必ず指導されるだろうし、その際、下記のような指針を示されるはずである。
さて、この文:
“It’s the waiting and the limbo, you just feel like anything has to be better.”
私が入試問題・試験問題作成者だったら、limboという単語に下線を引いて、「この語の表すものは何か、次の選択肢から選べ」という問いを作るだろう。
limboという単語は、辞書をひくと「地獄の辺土」などといった訳語が示され、わかるようなわからないような宗教的な意味の解説が添えられていることが多い。
と聞くと、宗教の文脈でしか出てこないのかなと思われるかもしれないが、この単語は宗教とは関係なく日常生活で「はっきりした結論が出ない状態、中途半端な状態」を言うのによく用いられる。
例えば、試験を受け、合格かどうかの結果が出るまでの状態がlimboだ。
あと、難民申請をした人が、その申請が認められて難民認定が受けられるかどうかという結論を待っている状態もlimboで、これは特にlegal limbo(「法的なリンボ」)として報道用語になっている。legalというのは、結論が出るまでの間は法的に、その国での居住が認められた難民でもなければ、送還対象となる不法滞在者でもない、したがって合法的に働くこともできない、といった状態に置かれるからだ。
最近ではこのlegal limboという表現は、Brexitに関連して、UK内に居住してきたEU国籍の人々(EU域内の「移動の自由」により、EU国籍の人は無条件で英国に居住できていた)について用いられるのをよく目にする。例えば下記の記事のような例だ。
次の文はやや長いが、構造は単純だ。スラッシュやカッコを入れておこう。
( When Guardian Australia spoke to Caban on Sunday,) the 33-year-old was sheltered inside the safety of an unregistered bus-turned-refuge / on the wharf in the coastal New South Wales town of Eden / with ( her husband[, Oliver Tratham-Webb], her three daughters [Pearl, Aster and Aria], three dogs, a cat and several ducklings).
最初のカッコは接続詞whenの副詞節で、何も難しいところはない。「日曜日にガーディアン・オーストラリアがキャバンさんに話を聞いたときに(ときは)」である。*2
その次、太字で示した部分がこの文の主要な部分。"the 33-year-old" は「その33歳の人物」という意味で、ハイフンの使い方に注意。ハイフンを使って数字とyear oldをつないだ複合語は形容詞として用いられることがよくあるが、このように《the + 数字-year-old》の形で「その~歳の人物」という意味を表す用法も、報道記事では毎日のように見かける。
例えば派手な脱出劇が関心を呼んでいるカルロス・ゴーンだが、彼についての記事には次のような記述がある。上(Business Insider)は形容詞、下(BBC)は名詞だ。
On Monday, the 65-year-old former Nissan CEO captured the world's attention by skipping bail in Japan
the 65-year-old hid in a large musical instrument case which was then hurried to a local airport
ここで年齢を表す表現について、基本を確認しておくと、次のようになる。
◆普通に年齢を言う表現:
Mikel Arteta is 37 years old.
(ミケル・アルテタは37歳である)
◆《数字-year-old》の形で形容詞:
The 37-year-old Arsenal boss spoke to the press after the match.
(その37歳のアーセナルの指揮官は、試合後、記者らに話をした)
A 37-year-old man named Mikel
(ミケルという名の37歳の男性)
◆《数字-year-old》の形で名詞:
The 37-year-old was an Arsenal player from 2011 to 2016.
(その37歳の人物は、2011年から16年までアーセナルのプレイヤーだった)
さて、その次。"inside the safety of an unregistered bus-turned-refuge" の部分も、詳しく解説しようとすればいくらでもできるのだが(特にthe safety of ~は英語オタク心をくすぐる)、変に解説しすぎると難しく感じられるだけなのでさっと流そう。 "inside the safety of ~" は「~という安全な場所の中に」という意味だ。
そして太字にしたturnedだが、これはこのように《A-turned-B》という形で、「元Aだったが、今はBになったもの」という意味を表すのによく使われる表現だ。
余談になるが、この表現、大学を離れて、日々接する英語がアカデミックな英語ではないものになったときに初めて見て、何となく意味はわかるけれど確証が持てなくて困った表現である。辞書を引いてもこのturnedは載っていなくて(今、手元にある最新版の『ジーニアス英和辞典』にも載っていない)、用例すら確認できなかった(インターネットが使えるようになる前の話で、「ネットで用例を確認する」などという、今見ればとてもシンプルでベーシックなことすらできなかった)。turnは「変化する」の意味があるから、「元~で、現…」という意味なのは容易に想像がつくが、A-turned-BのAとBのどちらが「元~」でどちらが「現…」なのかがわからない。文法的にはどちらでもありうるのだ(turnは他動詞でも自動詞でもありうるので)。
私が見た実例が、「元プロ野球選手で、現在は解説者」のようなわかりやすい流れのものなら問題なく推測できたのだが、the pharmacist-turned-musician のような例で、それも説明の文脈もなかったから、何も手がかりがなかったのである。
その後、いろいろあって、この表現の意味が確定できたので、今は辞書に載っていなくても確信をもって言えるのだが、《A-turned-B》は「元Aで、現B」ということを表している。今回の実例の "bus-turned-refuge" は「元々はバスだったが、今は避難所として使われているもの」の意味である。
そのあとは、順番に読んでいけば意味は問題なく取れるだろう。この調子でだらだらと長くなっている記述は、センター試験の長文読解問題にもよく見られるので、センター受験直前の人たちは復習するつもりで読んでみてほしい。ちょっと上の方に行き過ぎてしまったので再掲しておこう:
on the wharf in the coastal New South Wales town of Eden / with ( her husband[, Oliver Tratham-Webb], her three daughters [Pearl, Aster and Aria], three dogs, a cat and several ducklings).
"on the wharf in the coastal New South Wales town of Eden" は「ニュー・サウス・ウェールズ州の海岸沿いの町、エデンの波止場に」。
withから後ろは、《同格》と《等位接続詞のand》による構造が正確に読めれば問題ないはずだ。「彼女の夫であるオリヴァー・トレイサム=ウェッブさん、彼女の3人の娘であるパール、アスターとアリア、3匹の犬、1匹の猫と、何羽かのアヒルのひなと一緒に」の意味。
なお、wharfという語は、カタカナ語としては「ワーフ」と読まれているが、英語としては(あえてカタカナで書けば)「ウォーフ」である。arが「アー」ではなく「ウォー」という音になる単語のひとつだ。
同じように、英語では「ウォー」なのに日本語では間違って「アー」と読まれて定着してしまっている語に、awardがある。日本語では「アワード」といわれるが(しかも語頭に強勢を置いて!)、英語では「アウォード」である。語強勢は「ウォ」の部分。
発音は下記で確認していただきたい。
参考書(パンクチュエーションのルールは『ロイヤル英文法』にまとめて掲載されている):