Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

関心を寄せるべきは「衝突が起きている」ことではない。イスラエルが何をしているのか、だ。

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今回は、少し変則的に。

ハマス(ハマース)*1がロケットを撃ち始めてようやく世界的に報じられるようになったが(そもそも「ハマスが先に手を出した」わけではないのだが)、ここ数週間、イスラエルパレスチナ情勢がひどく緊迫してきていた。

日本でゴールデンウィークが終わるころ、私は具合が悪くて寝込んでいたのだが、布団の中で手にしていたスマホの画面に流れてくるエルサレム――イスラエルが完全に「自分たちの物」扱いしているこの都市は、国際社会としては "The international community largely considers the legal status of Jerusalem to derive from the partition plan, and correspondingly refuses to recognize Israeli sovereignty over the city," つまりイスラエルの主権を認めていない――や、ヨルダン川西岸地区からのニュースは(それらは地域的にはハマスが拠点とするガザ地区とは別なのだが、なぜこれらの地域が「別」になっているか、何がそれらを「別々」にしているのかが、問題のroot causeである)、とても重苦しいものだった。今年は偶然にも、イスラエルが(勝手に)制定している「エルサレムの日」が5月9日から10日、イスラム教のラマダーンの最終日が5月12日と近接していた上に*2イスラエルの政治情勢がとても微妙で、何がどうなるかわからないという状態だった。

イスラエルでは、一応「首相」の立場にあるネタニヤフ(文中敬称略)が、収賄や背任といった汚職で起訴されて2020年5月以降裁判の被告となっていて、そしてそれでも「首相」のポストは維持し続けていたのだが(私はその理由までは把握していない)、いかにも政権が安定せず、この3月に2年間で4度目となった総選挙が行われたものの、何度選挙しても、ネタニヤフの政党(「リクード」という)が第一党になりはしても単独過半数は取れず(それ自体はイスラエルでは普通のこと)、したがってどこかほかの党と連立を組むことになるのだが、その連立が難航したり、何とかして政権発足にこぎつけても予算案が通せなかったりといったことになって総選挙が繰り返されていて、要するにネタニヤフ的には何が何でも何とかしたいという局面にある(雑駁な説明ですみません)。イスラエル新型コロナウイルスのワクチン大量接種(ただしイスラエルが占領しているパレスチナには雀の涙ほどしかワクチンを入れていない)が「成功」していて、世界の注目を集めているのには、そういう背景もある(それがあっても、ネタニヤフはこの3月の選挙後に組閣できなかったのだが)。どんな手に出てくるかわかったもんじゃない。

 

ここまでで1000字を軽く超えてしまっているので先を急ごう。

エルサレムというと宗教がなんちゃらと言いたがる人たちが日本にはとても多いが、それ以前に単に人々が暮らす街の行政という面で、エルサレムは東西に分断されていて、東エルサレムは「アラブ人」の街である(かつてはヨルダンの支配下にあった)。イスラエルの右派は、その東エルサレムも自分たちのものにしようと、そこに住んでいる人々(つまり「アラブ人」)を追い出しにかかっている。これは「立ち退き」ではなく「追い出し」である。そしてそれは今に始まった話ではない。「住居建設の許可が下りていないのに勝手に家を作っている」という口実をつけて、イスラエル当局が「アラブ人」の家をブルドーザーで破壊しているというニュースは、私の環境ではもうずっと何年も前から、しょっちゅう流れてくる。この4月から5月だって、住民の追い出しが行われているという実況のようなものが、英語で、あるいは英語翻訳付きのアラビア語のツイートで流れてきているのだ。「ハマスのロケット」のずっと前に。そしてそれは、国際ニュースにはほとんどならない。追い出されているのは元からの住民、追い出しているのは新規の入植者である。

エルサレムのシェイク・ジャラー(シェイクジャラ)地区では、 同地区住民の追い出しへの抗議運動が行われ、イスラエル当局はそれを暴力的に排除している。

ネタニヤフが、元々イスラエルのものではない東エルサレムに、入植者を守るためとして警察を常駐させると約束しているという下記ツイートの @BtSIsrael は、イスラエルの国策に疑問を持った元軍人たち(といってもイスラエルは徴兵制なのだが)のNGOBreaking the Silenceのことである。詳細は土井敏邦さんの下記の著作など参照。

沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る“占領”

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英国のCaabu (Coucil for Arab-British Understanding) は「占領されている東エルサレムにおけるイスラエル戦争犯罪を止めるために、英国は行動を」と求めている(が、英国政府がそういう声に耳を傾けることは、残念ながらないだろう)。

下記ツイートの@SayeedaWarsiは英保守党所属の政治家で現在は上院議員イスラム教徒で女性で、デイヴィッド・キャメロンのころは党の本流だったと言ってよいと思うが、今では外されている。英語を解説するなら、文頭に "It is" が省略されていて、これは《形式主語のit》の構文である。

"the dispossession & forced eviction of Palestinian homes in occupied East Jerusalem, by Israeli settlers backed & supported by the state, illegal annexation & UK complicity through inaction" は「占領された東エルサレムにおける、国家(イスラエル)によって支援されたイスラエル人入植者による、パレスチナ人の家屋からの追い出し・強制退去、また不法(違法)な併合、および英国の無行動による連座」と直訳されるが、話の中身をわかりやすくしようと思ったら、この日本語では無理目だろう。それをするのはこのブログの目的ではないから割愛するが。

イスラエルのやっていることは、先日、Human Rights Watchによって「アパルトヘイト」と位置付けられた。それを受けてのユーセフ・ムネイルさんによる事態の分析。「シェイク・ジャラーでパレスチナ人の身の上に起きていることは、アパルトヘイトの縮図である。人々が追い出されているのは正当な持ち主の要求によるものではない。かつてその地はユダヤ人のものであったので、今、ユダヤ人は所有権を主張できるという話になっているのだ」(意訳)。

「法廷も所有権を主張するイスラエル人の側につくだろう。法廷の役目とは、法律を解釈することであり、その法律はユダヤ人でない者たちよりもユダヤ人を優先するように書かれているのだから」。「収奪と不平等が法律のなかにしっかりと組み込まれている以上、これは合法的なことである」。

「アラブ人」(イスラエルが使いたがらない、より真実に即した表現を使えば「パレスチナ人」)の抗議行動排除の実相。非常に暴力的に扱われる抗議参加者(女性)。「これは『不動産』トラブルであり、入植者の植民地主義とは別だと言えるだけの神経がありますか」。

そしてこういう扱いを受けたとき、パレスチナ人たちは笑みを浮かべる。そして「こんなものに打ち負かされない」ということを表す。

というわけで、東エルサレムのシェイク・ジャラーで起きていることのMEEによるまとめ。

こちらはアルジャジーラ・イングリッシュ:

 

 

さて、シェイク・ジャラーでの事態に加え、今年はアル=アクサ・モスクでめちゃくちゃなことが行われた。人々がモスクに行くことが阻止され、、モスク内で礼拝中の人々が、踏み込んできたイスラエル治安当局に排除された。それもラマダーンの最も神聖な日に。

礼拝の場に対する力の行使の情景を、IMEU (Institute for Middle East Understanding) は「悪夢」と呼んでいる。英文解説をするなら、下記のツイートの第二文は《接触節》で、前置詞で文が終わっている。"the nightmare" と "Israeli forces" の間に関係代名詞のthatかwhichを補うと構造がはっきり見えるはずだ。

礼拝施設を襲い、礼拝している人々を排除しただけではない。医療もターゲットにされた。東エルサレムにおいてイスラエル側の暴力で負傷した人々を手当している診療所にも踏み込んで、サウンド・ボム(破壊を引き起こすような爆発は起きないような手榴弾)を投げ散らかした。英文として解説するなら、下記ツイートは《関係副詞》の《非制限用法》のよい例である。

「医療の軍事標的化」というと最近ではシリアでアサド政権側がやっているのが前景化しているが、その前にイスラエルパレスチナに対してやってきたことである。そして、「国際社会」はそれを有効な形で(つまりそんなことが起こらないように)批判・非難することができていない。いつも口先だけである。

アル=アクサ・モスクがそのように襲われていたころ、壁のところではイスラエルの極右が気勢を上げていた。Twitter見ると「燃えているのはありゃパレスチナ人が自分らでやったんだ、そうでないという証拠を見せろ」みたいに言ってる連中もいて、誰かがこのことについて何か発言すると、そういう主張をする知らない人からいきなり激しい口調でつっかかってこられることもあるんではないかと思う*3。ともあれ、この気勢を上げる見るからに「愛国的」な集団は、いわゆる「カハネ主義」の歌を歌っている。

カハネ主義の政党についてはこういうのも:

そしてしかも今回、アル・アクサ・モスクがめちゃくちゃなことになっているとき、現場からの実況報告を、ソーシャルメディア大手プラットフォームは妨害した。

そして、イスラエルが主権を有さない土地で現地の人たちが行っている平和的抗議行動を暴力的に排除し、祈りの場に武力を有する国家の暴力装置が踏み込んで狼藉を働いたことについて「衝突 clash」という語を使う英語圏メディアの厚顔無恥

 

そして、例によって「どちらの側も」の言説のご登場だ。イスラエルパレスチナに何かをすると、米国務省は「イスラエルパレスチナの間で何かが起きている」と読み替えて、バカの一つ覚えのように「双方自重」を繰り返すが、その言説自体が問題解決を遠ざける装置の重要な一部である。

さらに、エルサレムから少し離れたところでは、この数日、このありさまだ。

 

実は今回はこのMondoweissの記事を英語の実例として取り上げようと考えていたのだが、何があったかをTwitterから拾う形でざっくりメモってみただけで9400字になってしまったため、Mondoweiss記事は次回ということで。これからこの9400字に文脈解説と英文法的な解説を少し書き加えるので、出来上がりは1万字を軽く超えるだろう。

 

※書き加えたら、13000字以上になっていた。ハマスがロケットを発射し、イスラエル軍の攻撃を受けている「ガザ地区」に話がたどり着く前にこのボリュームである。マスコミ報道はそこを全部すっ飛ばして「ハマスのロケット」と「民間人の被害」を焦点化する装置として機能しており、ガザ地区に入った記者もその話しかしていない。問題は、「占領」にあるという視点が、なぜ持てないのだろうか。その視点を持ったら仕事がなくなるといわんばかりに、マスコミはそれを無視している。

 

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*1:正確には、「ハマス」は抵抗運動で、武装組織は「エゼディーン・アル・カッサーム旅団」と言うのだが、本稿では用語として「ハマス」を用いる。「ハマス」と「アル・カッサム旅団」を区別することは、「シン・フェイン」や「リパブリカン運動」と「IRA」を区別するのと同じことなのだが、一般的に目にする文書類では誰も区別していない。なぜなのかは私にはわからない。

*2:どちらの日程も、それぞれ西暦とは違う暦で決められるので、私たちが使っている西暦では日にちは毎年変わる。

*3:私個人は、そういうフェーズは15年くらい前に終わってて、今はそういう人たちからも絡んでこられなくなっている。ちなみに、そういう活動はイスラエルは国家として組織的に行っている。Hasbaraというキーワードで英語圏で検索を。