Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「ハマスのロケット」の前にあったこと~ブリン村でのイスラエル人入植者による放火(《時》を表す接続詞のwhen, 感覚動詞, など)

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今回は、前回最後に述べたように、Mondweissの記事を見てみよう。

Mondoweissは米国を拠点とするオンライン・メディアで、米国の中東における外交政策を専門としている。最初は、2006年に、ニューヨーク・オブザーヴァーという週刊メディアのサイト内で、Philip Weissというジャーナリストの個人ブログとして始まった(Weissさんの個人ブログとして始まったことは、サイトの名称からうかがえるだろう)。翌年、ワイスさんが所属メディアを離れて完全に個人ブログとなり、2009年にアダム・ホロヴィッツさんというイスラエルパレスチナ問題の専門家が加わって、現在の形の原型ができた。

ワイスさんがブログを始めた2006年といえば、米国はアフガニスタン戦争・イラク戦争のただなかにあり、また、イスラエルパレスチナでは、2000年にイスラエルが建設を始めた「分離壁」について、03年10月に国連安保理が「分離壁は違法であり、ゆえに撤去されねばならない」とする国連決議を採択しようとしたときに米国が拒否権を行使し、翌04年5月にもっとトーンダウンした決議が採択され、同年夏に国際司法裁判所 (ICJ) の法的拘束力を持たない意見として「分離壁建設は国際法に反している」という断言が出たにもかかわらず、この違法な壁の建設が止まらずにいた時期である。ちなみに、Banksyがこの違法な壁に絵を描いたのが2005年のことだ。

そして何より、2006年といえば、あの選挙があった年だ。そんな話をしているといつまで経っても本題に入れないので、前置きはここまでとするが、この選挙については下記URLでご確認いただきたい(日本語版ウィキペディアではこの重要な出来事がほぼスルーされている)。

https://en.wikipedia.org/wiki/Hamas#2006_presidential_and_legislative_elections

 

さて、「ハマス(ハマース)のロケット」が撃たれ始めてここ数日でようやく国際ニュースになるようになったイスラエルパレスチナ情勢だが、前回事細かに述べたとおり、「情勢の悪化(緊迫化)」はハマスのロケット弾が引き起こしたものではない。その前から、イスラエルの東エルサレムヨルダン川西岸地区での、元々ひどい暴力が、ナショナリスティックなムードに乗るようにしてさらに過激化しており、そのことは、国際ニュースになりはしなくても、普通に中東をウォッチしていれば、何らかの形で目に入ってきていたはずである(日本語圏ではどうだか知らないが、少なくとも英語圏では。アラビア語圏でも英語圏と同じくらいには取り上げられていただろうと思うが、アラブ諸国イスラエルに対する忖度はかなりすごいものがあるし、アラブ諸国のメディア統制もかなりのものがあるので、注目されていなかったかもしれない)。

そのような、イスラエル側の暴力の事例のひとつが、今回見るMondoweiss記事で詳しく報告されている、ブリン村 (Burin) での放火である。記事はこちら: 

mondoweiss.net

この記事は5月6日付だが、「ハマスのロケット」で中東情勢が国際ニュースに出るようになったあとに再度Twitterにフィードされている。

写真の中であかあかと燃えている丘陵地帯は原野ではない。パレスチナの人々が木を植え、耕して作物を育てている土地である。

今回はこの記事を丁寧に読んでいこう。まず書き出しの部分。 

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https://mondoweiss.net/2021/05/we-put-our-souls-into-this-land-palestinians-mourn-land-lost-to-settler-arson-attack/

最初のパラグラフ:  

Palestinians in the village of Burin were just sitting down for iftar, the evening meal to end their daily Ramadan fast, when they noticed smoke rising on the outskirts of the eastern part of the village.

下線で示した部分はコンマとコンマに挟まれた《挿入》で、直前の "iftar" の説明である。iftarという語は英語ではなじみがないので、「毎日のラマダーンの断食を終えるための夕食」という説明を加えているのだ。

その次、太字で示した "when" は、形だけ見ると「コンマとwhenだから関係副詞の継続用法かな。先行詞はtheir daily Ramadan fastだろう」と思ってしまうかもしれないが、そうではない。これは《時》を表す《接続詞》のwhenだ*1。この文は、《過去進行形の文+接続詞のwhenの節》の形になっているが、このwhenは意味的にはand thenの意味となる。

青字で示した部分は、《感覚動詞+O+現在分詞》の形(noticeもseeなどと同じ感覚動詞として機能する)。

文意は「ブリン村のパレスチナ人たちが、断食を終える夕餉の席に着き始めたそのとき、村の東側の周辺域から煙が上がっているのに気付いた」。

次の文でも同じwhenと、《感覚動詞+O+現在分詞》の構文が用いられている。

Walid Saeed, 70, a local farmer in Burin, was sitting on his balcony with his family when he saw a large group of Israeli settlers descending from the hilltops surrounding Burin.

「ブリン村で農業を営むワリド・サイードさん(70歳)は、家族とともに自宅のバルコニーで座っていると、イスラエル人入植者の大人数の集団が、ブリン村を取り巻く丘陵の上から降りてくるのを見た」。

この次のパラグラフで、サイードさんが「Har Brachaから入植者50人くらいが降りてきた」と述べているが、ブリン村についてのウィキペディア(英語版)を見ると: 

Israel has confiscated land from Burin in order to construct 2 Israeli settlements: 621 dunams for Bracha, and 233 dunams for Yizhar.

Burin, Nablus - Wikipedia

つまり、イスラエルはブリン村の土地を奪って、BrachaとYizharの2つの入植地を建設した。この件、詳しく確認したい人はウィキペディア内に記載されている出典に当たられたい。dunamというのは面積の単位で、1 dunamは10アールに相当する。

 

記事のこの次の部分:

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https://mondoweiss.net/2021/05/we-put-our-souls-into-this-land-palestinians-mourn-land-lost-to-settler-arson-attack/

ブラチャ入植地から降りてきたイスラエル人入植者の集団が何か所も火を放ったというサイードさんの発言に続き: 

According to Saeed, when a group of local youth from Burin attempted to go put out the fires, / that came under attack from settlers who threw stones and attempted to physically assault the Palestinian residents.

太字で示した "when" もまた《時》を表す接続詞だが、これは素直に解釈してよい。この節の切れ目は、朱字でスラッシュを入れたところで、「ブリン村の若者たちの集団が火を消しに行こうとしたときに、それ(若者たちの取り組み)は、石を投げ、パレスチナ人の住民たちに身体的暴力をふるおうとした入植者からの攻撃にさらされた」というのが文意。

下線で示した "who" は《関係代名詞》で、先行詞は "settlers" だ。

その次の文: 

He added that a group of Israeli soldiers were also in the area, and fired tear gas and sound bombs at the Palestinians, forcing them to retreat.

太字で示した《等位接続詞》の "and" が何と何を接続しているかを正確に見極めなければならない。 "and" の直後にあるのが "fired"で、これは動詞の過去形だから、この前にある動詞の過去形と接続されていると考えればよいのだが、ここで問題は、それが2つあるということだ。つまり、 "He added that ..." と "... Israeli soldiers were ..." の2つ。

ここでは形式からだけでは判断しきれないので、文意を考えなければならない。

文の主語の "He" は、入植者による放火を目撃したサイードさんのことで、サイードさんが "fired tear gas and sound bombs at the Palestinians" したとは考えられないし、実際にそういう話はしていない。ここで催涙ガス弾やサウンドボム(音響弾)を撃ったのは「イスラエルの兵士たちの集団」である。

下線で示した "forcing" は《分詞構文》。また《force + O + to do ~》は「Oを(強制的に)~させる」だが、ここではいわゆる「強制性」云々の話はしておらず、「~するよりない状態に追い込む」といった意味である。

つまり、イスラエル人入植者たちがパレスチナ人の土地に火を放ち、その火を消そうとパレスチナ人が出ていくと、入植者たちが石を投げてきたり暴力をふるおうとしてきたりし、同時にイスラエル軍兵士が催涙弾や音響弾を放ってくるので、パレスチナ人たちは退却するよりなかった、ということである。

こうして、火は燃え広がったのだ。

 

ここで既に4500字に達し、当ブログ既定の4000字を超過しているので、このあとはまた次回に。

 

 

それでもパレスチナに木を植える

それでもパレスチナに木を植える

 
英文法解説

英文法解説

 

 

なお、ブログのタイトルだが、いつもは「取り上げている文法項目の列挙(実例として見ている記事の話題)」という形式にしているものを、今回中東について書くエントリについては逆転させて「記事の話題(文法項目)」の形式にしている。Twitterフィードも、いつもは猫の写真がフィードされるように設定しているが、今回の一連のエントリについては猫写真を取りやめてテクストを流すようにする(実は昨日、猫画像を設定するのを忘れてフィードしてしまって、その出具合が今回のこの事態にはふさわしいように思えたので)。

 

 

 

 

*1:ただし、これを関係副詞と考える向きもある。

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