このエントリは、2021年5月にアップしたものの再掲である。
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今回も、前々回と前回の続きで、ブリン村焼き討ちについてのMondoweissの記事を読んでいく。前置きの類は前々回のエントリをご参照いただきたい。
前回少し言及したが、ガザ地区でアルジャジーラ(カタール)とAP通信(米国)という超大手の報道機関が拠点を置いている建物が、昨日、破壊された。イスラエル軍から爆破予告があり、人員は全員退避していた。イスラエル軍は「その建物にはハマスが云々」と言っているのだが、ならばなぜ人を退避させる? やっていることはただの破壊、インフラの破壊である。下記は爆破予告を受けて大事な機材などを運び出すAP(映像手前側)とアルジャジーラ(奥)の人たちの様子。
Video of inside the press offices of the Associated Press and AlJazeera before the Gaza building was levelled to the ground. Journalists trying to grab precious and valuable equipment in short period. pic.twitter.com/Bi14stu49M
— Bessma Momani (@b_momani) 2021年5月15日
前回書いたことだが、爆破するという予告をして人を退避させ、ビルを爆破して使えないようにし、人的被害がなかったとドヤ顔をし、そしてそのあとで非難が起きたら自身がその建物を軍事標的としたことについて、好きなように正当化してみせるというのは、私の知っている世界では、テロリストのやることである(IRAのロンドンでの爆弾テロの数々を参照)。
記事はこちら:
前回みたところの、また次のパラグラフ。取材に答えたワリド・サイードさんの発言が引用符で示されている部分:
特に文法的に難しいところはない。時制に注意して読んでいけば問題なく読めるだろう。
“We lost between 70 to 100 dunums of land to the fire,” Saeed said, adding that while his plot of land had been saved before the fires reached it, his neighbors and friends suffered immense losses.
下線で示した "adding" は《現在分詞》で《分詞構文》。この記事のような、当事者に話を聞いてまとめた記事でよく使われるスタイルで、引用符で本人の発言そのもの(この場合はアラビア語の発言を英語に翻訳したものかもしれないが)を文字で書いておいたあとに、さらに詳しい情報として、本人の発言の内容だけを地の文として示すという形だ。
ここではサイードさんが「70から100ドゥナムの土地が燃えてしまいました」と語り、また、サイードさん自身の区画は炎が達する前に救われていたが、近所の人や友人たちには甚大な損害が出たということを語っている。ここで、太字で示したように、《過去完了》と《過去》の時制がしっかり使い分けられていることに注目しておこう。自分でこういうような経緯報告の文を書くときに、このスタイルがお手本になる。
次の文:
“We woke up and the mountain was black. It was completely charred,” Saeed said. “That land was planted with hundreds of olive trees, many of them were more than 70 years old.”
下線を引いた文は、実は文法的にはあまりかっちりしていない。 "olive trees" と "many of them" の間にandがあれば、あるいはここで使われているのがコンマではなくセミコロンであったならば、文法的にかっちりした形になるが、人が口頭で語ったことばなので、こういう書き方もありうる。意味は問題なくわかるだろう。入植者に放火された土地には何百本というオリーヴの木が植えられていて、その多くは70年以上そこに植わっていた――つまり、ざっくりと、1948年のイスラエルの建国より前からそこにあった木々だ。それを入植者は燃やしたのだ。
パレスチナのオリーヴは特産品で、外国でも売られている。つまり外貨獲得のための資源だ。余談だが、とても美味しい。 日本にも複数の筋で入荷している。
そしてその次の文:
“There is no way to describe how we feel in Burin after what happened,” he said. “This land, these trees, they are our whole lives, our heart and soul. They mean everything to us.”
"There is no way to describe ..." は「…を描写する方法がない」、つまり「…は言葉で表すことができない」という意味。この "describe" の用法はしっかり覚えておこう。
"how we feel in Burin after what happened" は《疑問詞節》で「あんなことがあったあとで、ブリン村で私たちがどんなふうに感じているか」。
「言葉で表せないほどショックを受けている」わけだが、その理由についてサイードさんは、「この土地、これらの木々、それは私たちの全生活であり、私たちの心であり精神でもあります。私たちにとってはそれらがすべてなのです」と説明している。
パレスチナの人々の生活そのものの、昔からずっとあるオリーヴ畑を、最近違法に建設された入植地の住民が燃やしてしまったのだ。
そしてこういうことは、今回初めて起きたわけではもちろんない。何度も起きている。
だがブリン村の焼き討ちについて、イスラエル側は「土地を燃やしたのはパレスチナ人自身である。軍の監視者が放火犯を目視し、捜索を行った」と説明している。サイードさんたち村人の見たこととはまるで違う。
今回のガザ地区でのアルジャジーラとAP通信の入っていた建物の爆破でも、イスラエルは実際にはまずありえないようなことを理由として述べているが(AP通信のようなガチのアメリカ筋の通信社が入居している建物に、ハマスが拠点を置くだろうか)、ブリン村でもそういうことをしているのだ。ブリン村だけではもちろんないのだが。
そしてイスラエル側のその(虚偽の)説明は、生活のすべてを燃やされた村人をひどく傷つけ、怒らせる。サイードさんはイスラエル軍のその説明に「嘘つきだ」と激怒して、次のように語る。「私も、ブリン村の何十人という住民も、自分の目で入植者を見たんですよ。(村の)若者の一人は、入植者の投げた石でけがをしてさえいる。それをどのように説明できるのでしょうか」
キャプチャの2番めのパラグラフ:
“We, the people of Burin, and our fathers and grandfathers before us, have spent decades and centuries planting this land, farming it, cultivating it, and taking care of it. Why would we ever burn it to the ground?” he asked.
太字にした部分は、《spend + 時間 + -ing》の形。「私たちブリン村の人間は、そして今の代の前、私たちの父親たちも祖父たちも、何十年何百年という歳月を、この土地に植物を植え、農地として耕作し、手入れをして過ごしてきた」の意味。
その次、"Why would we ever burn it to the ground?" の "would" は、everを伴って、強い気持ちを表している。「なぜ私たちが、それ(大切な土地)を焼き払おうとするでしょう(いや、そんなことは絶対にない)」の《反語》の意味の疑問文(修辞疑問文)である。
今回はここまで。
※3700字