このエントリは、2021年5月にアップしたものの再掲である。
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今回も、前々々回と前々回および、前回の続きで、ブリン村焼き討ちについてのMondoweissの記事を読んでいく。前置きの類は前々々回のエントリをご参照いただきたい。
さて、アルジャジーラとAPの入居していたオフィスビルがイスラエル軍によって爆破された件、イスラエル軍は「そこにはハマスが」云々と言っていたが、爆破から2日たってもまだ証拠を提示していないそうだ(日本語のマスコミ様の用語法ではここは「軍からの説明はない」と書くところだろう。必要なのは「説明」じゃなくて「証拠の提示」なんだけど)。アルジャジーラ・イングリッシュの記者でプレゼンターのハラ・モヒエディーンさんが次のようにツイートしている。
Morning all, just a reminder that our Gaza offices were bombed and destroyed 2 days ago. Israel has yet to provide any evidence to back up their claims that Hamas were in the building.
— Halla Mohieddeen (@hallamohieddeen) 2021年5月17日
実用英語としては、"Israel has yet to provide ..." の "yet" の用法に注目しておこう。
ガザ地区に関しては、2006年の議会選でハマスが第一党となって以降ずっと、イスラエルは「そこにはハマスが」を口実として、軍事的、経済的な攻撃の標的としてきたという事実・現実があるわけで、今回のこの件だけを単独のものと扱うわけにはいかない。実際、2008年~09年や2014年の大規模攻撃のときなども、イスラエル軍は「そこにはハマスが」という理由付けで集合住宅の破壊や、大勢の人々が自宅から退避して身を寄せている学校への爆撃(それもHE弾使うようなやつ)をやってきた。中には実際にハマスの戦闘員がロケットランチャー持ってそこにいたケースもあったかもしれないが、そもそもそこは戦場ではないのである。
……ということを書いていると英文法の話に行けないのでこの辺で。
今回も英語の実例として読む記事はこちら:
前回みたところだが:
このキャプチャ内の一番下のパラグラフで、ブリン村についての地理的な説明がなされている。日本語の文章ならこういう基本情報的なことは文章の最初の方に書くだろうが、英語だとこういうふうに、かなり読み進めたところでようやく出てくるということがよくある。これも英語の文章を読むときに慣れが必要なところであり、慣れと同時に、そこまでたどり着く前に、英文を読むのがいやになって読むのをやめてしまうといったことがないように、英語を読む力をつけておかねばならないところでもある。「読む力をつけておかねばならない」というより、「読むのが苦にならないようにしておく」というべきか。
Burin is located in a cluster of Palestinian villages south of Nablus city that are surrounded by a ring of illegal Israeli settlements and outposts, among them the notoriously violent and extremist Yitzhar settlement.
最初の3語、"Burin is located" で、この文はブリン村の位置について述べている文だとわかるので、そのあとは何が書かれているかをだいたい予測しながら読むことになる。"in a cluster of Palestinian villages" のclusterは、日本では新型コロナウイルスという文脈で「クラスター」というカタカナ語になってしまったので原義がわからないままこのカタカナ語を使っている人も相当数いるのではないかと思うが、元は「ぶどうの房」のようなものを言い*1、「いくつかのものがまとまっている」状態を言う。ここでは「ナブルス市の南に、いくつかのパレスチナの村が点在している中に、ブリン村もある」ということだ。
そのあと、太字で示した "that are" のthatは《関係代名詞》で、areという複数形に対応するbe動詞があるから先行詞は複数形、と見ていくと、先行詞は "Nabuls city" ではなく "(a cluster of) Palestinian villages" であることが判断できるだろう。
つまり、ナブルス市の南側は、パレスチナの村々が点在しているが、その周りをぐるっと取り囲むようにしてイスラエルが違法に建設してきた入植地が存在している。あとから作られた入植地に囲まれてしまった村々のひとつが、今回焼き討ちされたブリン村なのだ。
そして、それら違法入植地のひとつが、"the notoriously violent and extremist Yitzhar settlement" 「暴力的なことで知られる過激派のイツハル入植地」である。
記事ではこのあと4パラグラフにわたって、サイードさんの体験談という形で、入植者から村への暴力がいかなるものかが語られる。家畜に草を食べさせていると襲い掛かってこられ、家に投石され、家畜も襲われる。土地には火を放たれ、植物は枯らされ(除草剤)たり伐られたりし、車は燃やされる。
1960年代の北アイルランドで、カトリックの人々に対してプロテスタント側からこういう類の暴力が行使されたことがある。家に放火されて大勢が追い出され、コミュニティはプロテスタントしか住んでいない状態にされた。「カトリック系」の人々は、それを「ポグロム」と呼んでいる。「ポグロム」の意味は……ご自身でお調べいただきたい。1990年代以降の用語ならば「エスニック・クレンジング」もある。
そのセクションの次:
“This is all part of the settlers['] mission to instill fear in the Palestinian people, and to stop us from going to our land,” Saeed said.
"part of ~" は無冠詞で「~の一部」という意味でよく用いられる。
That was part of our plan.
(それもわれわれの計画のうちだったのだよ)
下線で示した "to instill" は《to不定詞の形容詞的用法》で、"the setllers mission" を修飾している。なお、今気づいたのだが、ここで "setllers'" と最後にアポストロフィをつけて所有格にすべきところ、アポストロフィが脱落している*2。よくあるミスだ。
そのあと、太字で示した "stop us from going ..." は《stop ~ from -ing》の形で「~に…させない」の意味。
入植者による村人への暴力は、「パレスチナ人の間に恐怖を植え付け、パレスチナ人が自分たちの土地(畑、果樹園など)に通うのを阻止するための入植者の使命・任務 (mission) の一部なのだ」というのである。
このmissionが難しくて、ガチの翻訳ならここで訳語の確定に小一時間では済まないくらいの時間がかかるだろう。軍のmissionならば指揮命令系統があっての「任務」ということになるが、ここではそうではない。入植者は「過激派」と呼ばれるがそれは宗教的な過激派で、彼らのmissionは宗教的なものである……というところから始めて、資料をひっくり返し、先行訳を調べる、ということが必要になってくるところだ。
このブログではそこまでしないが、「翻訳」という作業について、「英語だけできたってダメなんですよ」っていうのはこういうところを言うのであり、英語ができるのは当然のこと、コンビニのおにぎりを食べるときに包装のビニールを外すことができるのと同じくらいに当然のことである。
サイードさんの言葉を紹介しているパラグラフのその次の部分:
“If we stop going to our land, then they can take it for themselves. And that is what they want.”
ここで太字にした "(we) stop going" は、上の "(they) stop us from going" とは違って、よりシンプルな、「~することをやめる」の意味。stopはこの意味のときは動名詞しか目的語にとらない語(いわゆる《MEGAFES》または《MEGAFEPS》)のひとつである。
これについて私は高校に入ってすぐに混乱してしまい、授業後に英語の先生(とても厳しい、おっかない先生だったが、明晰でわかりやすかった)に質問しに行って、そこで「目的語」という文法用語をわかってないと英語なんかできるようにならないということを知ったのだった。どういうことかというと:
She stopped to breathe.
これは「息をつくためにやめた」の意味で、このstopは文脈により「(話を)やめた」とか「(走るのを)やめた」ということなのだが「何をやめたのか」は明示されない形。これが、私がもっと後になってからようやく知る(そして中学の時に教えてくれてればよかったのにと思った)「自動詞」というものの性質である。自動詞は目的語をとらない(目的語をとらないものが自動詞と呼ばれる)から、この文の "to breathe" は目的語ではなく、副詞句(to不定詞の副詞的用法)。
一方で:
She stopped breathing.
これは「息をすることをやめた」の意味で、stopは目的語をとる他動詞、"breathing" は目的語であり、この場合、例えばbegin -ing/begin to do ~のようなものと違って、-ing形をto不定詞に置き換えることはできない。「stopは目的語としては不定詞ではなく動名詞をとる」というのはこのことである。
と、ざっとこういうことを、ほんの数分で高校生のころの私に納得させたのが、文法用語であった。
って、何か余談みたいなことを書いてるうちに4900字になってしまった。Mondoweissの記事は今回で読み終えたかったんだけど、次回に持ち越します。
※4900字