このエントリは、2020年7月にアップしたものの再掲である。補助的な情報についてリンク切れの箇所もあるが、そのままで再掲する。
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今回の実例は、先日「国家安全維持法」が作られてしまった香港の最新の動きに関する報道記事から。
香港ではこの9月に議会選挙が予定されていて、民主派は、それに向けた予備選(候補者選定の選挙)を先の週末に実施した。これについては日本語でも報道が出ている。下記は共同通信のごくごく短い記事:
この予備選について英BBCが出している記事を、今回は見てみよう。記事はこちら。
香港とは特別な関係にある英国(1997年7月1日まで、香港は英国の直轄植民地だった)は、この件に関して完全な「外国」とはちょっと違った立場にあるが、BBCではほぼ毎日香港情勢についての報道記事が出ていて、それらを見ていると日本語圏の報道を見ているよりずっと密度の高いたっぷりした情報を得られる。下記のURLで毎日の記事が一覧できるので、関心がある人はここを毎日見るようにしておくとよいだろう。
https://www.bbc.com/news/topics/cp7r8vglne2t/hong-kong
実例として見るのは、記事の最後の方から:
Sunny Cheung, one of the candidates, told the Reuters news agency that a a[sic] high turnout would "send a very strong signal to the international community, that we Hong Kongers never give up".
aがダブっている箇所があるが、これはただのタイポ(タイプミス)である。
下線で示した《one of the + 複数形》の形は、自分で英語で何かを書くときに迷いなくすっと書けるようにしておかなければならない。単数形にしてしまったりしないよう、意識しておくことが必要だ。
one of the books I bought yesterday
(私が昨日買った本のなかの1冊)
今回の例では、この "one of the candidates" というフレーズがコンマ2つで挟まれて《挿入》されている。「候補者の1人であるサニー・チャンは、ロイター通信に語った」という意味である。
さて、この文にはthatが2つ出てくる(太字)。それぞれの用法がわかるだろうか。友達と勉強の教えあいをしたときに、友達がわかるように説明することができるだろうか。
最初のthatは、tellの目的語となるthat節を導く接続詞のthatである(文の骨格を示すと、"Sunny Cheung told the Reuters news agency that ..." となる)。
2番目のthatは、その直前のコンマはおそらく話すスピードを忠実にうつしたもので、文法としてはイレギュラーであるので無視して考えてよい。この部分、カッコを使って整理してみると、次のようになる:
... send a very strong signal ( to the international community, ) that we Hong Kongers never give up
おわかりだろうか。"to the international community" が間に挿入されているが、構造としては "a very strong signal that ..." の形。つまりこのthatは、《同格》のthatである。「私たち香港人は決してあきらめないという非常に強いシグナルを、国際社会に送る」という意味である。
なお、この文で使われている引用符は、発言者の発言そのものをそのまま書き取っていることを示している。
次の文:
Eddie Chu, an opposition pro-democracy politician, called the vote a "proxy referendum against the national security law".
この文、少し長いように見えるかもしれないが、《SVOC》の文型で《call + O + C》という構造だ。「エディ・チュウ氏は、投票を、『国安法に対する代理のレファレンダム』と呼んだ」という意味。「レファレンダム」は「国民投票」というのが定訳だが、「国」単位で行われるのではないときは「住民投票」とする。これだけでは意味がわかりづらいかもしれないが、その「国民/住民投票」の内容を考えれば、「賛否を明らかにする投票」ということなので、チュウ氏の発言の内容もわかるだろう。
なお、この文も、コンマ2つで《挿入》のフレーズが入っている。この《固有名詞, 説明, ...》というパターンは、報道記事や説明的文章では非常によく出てくる。例えば今さっき読んだ記事には、次のような一文があった。太字にしたところが《固有名詞, 説明, ...》の形だ。
Results on Sunday showed the actress Aishwarya Rai Bachchan, a former Miss World, and her daughter Aaradhya, eight, were infected with coronavirus.
英語はこうやって次々に情報を付け足してくるのだが、この形をそのまま日本語に直訳すると何だかもっさりしてしまうことが多い。もっさりした結果、あまりに意味がおりにくい日本語になってしまうこともよくあるが、大学入試での下線部和訳でそういうもっさもさの文になってしまうときは、意味を変えないように、適宜調整してもよいだろう。
次の文:
The full turnout is expected to be announced early on Monday, with results coming shortly after.
下線で示した《be expected to do ~》は、《expect ... to do ~》を受動態にした形で、この《to do ~》の不定詞が受動態の形、つまり《to be + 過去分詞 ~》になっている。
They expect the full turnout to be announced ...
→ The full turnout is expected to be announced ...
次、太字で示した部分は、もう説明がいらないくらい何度も取り上げている項目だが、《付帯状況のwith》だ。
というわけで、この文の意味は「完全な(=最終的な)投票率は、月曜日の早い時間帯に発表され、(投票の)結果はその少し後に出されるることになっている」。
その次の文:
But there are fears among opposition activists that the authorities will move to prevent some candidates from running in September.
これも今回、上の方で見たのと同じ構造の《同格のthat》の例。"fears that ..." (「…というおそれ」)のfearsのあとに、"among opposition activists" が入っているために、thatとの間が空いてしまっているわけだ。
下線で示したところは、この上もなく美しいといってよいくらいの《prevent ~ from -ing》の例。「一部の候補者を、9月に立候補することから妨げる」と直訳される。
この記事で報じられている「予備選挙」については、Twitterで当日、現地からの報告(映像多数)がまとめられている。
https://twitter.com/i/events/1282173052940214272
参考書: