今回の実例は、前回みたのと同じ、ブラジルでの環境保護活動を標的としていると思われる殺人事件についての記事から。文脈などは前回のエントリをご参照のほど。
ところで、前回のエントリのTwitterフィードと前後して、2016年(6年前)にホンジュラスで起きた環境保護運動家のベルガ・カセレスさん殺害事件について、すでにずっと前に有罪と判断されていたロベルト・ダビド・カスティーリョ*1被告に禁固22年が言い渡されたとの記事フィードがあった。
被告は国軍情報部の将校で水力発電会社のトップで、自宅で射殺された被害者は地域に元から暮らしてきた先住民で環境保護活動に取り組んできた人で、ダム建設に反対していた。これを報じるガーディアン記事によると、最高刑としては25年がありえたところ、22年と短い刑期になったそうだ。カセレスさん殺害で有罪になるのはこれで6人目で、1人を殺すのにどれほどの規模で陰謀がなされるかというところだけでもぞっとする。ちなみに、カスティーリョ被告は、誰も驚かないと思うが、米国で訓練を受けた情報将校だったそうだ。そう聞いて驚いちゃう人は、下記の本などをご参照いただきたい。21世紀のロシアの悪行の影に隠れてしまっているが、米国がめちゃくちゃなことをやってきたことは事実である。何でもかんでもカルトの世界観みたいな善悪二元論にしちゃう「わかりやすい」説明があふれている中では、現在、「ロシアは悪、ロシアに対抗する勢力は善」みたいなムードが醸成されていて、「ロシアは悪」と言い切らない人々に対して一律「陰謀論者」とレッテルを貼るようなことすら頻繁に見られるが、そのようにして「陰謀論者」と断罪される人々の中には、20世紀の米国の所業を知って「とりあえず米国は悪」という前提を自分の中で揺るぎ難く構築してしまった人々もいる。ちなみに私は「ロシアの国際法違反は悪」と言い切るが、「悪に対抗するのは善」とかいうバカげた世界観は持ち合わせていない。「悪」に対抗するものが「善」であるわけでも、「善」になるわけでもない。違法かどうかは「善悪」の話ではない。
閑話休題。
今回見る記事はこちら:
前回は書き出しのところを見たが、今回は少し読み進めていったところから。
キャプチャ画像の最初の文:
If anything positive can come from the mind-numbingly horrendous news, it should be for more journalists to cover this frontline, especially those regions controlled by leaders aligned with criminal interests.
"if" で始まっているが、このif節は動詞が "can come" と現在形なので、仮定法ではなく直説法、つまり「仮に~であるならば」と《実現していないことや実現しそうにないこと》を言うのではなく、ごく普通に「もし~なら」と《条件》を言う。この両者の区別を、「仮に~」と「もし~」という文字面だけでつけていると、たぶん実用にはならない。実現や事実にかかわる枠組みを参照して判断するクセをつけておこう。
"the mind-numbingly horrendous news" は、この文章で扱っているドム・フィリップスさんとブルーノ・ペレイラさん殺害のニュースを指す。単に "the news" と書かず、"mind-numbingly horrendous" という《副詞+形容詞》を添えて書くことで、筆者の判断を読者と共有している。こういう英語の文章を日本語に直訳すると、いかにも「翻訳臭い」文体ができあがりがちである。また、mind-numbing(ly) という複合語を、日本語圏でちゃちゃっとネット検索して済ませようとすると「〈主に英話〉〔仕事などが〕極めて退屈でつまらない」という「訳語」が提示されてしまうようだが*2、今回のこの文脈ではもちろんそんな意味ではない。mindをnumbする、つまり「心・精神を麻痺させる」ということで、日本語にすれば「何も考えられなくなってしまうくらいに」といったような意味になる。
if節内の主語の "anything" は、《肯定文内でのany》で「何らかのこと」の意味。「何か一つでも」くらいの強いニュアンスがある。
というわけでif節の意味は「この、思考停止してしまうほどに恐ろしいニュースから、何かひとつでもポジティヴなものが生じるとしたら」。
続いて主節。これは、キャプチャ画像を見た瞬間に、下記で太字にしたところが浮き上がって見えていてほしい:
it should be for more journalists to cover this frontline, especially those regions controlled by leaders aligned with criminal interests.
ここで気を付けてほしいのは、これは《it is ~ for -- to do ...》の形式主語の構文ではない、ということである。見た目はその形になっているが、この文の主語のitはto不定詞以下を受ける形式主語ではなく、if節の "anything" を受けた「それ」という意味の代名詞である。
つまりこの文は、《主語 is to不定詞》という構文で、主語が "it", 動詞がisではなく "should be" という法助動詞を使った形になっていて、to不定詞に意味上の主語がついている形だ。
直訳すれば、「それは、より多くのジャーナリストが、この前線を取材することであろう」という意味となる(ただしshouldの訳し方についてはかなり幅があるだろう。その検討をするのは「翻訳」の分野のことである)。
そのあとに《コンマ》を使って補足されている "especially those regions controlled by leaders aligned with criminal interests" は、文構造としては "this frontline" の具体化の形で、直訳すれば「この前線、とりわけ、犯罪の利害と同盟したリーダーたちによってコントロールされているそれらの地域」。
何かぼやっとした、最近の日本語で言うと「臭わせ」の文体だが、その具体的な内容は、この文の先を読んでいくとはっきりする。キャプチャした部分の後半だ。文法的に解説できるポイントは特にないので(あるとしたらandによる接続くらいで、その項目は前回説明した)、文意だけを示しておくと、「ドムは、ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領による脅威を認識していた。同大統領は違法な樹木伐採・鉱物採掘を奨励し、先住民の土地の権利を退け、環境保全グループを攻撃し、熱帯雨林と先住民の保護にあたる政府機関の予算と人員を大幅カットした」。
というわけで次回もジョナサン・ワッツ記者によるこの文章の先を読んでいこう。
なお、この文章は、書き出しに "Dom Phillips and Bruno Pereira have been killed in an undeclared global war against nature and the people who defend it." とある通り、「戦争」の比喩(暗喩)で書かれている。今回見た部分では "frontline" が戦争用語だし、"threat" もその文脈で使われる語である。
※3500字