このエントリは、2021年3月にアップしたものの再掲である。リンク切れもそのままにしてある。
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今回の実例は、報道記事の見出し。
先週のことだが、アメリカのプロゴルファー、タイガー・ウッズ選手が、自分で車を運転中に事故ったというニュースがあった。車は横転して大破し、ご本人は両脚に大けがを負ったが、幸い、生命に別条はなかった。
この事故の第一報は私は見ていないのだが、ウッズ選手のけがの程度がはっきりしていない段階での報道はBBC Newsのフィードで見ていた。最初はよくわからなかったが、救急隊・消防隊が、横転した車のフロントガラス*1を割るか何かして、車の中の何か(シートベルトか何か)を切断して救出し(このことが、"be cut free from the vehicle" という英語表現で表されていた)、そのまま病院に搬送して即手術となったということが、英国のBBC Newsのウェブ版でもほぼリアルタイムで報じられていた。そのときの映像:
そのころに見た記事の見出しが下記だ。(なお、以下キャプチャ画像は、写真はモザイクをかけてマスクする加工を施してある。)
"Woods has surgery after car crash" と現在形である。
英語の報道記事では、過去のこと、既に起きたことを表すときに現在形を用いるという原則がある。対するに、未来のこと、まだ起きていないが起きる予定であることを表すにはto不定詞を用いる。
例えば、先日NASAの火星探査車が無事に火星に降り立ったが、それについては、「今日これから、着陸する(見込みである)」というときは、"NASA rover Perseverance to land on Mars today" と表し、無事に着陸が成功した後での報道では " NASA rover Perseverance lands safely on Mars"*2 となる。
この原則で考えると、"Woods has surgery after car crash" は手術が完了したときに使う見出しだということになるが、実はそうとは限らない。「手術を受ける」というのは「火星に降り立つ」のように一瞬・短時間で終わることではなく、ある程度の長さを前提とすることで、手術中である場合にもこのように現在形で表されるからだ。
ウッズ選手のこのケースでは、実際、手術中の段階でこういう見出しになっていた。
そのときの記事:
リード文(記事の書き出しの文)に注目してみよう。
Tiger Woods has been undergoing surgery after suffering "multiple leg injuries" in car crash in Los Angeles.
このように、《現在完了進行形》が用いられている。ということは、私が見たこの記事が書かれた時点では、まだ手術は終わっていなかった(進行中だった)ということだ。
「報道記事の見出しで現在形が使われているときは、過去に起きたこと、既に完了したことを表す」というのは原則ではあるけれども、常にそうとは限らず、「既に行われ始めているがまだ完了はしていないこと」という、現在完了・現在完了進行形の意味であることもある。このことは、「見た目は現在形なのに、中身は過去のこと」というほど際立って特徴的ではないから見落とされがちかもしれないが、英語を媒介にして日々のニュースを追う場合には、知っておくべきことのひとつである。
今日は短いけどこれでおしまい。毎日このくらいにしたいのがほんとのところ。
※約1700字。
関連書籍:
*1:広く知られていることだが「フロントガラス」は和製英語で日本でしか通じない。英語圏ではwindscreen (UK) またはwindshield (US) と表す。どちらも「風よけ」「風防」の意味だ。
*2:英文出典: https://www.mercurynews.com/2021/02/18/nasa-rover-perseverance-lands-safely-on-mars/