このエントリは、2021年4月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、報道記事から。いやあ、あの作業を最初ずっと1人でやっていたとは、この報道を見るまで、知らなかった。というか、複数台の作業車があるのが、たまたま写真では1台しか写っていないのだと思っていた……。
というわけでいきなり本題。「あの作業って、どの作業ですか」と思われただろうが、写真を見ていただくのが一番早い。これですよ、これ。
"I feel profoundly proud of what I did. I hope you all are proud of me as well." Meet the excavator operator who helped unblock Suez Canal https://t.co/khwAyUwsuJ
— The National (@TheNationalNews) 2021年4月5日
「スエズ運河を再び通れるようにするために貢献したショベルカーの運転手にインタビューしました」というこの記事のフィードは、The Nationalという英語メディアのフィードである。
The Nationalという媒体は世界でいくつかあるのだが、そのひとつがUAE(アラブ首長国連邦)の英語メディアで、本拠はアブダビにあり、中の人たちは英国や米国の大手メディアで仕事をしてきたジャーナリストたちが多い。編集長はミナ・アル=オライビさんという女性のジャーナリストで、イラク系英国人である*1。
Twitter cardの部分に示されているように、あのショベルカーを運転していたのはAbdallah Abdelgawadさん(「アブダラー・アブデルガワド」さんとお読みするのだと思う)。彼はスエズ運河の保守管理をする会社で契約社員(あるいは日雇いの作業員かもしれない)として働いていて、月収は3000エジプト・ポンド、米ドルに換算して190ドルだそうだが、日本円に換算すると21,000円くらいだ。エジプトの水準でも決して高給取りというわけではないだろう。コンテナ船エヴァー・ギヴン号が座礁した日の朝、彼がいつものように出勤すると、「船が座礁しちゃったから今日は現場には入れない」と言われて、いったんは会社の寮に戻ったのだそうだ。その後、彼個人に電話があって、他の部分の作業と並行して、船首の周囲の土砂をショベルカーで除去する作業をやるように依頼されたのだという。たぶん、ショベルカー運転の技術が高い人なのだろう。
で、そういう場合、作業チームを作って複数でローテーションを組むものだと思うが、当初なんとその仕事を割り振られたのは彼一人*2。その後、アブデルガワドさんはごく短い睡眠時間しかとらずに、あの巨大な船がいつグラっと傾いたりしてつぶされてもおかしくないという過酷な環境の中で、あの大変な作業を乗り切った。
記事はとても読みやすく、英語も難しくないので、ぜひ全文を読んでいただきたいと思う。TV番組になりそうな話だ。
今回実例として見るのは、記事の最初の方の部分から。 上で日本語でざっと説明したことが書かれている部分なので、英語としてざくざく読んでみてほしい。
英文法の実例として見るのは、下から2パラグラフ目より。
An hour later, Mr Abdelgawad received a call from his manager at the contracting firm for which he works, asking him to head to the canal’s eastern bank immediately.
太字で示した部分は《前置詞+関係代名詞》の構造。この英文は、見てサクっと「彼が働いている会社」という意味が取れれば、それでよい(下線部和訳などの場合は、contracting firmをどう訳せばいいかというハードルもクリアしなければならないが、読んで内容を把握するだけなら、とりあえずざっくり「会社」でよい)。サクっと意味が取れない場合は、次のように分析して考える。
the contracting firm for which he works
→ the contracting firm which he works for
→ he works for the contracting firm
この3段階の分析の3段目が普通の文で「彼はその会社で働いている」。それが「会社」を先行詞とする関係詞の構造になると「彼が働いている会社」になるわけだ。
次。下線で示した "asking" は、《分詞構文》に見えるかもしれないが、そう解釈すると、askの主語がMr Abdelgawadということになってしまって意味不明になる。
ここでは "asking" は分詞構文ではなく、《現在分詞の後置修飾》で、かなり離れたところにあるが "a call" を修飾している。つまりこの文はこういう構造だ。
Mr Abdelgawad received a call [ from his manager ( at the contracting firm / for which he works)], asking him to head to the canal’s eastern bank immediately.
文意は「アブデルガワドさんは、彼が働いている請負会社のマネージャーから、すぐに運河の東岸に向かうよう要請する電話を受けた」となる。
私が高校2年の時なら、この英文にはちょっと手こずって、日本語にするのは10分では終わらなかったのではないかと思うが、大学を受けるころには1分もかからずにできるようになっていたはずだ。受験生のみなさんには、そのくらい力をつけることを目標にしてもらいたい。今日できないことは、明日、あるいは来週はできるようになるように。
※2900字