今回の実例はTwitterから。
ロンドン市内の地名がTrendsに入っていたので、何か事故でもあったのかと見てみたときに目にしたツイートに、「重要構文」が入っていた(ちなみに、その地名がTrendsに入っていたのは商業の話題*1で、事件事故の類ではなかった)。
この「重要構文」は、日本では高校1年か2年で「構文」または「熟語」として習うが、そのとき、その英語をそのまま日本語に「直訳」するとわけがわからないので、日本語としてすっと意味が通るよう調整された(「意訳」された)ものが、「対訳」として提示されている。そしてその「対訳」が元の英語のフレーズとかけ離れているので、教わる側は「わけのわからないもの」「難しいもの」という第一印象を抱いてしまうことが、とても多い。実際私自身も、最初にこれを習ったときは「英語ってわけわかんない」と思ったものだ。
だが、普通に論理的に考えれば(つまり、「対訳」を見て「熟語を暗記する」のではなく)、そんなにわけのわからないものではないし、難しいものでもない。文法上のポイントとして注目できるのは、《前置詞+動名詞 (-ing)》が使われていることくらいだ。あとは論理ですっと納得できるような、素直な表現である。
can't do A without doing B, 前置詞+動名詞
Can’t listen to this song without thinking of @*********2 and I walking along Oxford Street & Tottenham Court Road singing along to musical bangers
《can't do A without doing B》が、導入部で述べた「重要構文」だ。
直訳すると、「Bすることなしで、Aすることができない」。
意訳すると、「Aすると必ず、Bする」。
この「直訳」と「意訳」の両者がすっと結びつけば問題ないのだが、結びつかないとわかりづらくなってしまう。
わかりづらい場合は、一段階シンプルなものに置き換えて考えればよい。《without -ing》を普通に《without + 名詞》にした例を考えてみよう。例えば「スマホなしでは、友達と連絡を取れない」なんてのはどうだろう。
I can't keep in touch with my friends without my smartphone.
これの下線部を、《without -ing》の形にしてみよう。
I can't keep in touch with my friends without using my smartphone.
これを直訳すると、「スマホを使うことなしでは、友達といつでも連絡を取れるようにしておけない」となる。この日本語を言い換えると、「友達といつでも連絡を取れるようにしておこうと思ったら、必ずスマホを使う」となる。
この例だけでは納得できなければ、いくつでも、納得できるまで自分に身近な例で考えてみるとよい。「ボールがないとサッカーはできない」⇔「サッカーをしようと思ったらボールが必要だ」、「猫をモフってからじゃないと眠れない」⇔「眠る前には必ず猫をモフる必要がある」、などなど……。
というわけで、今回の実例の文の:
Can’t listen to this song without thinking of ~
の部分は、「~のことを思わずに、この曲を聴くことはできない」、つまり「この曲を聴くと、必ず~のことを思い出す」となる。
動名詞の意味上の主語
続いて、その "without thinking of ~" の "~" の中を見ていこう。"~" はofという前置詞の目的語だが、ここが "walking" という動名詞になっていて、その動名詞の意味上の主語がその直前に置かれている。普通の文章なら "John and I walking along..." などと書くだろうが、Twitterでは人名をアカウント名で表記するのが普通なので、"@アカウント名 and I walking along..." という形になっている。
@******** and I walking along Oxford Street & Tottenham Court Road singing along to musical bangers
なお、最後のsingingは動名詞ではなく現在分詞で、「歌いながら」という意味を表している(分詞構文)*3。
したがって、この部分の全体的な意味は、「*******と私が、ミュージカルの名曲の数々を(スマホで再生させて)一緒に歌いながら、オックスフォード・ストリートとトッテナム・コート・ロードを歩いたこと」という意味。bangerは、英和辞典には載っていないのだが、俗語としては "If a Song is extremly tight or just unbelivably awesome. It is a banger" とのことで、つまり「名曲」ということになる。
オックスフォード・ストリートはロンドン中心部の大通りで、道の両側には大手デパートやチェーン店、個人経営の土産物屋などが並んでいるが、大通りとしてはその1本南にあるシャフツベリー・アヴェニューの一帯が劇場街で、ミュージカルも含め舞台劇を連日連夜上演する劇場がたくさん並んでいる。ここにある地図で様子が確認できるだろう。そういう地域を、ミュージカルの名曲を歌いながら歩いたら、なるほど確かに、忘れられないほど楽しい思い出になりそうだ。
Can’t listen to this song without thinking of @narrynipslip and I walking along Oxford Street & Tottenham Court Road singing along to musical bangers pic.twitter.com/WDm5ijLU0n
— 💫 (@fireproofamber) February 5, 2019
《can't do A without doing B》の構文は、Twitterで検索するとリアルな英語の例文がたくさん見つかる。いくつかエンベッドしておこう。
i really can't listen to this song without having to hold back tears pic.twitter.com/ucCS7JfNxB
— jess (@Jesse_McEuen) February 10, 2019
I listened to Somewhere Out There and I immediately cried. I can't listen to this song without crying. 😢😢😢
— Gwen (@gwenctzen) February 13, 2019
Mercury Rev were mentioned on a Twitter thread today and I started thinking about this song. Turns out I still can’t listen to it without being overwhelmed by a huge wave of sadness that makes me catch my breath.
— Lorna (@reallylolo) February 14, 2019
Mercury Rev - The Dark is Rising https://t.co/SclQbSIdpx
This song reminds me of this one dood .. and now Everytime I listen to this it reminds me of him and I kinda sorta hate that bc now I can't listen to this song without thinking of him .. and ok there thats all I had to say 💀💀💀💀💀💀💀💀💀💀 pic.twitter.com/FOR8MRTc4k
— Itzel ❤️ (@obitzeel) February 8, 2019
Track 11: Thank U, Next
— got suspended (@fatintheoutside) February 9, 2019
I can't listen to this song without getting bored now. It's aged really quickly and I find it annoying now. But when it did get released, I liked it. The name drops were great. (6/10)
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*1:HMVの創業の地であるOxford Street店が閉店する。See:
HMV partially saved but 27 stores – including Oxford Street – are closing - NME
*2:原文では伏字になっていないが、個人のアカウント名なのでここでは伏字にする
*3:今気付いたのだが、このツイートは、「3つ出てくる-ing形の中で他のものと違うのはどれか」という問題の素材にもできそうだ。