Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

would rather do ~ than do ..., have + O + 過去分詞(Brexit混乱を助長してきた北アイルランドの政党DUPのびっくり発言)

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今回の実例は、2019年3月末に混迷を極めていたBrexit情勢の一コマを伝える(というか、報道直後、全英を唖然とさせた)報道記事から。

記事に出てくるDUPとは、北アイルランドの政党 the Democratic Unionist Partyのことである。この政党名は日本語では「民主統一党」などと表されることが多いが、この表記はミスリーディングなので、「DUP」と表すほうがよいだろう(この党のいう「民主」の概念も「統一」の概念も、北アイルランドという背景を知らないと正確につかむことができない)。少なくともUnionistは「統一」ではなく「ユニオニスト連合王国の『連合』の維持を主張する人々)」のことである。

記事はこちら: 

www.belfasttelegraph.co.uk

 

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2019年3月30日、the Belfast Telegraph

最初の1文に、重要な文法事項が2つ入っている。

The DUP has said it would rather have Brexit cancelled than risk Northern Ireland’s position within the UK.

would rather do ~ than do ...

《would rather do ~ than do ...》 は、「…するよりむしろ、~する」の意味。「…」とか「~」とかの記号ではわかりづらければ、《would rather do A than do B》 とアレンジすることをおすすめする(「Bするよりむしろ、Aする」)。

「…するよりむしろ、~する」は、日本語を言い換えれば、「…するくらいなら、~する」と言うことができる。これは単に「このラーメンに800円出すくらいなら、1000円の定食にするかな」といった気軽な場面でも頻繁に用いられるのだが、「『~する』のはまっぴらごめんだ」と、「~する」ことを強く拒絶する意味合いを持つこともある。つまり、マンガのセリフにでもありそうな「おまえに渡すくらいなら、この金は投げ捨ててやる」とかいった場面にも使える表現だ。

  I would rather die than give you control. *1

  (お前に動かされるくらいなら、死んだ方がましだ)

 

このthanのあとの動詞の原形は《原形不定詞》である。江川泰一郎『英文法解説』では「原形不定詞を含む慣用表現」のひとつとして、下記の例文を使って解説している(p. 338)。

I would rather starve than work for that company. 

(あんな会社のために働くくらいなら、飢え死にするほうがいい)

 

英文法解説

英文法解説

 

 

have + O + 過去分詞

《have + O + 過去分詞》は、「Oが~される(された)状態にする」という意味。訳し方は文脈に応じてバリエーションがあり、「Oを~してもらう」とか「Oを~される」などと訳出可能である。

例えば "She had her bicycle repaired." は、「彼女は自転車を修理された状態にした」という意味だが、自然な日本語にするなら「彼女は自転車を修理してもらった」だろう。ただし、自転車置き場に置いておいたのを誰か親切な人が勝手に修理してくれたのなら「彼女は自転車を修理された」という日本語になる(そんな状況はまず生じないにせよ)。また、この文の主語の彼女がどこかのお嬢様で、自転車の修理を召使に命令したのなら「彼女は自転車を修理させた」という日本語になる。

"She had her hair cut."*2 なら、通常は「彼女は髪の毛を切ってもらった」ということになるだろうが、何らかの状況で「彼女は髪の毛を切られた」ということもありうる。

いずれにせよ重要なのは、「自転車が修理された」、「髪の毛が切られた」という《受け身》の関係を理解することである。

で、日本語をぞんざいに扱っていると、Oと過去分詞の関係にある「~される」、つまり《受け身》と、haveの部分に含まれることがある「~させる」、つまり《使役》とがごっちゃになり、言語情報として頭で処理できなくなってパニックになる。それを避けるためには、「される」と「させる」を明確に区別するという、英語以前の日本語の能力が必要だ。この部分が欠けている場合は、そこを訓練しなければならない。その訓練のためには、「犬にボールを拾ってこさせる」と、「ボールは犬に拾われる」の違いを論理的に考えてみるなどの方法がある。

 

今回の実例にある "have Brexit cancelled" は、「Brexitをキャンセル(中止)させる」の意味。「DUPは、UKの中での北アイルランドの位置(地位)を危険にさらすくらいなら、英国のEU離脱を中止させたほうがましだと述べた」のである。

 

北アイルランドのユニオニズムは「連合」とか「統一」とかの概念がまぎらわしくてなかなかわかりづらいようだし、日本語の報道などでも十分にわかってる書き手は多くはない。ちゃんと理解するには日本語を介さず英語で百科事典的なものを読むのがよいが、日本語でも主に学術分野ですぐれた著作があるので、関心があれば手に取っていただきたい。 

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*1:英文出典: http://www.nin.wiki/Head_Like_A_Hole_(song)#Lyrics

*2:このcutは過去分詞。